836.炎上のバニー
「来なさい、ウサリーレ!」
“イフリート”ことウサリーレを、赤い魔方陣から呼び出す!
「燃やし尽くしなさい!」
『了解――“紅蓮柱”!!』
可愛いオッサン兎から、炎の獣毛を纏う二足歩行の化け物へと姿を変えて火柱を放つウサリーレ。
地面を走る炎の柱は、密集したモンスターを蹴散らすのにちょうど良いスキルではある。
「フレー! フレー! ウサリーレ!」
私の固有スキル、“応援”で強化。
『オオオオ!!』
鋭い爪炎を腕に纏わせ、尻尾と合わせて一気にスカルモンスターを薙ぎ払ってくれた。
「“後輪光輝球”! ハイパワーラッシュヒット!!」
“ゾンビ”や“グール”、数だけの雑魚モンスターを蹴散らしていく。
「きりが無い」
もっと契約モンスターを呼び出して蹴散らす事も出来るけれど、それだと今度は移動しづらくなるし。
「生命白銀狼! 天空竜!」
指輪でバイオウルフにスカイドラゴンを呼び出し、囮になって貰う!
「ウサリーレ、ここを離れるわよ!」
『御意!』
四足獣に変化し、私に追走して来た。
『どういたします?』
「まずはロザリオよ。合流できても、制限時間内にロザリオを揃えられなきゃ意味が無い」
各地で激しい戦闘が始まっているようだけれど、合流して探索の足が遅くなっていては本末転倒。
幸い、私は戦力を増やせるから、ロザリオを優先しても問題ない。
『宝箱があります』
「回収します」
罠解除をしたのち、宝箱を開ける。
○“指輪召喚強化の指輪”を手に入れました。
「もう持ってる奴だし!」
『サキ様、囲まれました』
私達の周りに、大型ドラゴンの“ドラゴンゾンビ”四体が降り立つ。
「黒ピカ! サタちゃん! セラ!」
私が契約しているモンスター、“エレメンタルガーディアン”の黒ピカ、“サタンドラゴン”のサタちゃん、“ハイエンジェルウィッチ”のセラを一斉召喚!
「“鳥獣戯画”!!」
モンスターを人間体にするユニークスキルの対象は――ウサリーレ!
『なっ!?」
茶髪ショートの、バニーガールみたいな格好になるウサリーレ……イフリートなのに、なんであんなに兎要素が強いのか。
「いったい何を考えて!」
「これを使いなさい!」
“竜皮の削り鞭”を投げ渡す。
“鳥獣戯画”の対象にしたモンスターは、私の装備や一部のスキルを使用できるようになる。
この前私が手に入れたスキル、“一極属性強化”は、火属性のみの攻撃が得意なイフリートとは相性が良い。
「おのれ、私の性自認は男だというのに!」
しょうがないじゃん。“鳥獣戯画”は、強制的に女の子にしちゃうんだから。
「“紅蓮鞭術”――クリムゾンウィップバインド」
ドラゴンゾンビの全身に巻き付け、皮膚を削りながら燃え上がらせるウサリーレ。
「燃え尽きよ、“爆炎流体”!!」
炎の球が当たったドラゴンゾンビの身体を炎が流れ、ネチっこく燃やし尽くす。
さすが、マスターが速攻で倒しにいったSランクモンスター、“イフリート”。
「行け行け皆ー、押せ押せ皆ー!」
『“魔法剣術”――フレイムスラッシュ!!』
『“天雷魔法”――サンダラスヘブン!!』
『――ガァァァァァッ!!』
黒ピカの剣、セラの魔法、サタちゃんのヴリトラドラゴンブレスが炸裂し、残りのドラゴンゾンビを倒す。
「よし、早く私の“鳥獣戯画”を解いてくれ」
「嫌だけど?」
「何故だ!」
だって、他のモンスターも“鳥獣戯画”の対象にされるの嫌がるし……セラは嫌がんないけれど。
『まあまあ、ウサリーレ殿。クエスト終了までの我慢だ』
黒ピカ、自分が女になりたくないからって。
「ほら、さっさとロザリオ探しに行くよ!」
時間が無いんだから。
●●●
「敵は、ゴーストやアンデッドばかり……厄介ですね」
“ヴォイニッチ手稿”の能力で養分に出来るのは、生物系モンスターのみ。
「仕方ありません――オールセット1」
手記を消し、鋼鉄のトウモロコシをこの手に。
「――“玉蜀黍支配”」
鋼鉄のトウモロコシの身が、スカルモンスターを穿ち抜いて粉々にしていきます。
「支配できる植物もありませんし、私の戦術がかなり制限されますね」
炎の球が無数にこちらへ!?
「“瞬足”――“泥土の鎧”」
回避しつつ、炎に強くなるスキルを行使。
「“ヘルフレイムスカル”ですか」
燃え上がる骨の巨人が立ちはだかる。
フェネクスといい、観測者達はよほど、私に火を司るモンスターをぶつけたい様子。
しかもあの物、私と同じ青いロザリオを首から下げている!
「消えなさい!」
鋼鉄のモロコシの弾丸を放つも、スカルモンスターが盾となって防いでしまう!
「モンスターにこれほどの連携を取らせるとは……」
これほど難易度を上げるために、観測者はどれだけの対価を用意したのでしょう。
「“星屑魔法”――スターダストシューティング!」
操作可能な星屑の流星は、スカルモンスター群団を避けて“ヘルフレイムスカル”を正確に狙う!
『“魔断障壁”』
魔法を完全に防ぐ壁で対処されてしまった!?
この骸骨巨人、完全に私を倒すためのカスタムが施されているようですね。
「“泥土塊の人形男”!!」
炎を纏う骸骨と、泥の上半身男の殴り合いが始まる!
「“泥土魔法”――ベリアルスプラッシュ!!」
取っ組み合いになった瞬間、障壁を張る間もなく一撃を見舞う!
「ここです!」
鋼鉄のモロコシが“ヘルフレイムスカル”を襲うも、仕留めきれない。
なんらかの防御強化スキルを所持しているようですね。
「MPが……」
ユニーク魔法に守護神のスキルで、私のMPは半分近くまで減っている。
「ク!」
モンスターに完全に囲まれてしまった。守りに“パーマネント・パーパスコーン”の能力を割かなければ。
「“大海魔法”――スクエアウェーブ!!」
二つの波が“ヘルフレイムスカル”が居る場所で交差し、一撃で仕留めきってしまう。
「今のは、サカナさん?」
「すみません、私です」
合流してくれたのは、長い銀髪に青い鎧を身に付けたドワーフメイド、エリーシャ。
「ご無事ですか、ヨシノ様?」
“パチモンのトールハンマー”と“超高速”で、あっという間に残存モンスターも片付けてくれる。
「ありがとう、エリーシャ」
「こちら、お受け取りください」
差し出されたのは、赤いロザリオ。
自分も青のロザリオなのに、この子ったら。
「……解りました。ありがたく頂戴いたします」
使用人NPC達も理解している。彼女達と私達隠れNPC、どちらが優先して生き残るべきなのかを。