832.邪悪な二輪獣
緩やかな傾斜ルートを選んで進んだ私らの目の前に、大量のモンスターが出現……凄ぇ数じゃん、種類も多いし。
「ほとんどがCランク以下の雑魚だな。まあ、Aランクも居るが、Sランクは見当たらない」
エルザが断言。
「なら、雑に戦っても楽勝そうだな! ――古代二輪獣!!」
多様学区で手に入れた“邪悪な古代二輪獣の指輪”を使い、悪魔のような四足黒獣ロボットを呼び出す。
「“一斉掃射”!!」
内臓されていた大量の砲門からビーム、ミサイル数十発が放たれて、一気に数を減らしていく。
雑魚ばかりだから、攻撃の余波でも虫の息になってやがるな。
モロに食らって生きている奴等が、B以上のモンスターだろう。
「轢き殺して来い! “自動二輪化”――“邪悪猛進”!!」
邪悪系統のエネルギーを纏った二輪バイクが、“トロル”や“パラディンリザードマン”にとどめを刺していく。
『――ガオオオオッ!!』
「魔法を使う虎?」
前にどこかで見た気がすんな。
魔法の狙いは古代二輪車に向けられていて、完全にタゲを取っている状態。
「空から……後ろからも来ています!」
ヘラーシャの警告。
前から大量の鳥モンスター、後ろからは……トカゲ系のモンスターを引き連れた大きなリザードマン?
「前はイチカさん達にお願いして良いですか? 後ろは――俺達がぶっ潰す!」
そう言いながら、チトセがデカくてゴツいショットガンを装備した。
「分かりました。お願いします」
華麗にチトセの変わり様をスルーするイチカ……お前、凄ぇよ。私は未だに慣れねぇ。
「レンさん、空はお願いします!」
「おう、任せろ!」
イチカにしては珍しい采配。
「来い、古代二輪獣! ――“合体”!!」
バイクが変化し、私の機械鎧に!
「“超噴射”!!」
一気に青空へと上昇し、両手両足を広げる。
「“一斉掃射”!!」
まずは雑魚を減らす!
「デカいのが来たな」
名前は、“ステュムパリ・デスバード”だったか?
黄色い嘴と鉤爪、青い金属の羽根を持つ怪鳥。
「久しぶりに遭遇したな――“可変”、“稼働”」
左右の腕にタイヤアームを連結――高速回転させる!
『クァー!!』
「オラッ!!」
鉤爪の一撃を右タイヤで弾き飛ばし、首元に左タイヤを叩き込んで挽き潰す!
「オッシャー! “邪悪回転術”――ウィケッドブレイズ!!」
腹部下から喉元まで、大きく削り裂いて決める!
「絶好調だぜ!」
○○○
レンさんが空へ。
「フミノさん、あのコンボで行きましょう!」
「了解!」
私は、私の力だけでなんでもしようとしすぎてしまう。
まだ、割り切れたわけではないけれど――
「“聖炎水魔法”――バーンセイントウェーブ!!」
「“蜃気楼”――“有象嘘象”!!」
私の白き水炎の波が巨幻化――実体を得て山をくだり流れていく!
「やったわね、イチカちゃん」
レンさんが弱らせてくれていたのもあり、一撃で全滅させられた。
「……はい」
もっと、私が犠牲になるような事が起きてくれなきゃ……でも、それだとフミノさんとレンさんの二人が……。
●●●
「“水蒸気爆弾”――“起爆”!!」
デカい水球を撃ち出し、着弾と同時に瞬時に加熱――大爆発を引き起こす。
「“鞭化”――“狂血鞭術”、ブラッドウィップラッシュ!!」
黒い投げ槍、“ブラッドアブゾーバー”を撓らせて攻撃するエルザ。
「数が多いだけですね!」
トカゲ系モンスターに“リザードマン”、“ハイリザードマン”を、“ドラグ・ガンブレイド”で撃ち抜いていくヘラーシャ。
「おら、来いよ。お前の仲間を吹っ飛ばしたのは俺だぜ?」
大仰な鎧を着た白い鱗のデカいリザードマンが、私に突っ込んでくる。
「こっちも行くぞ! ――“瞬足”」
黒いショットガン、“妖魔悪鬼に風穴を空けてやれ”に十二文字刻み――引き金を引く!
「ざーんねん」
咄嗟に避けようとしたようだったが、左胸を“魔力散弾”が大きく穿ち抜き、その周囲もズタズタに引き裂いて派手に血飛沫をあげさせた。
「ハハハハハ!! この――雑魚がぁ!」
●●●
「ようやく外か」
【金剛石雨街】と違って、ここらは天気が良い。
「長い通路だったわね」
リンカが隣に立つ。
「安全エリアの向こう側もずっと一本道だと思ってたら、モンスターが多かったのよね」
弱いモンスターが、散発的に不意打ちを仕掛けようとしてきただけだったけれど。
「にしても、湿度が高いのね。ムシムシする」
植物の雰囲気も、ジャングルって感じ。
「うわ、この辺、地面が水に浸っちゃってんじゃん」
コトリの言うとおり、ギッシリと生えた草が五センチほど、広範囲に水に浸かってしまっている。
ところどころ、ちょっとした池みたいになっている場所も見えるし。
「飛んで行けば良いだろ。前に来た時はそうしたし」
エトラからの助言。
「まあ、そうなんやけれどね。あんまり高く飛ぶと、モンスターが出て来てくれへんのよ」
タマモが悩ましげに物申す。
「出て来なくて良いのでは?」
「そういえば、前に通った時はポータルのある安全エリアまでほとんど戦闘にならなかった気がするな」
ケルフェとエトラの会話。
「ここらに出るモンスターは、なかなか良いスキルカードを落とすのが多くてね~。まあ、戦いを避けるのも一つの手やけど」
「なら、精錬剣とSSランクを使ったモンスター狩りと行きますかぁ!」
この前の突発クエストを踏まえて、頼りすぎないよう、今日の攻略ではそれらを封じていた。
「さっそくのお出ましみたいよ」
リンカがそう言うなり、近場の池から、片方のハサミだけ異様にデカい蟹が出て来たし!
「“ビックシザー・クラブ”。おっきなハサミには気を付けなはれ」
「達観せよ――“雄偉なる死生観の行き着く先へ”!!」
病的な白い大剣を、“レギオン・カウンターフィット”で作り出すコトリ。
「任せるわよ、コトリ!」
「オッケー! ――“随伴の死生”!!」
白い光が無数に生まれ、全てに黒い鏃が生える。
「――殺せ」
黒鏃の白流星が煌めき、青い巨大蟹の甲羅を一瞬で穿ち抜いた。
「……さすが」
コトリの精錬剣、私達の中でも独特なのに殺傷能力が高すぎる。
「精錬剣……か」
今の、エトラの呟き?
「新手です」
膝くらいの高さの青黒い蟹に、同じくらいの大きさのザリガニ? やたら頭がデカいトンボの群れに、黒っぽい大蛙、小型だけれどまたワニまで!
「“バブルクラブ”、“ジャンピング・クレイフィッシュ”、“ドラゴンフライ・ヘッド”、“レッドアイ・フロッグ”、“マネーカイマン”やね」
「漏らしたのはお願いね」
などと言いつつ、コトリによってモンスターは全滅させられた。