838.青の二番 再び
『開始から四十五分……そろそろ、オッペンハイマー様から頂いた駒を動かすか』
まさか、あんな物を用意されていたとは。
突発クエストの舞台に、奴等を転送する。
『それにしても、NPCだけの突発クエストに奴等を投入できるとはね』
俺にとっては好都合だが、トライアングルシステムによる審査基準は、甘いのか厳しいのか判らんな。
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「“溶岩支配”」
“ダイナビッグブレイド”に仕込んだ偽の“マスターアジャスト”の力で、スカルモンスターの群れを排除。
「たく、どういうつもりなんだか」
首からぶら下がる、二つのロザリオを撫でながら独りごちる。
ロザリオを見付けるのが最大の難点かと思いきや、早々と、それも余分に手に入れる事が出来ちまった。
「私らNPCに消耗戦は大して意味が無いと解っているだろうし、ひたすら時間まで耐え忍ぶだけとか」
偽“マスター・アジャスト”の存在を失念していたとしてもおかしい。
「バルバザード様」
駆け付けて来たのは、レミーシャ。
「おう、無事だったか……レミーシャ、ロザリオは?」
赤のロザリオしか付けていない。
「実は……一つも見付けられておらず」
本気で申し訳なさげ。
「ほら、受け取れ」
青のロザリオを投げ渡す。
「よろしいので?」
「まだ一つずつあるからな」
「ありがとうございます」
これで、レミーシャも身体を乗っ取られる事は無くなった。
その身体を乗っ取られるってのも、具体的にどういう事なのかは判らんが。
「ロザリオも余ってるし、そろそろ仲間との合流を優先――」
感じた悪寒の正体を探るべく、即座に視線を向ける!
「……青いドラコニアン」
ナノカが言っていた、スキルを使う奴か!
『グルル――“暗黒弾”』
“ダイナビックシールド”で防いだ瞬間、不可視の力を叩き付けられて家屋に激突ッ!!
「“プラズマロイドB”! “音階”――ド・シ・ラ!!」
レミーシャが注意を引いてくれるも、念能力によって容易く防がれている。
アルファ・ドラコニアンと同等の念能力なら、神代文字を使えないレミーシャの身体は今頃、無惨にも引き千切られていたはず。
ナノカの想定通り、奴の念能力はアルファ・ドラコニアンと比べて数段劣るらしい。
「だったら――“飛竜剣”!!」
斬撃を念能力で防がせ、畳み掛ける!
「“溶岩火龍”! “溶岩柱”!」
「“周波数魔法”――フリークェンシースプランター!」
レミーシャと共に攻め立てていく!
「“溶岩鎚術”――マグマブレイク!」
『“暗黒弾”』
私の“ダイナテイルハンマ”の一撃を迎撃しつつ、距離を取られてしまった!
「足りないな、手数が」
レミーシャ、プラズマロイドB、私の三人だけじゃ。
「“低周波領域”!!」
青いドラコニアンの周囲に、レミーシャがデバフ効果のある範囲スキルを使った?
「私は弱体化に努めますので! 支配の能力を!」
「なるほど――“溶岩支配”!」
生み出した溶岩を、四方八方からドラコニアンに纏わり付かせる!
念能力で防ぐしかないから、その場に釘付けにすることには成功したけれど……決定打に欠ける状態。
「これなら――“贋作”、“エンド・オブ・ガイアソード”」
レミーシャがユニークスキルを使った!?
「“大地支配”!」
青いドラコニアンの頭上に、巨大な大地の杭が!
「――おさらば」
超重量、超質量の大地の直下に、奴の念能力ではろくに抗えず……逃げ場のないドラコニアンは半身を潰され、直後に念能力が途切れて溶岩に呑み込まれていった。
「……危な」
ここに第三者が仕掛けてきてたら、やられてたのは私達だったかもしれない。
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「“逆三暗黒宮”!」
“精気食らいの大妖刀”を装備することで周囲からMPを吸収しながら、MP消費のスキル主体で雑魚共を片付けていく。
この大刀は、周囲だけじゃなくアタシの魔法、準魔法の威力まで半減させちまうから、魔法を使わないアタシ向き。
「レンと別れたの、失敗だったかね」
クエストが始まってすぐに合流してしまったから、ロザリオを手分けして探すのを優先しちまったんだが。
「こっちに戦闘音が近付いて来てんな」
誰だ?
「“大氾濫槍”――“氾濫投槍術”、リバージャベリン!!」
氾濫系の能力を駆使して戦ってるって事は、襲われてんのはリンカか!
「――ぁああッッ!!」
軽く十メートルは吹っ飛ばされてきて、【巨骨村】の一般的な家の壁に激突するリンカ。
「……し、シレイア?」
「取り敢えず、お前は回復に専念してろ」
さぁて、リンカを吹き飛ばした野郎の正体はなんだ?
『グルル』
「青いドラコニアン……んで、お前はなんだ?」
別方向から現れたローブ姿の生意気そうな女の顔を見た瞬間、情報が頭に流れ込んでくる。
「ブリーダーの隠れNPC?」
「さすが、同じ隠れNPCじゃ~ん! アタシの能力モロバレとか――クソゲー過ぎんだろうが!」
アイツ、クエスト中にしか使えないEXランク、“怪物誘導の腕輪”を!
「行け!」
このクエストのために用意されたであろう隠れNPC、ブリーダー。
テイマーのサキに似た、モンスターを率いるタイプのNPCだが……。
「奴の特徴的スキルは――Cランク以下の生物系、アンデッド系モンスターを増殖させる“魔物繁殖”!」
味方なら隠れNPC最弱と言っても良い性能なのに、あの腕輪を所持しているうえ、低級モンスターが多いこのクエスト上においては最悪の部類!
「個のドラコニアンに、数の隠れNPCか」
どう対応する?
「あっちは私がやるから、ドラコニアンとかいうのはお願い」
「……じゃあ、よろしく頼むわ」
ハイヒールで回復していたようだが、リンカは万全とはほど遠い状態……だが、頼らないわけにもいかない状況。
まあ、リンカは神代文字を刻める武器を使ってないし、さいあく失っても構わんかね。
「じゃあ、やりますか」
チョイスプレートを操作し、SSランクの大剣――“フラクタル・カオス”を掴む。
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「“氾濫支配”!!」
シレイアから離れたのち、“滝穿ちの槍”に仕込んだ偽“マスターアジャスト”の力を振るう!
「穿てッ!」
軽い津波で機動力を奪いつつ、流水の槍で確実に数を減らしていく!
「足手纏いになんて――なるものですか!」
青い蜥蜴野郎には手も足も出なかったけれど、神代文字無しでも結果は出してみせる!
「無駄だ無駄だ~! “魔物繁殖”!!」
赤い魔方陣が幾つも生まれ、そこから雑魚の骨モンスターが次々と!
「周りからもデカいのが……」
幸い、シレイアの方にモンスターは向かってない様子。
「……クソ」
悔しいけれど、私はシレイアの邪魔にならないように時間稼ぎに徹した方が良さそうね。