833.下山の激闘
「「“飛行魔法”、フライ」」
私とツグミが魔法で、セリーヌは自前の翅、ハユタタは“遊泳”で、過酷な渓谷ルートの崖を下り始める。
「あ、見付けたよ、特殊宝箱の亀裂!」
発見者のセリーヌが、崖の一点へ。
「ちょうど来たみたい!」
ハユタタの警告が飛んで来て間もなく、頭のデカいトンボの集団がどこからともなく!
「私がやります! “量子分裂”!」
ツグミの身体が透けていき、左右に二人のツグミが並ぶ。
“量子分裂”。あらゆるステータスを半分にする代わりに、攻撃回数を二倍に出来る、【逆さ重力街】の地下で手に入れたスキル。
「「“桜火砲”――“連射”!!」」
重なる二つの声同様、二つの火柱が同時に、四方八方を焼き焦がしていく。
「ダメージが半減してしまうとはいえ、大量の雑魚相手ならまるで問題ないな」
今回は、頭上から足元まで敵だらけだし。
「セリーヌ、まだなの?」
ハユタタが尋ねる。
「なんか複数埋まっててさ。もうちょっと時間が掛かる」
その分、良い物が手に入れば良いけど。
「……崖を何かが登ってくる?」
崖をジャンプすると同時に風を纏って上昇し、崖に取り付いてはまたジャンプをするを繰り返している、やたら鼻の長い白い猿が複数!
「“テングザル”です! 二人とも、セリーヌさんを守って!」
「“二刀流”、“万雷投槍術”――サンダラスジャベリン!!」
“ヴァジュランス”と“万雷の宴に恐れ戦け”による同時攻撃で、二匹も仕留めるハユタタ。
「“壁歩き”――“影鰐・六重”」
“テングザル”共を動けなくしてから、壁を駆けて接近!
「紫電――“六連瞬足”」
“居合いの鞘”から抜くことで強化された“抜刀術”を使用して、六匹の“テングザル”の身体を真っ二つに。
「“万雷の鳴神”!!」
ハユタタ……上の方からもなんらかの襲撃があったのか。
“腹の一物をぶちまけろ”に六文字刻んで、残りもどんどん斬っていく!
「さすがに多いな」
三人からあんまり離れるのもよろしくないし、そろそろ戻ろ――ツグミのすぐ上の崖を食い破って、バカでかいムカデが出た!?
「キャー!!」
崩れた岩に押される形で、ツグミが落ちてくる!
ステータスも重量も半分になっているせいで、自分ではどうにも出来ないのか!
「――ツグミッ!!」
無理矢理に横からかっ攫い、岩だけが落ちていく。
「あっぶな」
「あ、ありがとうございます、ネロさん」
「アイツ!!」
私のツグミを殺し掛けやがって!!
コトリに言われた事とか、一気にどうでも良くなって来た!
「“絡繰り鬼兵”!!」
呼びだした燃える金属骸骨を足場に、一気に“跳躍”!!
「“狂血刀剣術”――――血祭り椿」
居合い斬りにより、ムカデの頭を切り飛ばした“腹の一物をぶちまけろ”には――九文字が刻まれていた。
●●●
「“リトル・ワイバーン”の群れだよ、マスター!」
崖の中腹を超えた辺りで、周囲から灰色の翼手を生やした二メートル程の竜が大挙して押し寄せる。
「舞え踊れ――“雄偉なる精霊と剣は千代に”」
左手で握った“名も無き英霊の劍”を、白き美剣へと成す。
「みんな、俺に剣を!!」
五人が持つ浮遊武器のうち、十九の技能剣を俺の支配下に!
「――“神代の飛踊剣”!!」
九文字刻んでからスキル剣に青白い刀身を纏わせ、百はくだらないワイバーンを切り殺していく!
「デカいのも来たな」
「“ゴルドワイバーン”二体に、“レジェンダリー・ワイバーン”!?」
なんか、メルシュが焦ってるな。
「ナターシャ――“黒精霊”!」
「“光線魔法”――アトミックレイ!」
意図を汲み取ってくれたナターシャの魔法が、“黒精霊”宿る精錬剣に吸い込まれていく。
「“神代の剣”――ハイパワースラッシャー!!」
十メートル以上にまで伸ばした神代の刃より放った長大な斬撃により、三匹をまとめて切り裂いた!!
「まあ、こんなもんか」
崖を降り始めてから起きていた幾度の襲撃はこれで最後だったようで、俺達は全員、崖の底に到着。
すぐ近くにあった、ポータル付き安全エリアへと辿り着く。
「突発クエストのせいか、前のステージの方がキツかった気がするな」
「他の皆もそうかもですね」
トゥスカが話している横で、気落ちしている様子の人物が一人。
「どうした、ナターシャ?」
「いえ……私だけ、技能剣を所持していなかったので」
だから気を遣って、“黒精霊”の時にナターシャを指名したのに……。
「属性系統の剣なら余ってるし、あげようか?」
「ありがとうございます、メルシュ様!」
今までのナターシャからは考えられないほどの食い付きよう!
「どんどん、感情豊かになってるのかね」
嬉しいのに……少しだけ複雑な気分だ。
●●●
「“極光集練槍”!!」
“聖剣万象”を宿した“ヴリルの祈りの聖剣”に、オーロラの光をランス状に纏わせる!
「“極光槍術”――オーロラストライク!!」
傾斜ルートの終わり辺りで遭遇した、“レジェンダリー・リザードマン”の腹に風穴を空ける!
“極光の卓越者”のサブ職業のおかげで、いざというときに別の武術を使えるのは地味にありがたいな。
複数種類の武具を使い分けるアオイ、複数の武具の特徴を持つ武器がメインのザッカルは、私以上にありがたみを感じている事だろう。
「“水銀魔法”――マーキュリーハーデン!」
「“光線魔法”――アトミックレイ!」
アオイが水銀で動きを止め、アヤナがトドメを刺す。
「結構、頑丈な奴だったな、あのデカくて黒いモンスター」
ザッカルも、アルーシャと共に“レジェンダリー・ファイティングブル”を仕留めたか。
「レジェンダリーモンスターは、その種類のモンスターのSランク。シンプルな能力値だけなら、SSランクモンスターを除いて最高峰に設定されている」
フェルナンダの説明。
「本来、こんな中盤ステージで遭遇するようなモンスターじゃない」
「でも、ユリカ達が前のステージで遭遇したって言ってなかった? そのレジェンダリーなんとかって言うの?」
「あれは突発クエスト中の話だったからな。クエスト中なら、何度か強いモンスターをぶつけられることもあった」
「私達相手だから難易度を上げられているというレンの説、当たってるのかもしれない」
ジュリーも、モンスターとの遭遇率、襲われた際に一度に出て来る数が妙に多い気がすると言っていたし。
「まあ、考えても仕方ないじゃん」
「向こうの想定以上に強くなってやるしかない、て事ね」
あっけらかんとしているアオイとアヤナ。
「だな」
ポータルのある安全エリアには宿泊用のログハウスが用意されていたが、近場の宝箱から中身を回収し、私達は我が家へと帰還した。
○“免許皆伝”を手に入れました。