831.宝石ドールの山
「……ここは」
私が借りている“砦城”の一室じゃない。
「目が覚めました?」
声を掛けてきたのは――メイさん!?
「……て、コセか」
「お前が倒れたって聞いて、使いたくもない“女体化”まで使って看病してたっていうのに」
「悪かったわね」
正直、メイさんに会えたのは嬉しい。
私が思う、理想の格好いい女性像そのものだから。
「……攻略って、どうなったの?」
「……クマムのパーティー以外は、昼の目標地点まで到達できたよ」
「私が倒れたから……」
私が、足を引っ張ってしまったから……。
「……挽回しないと」
「無理しなくて大丈夫だ」
「でも、時間がないんでしょ!」
この前の突発クエストによって、既に丸一日無駄にしている!
「さいあく、俺のパーティーだけでも六十ステージに到達していれば良いんだ。だから落ち着け」
男勝りな話し方のメイさん……格好いい♡
「そ、それでも、私がアンタ達の足を引っ張るなんて許せないのよ!」
頑張ってベッドから起き上が――服、下着だけなんだけれど!
「あ、あんた……」
「俺が脱がせたわけじゃないからな?」
そういえば私って、前にコイツに裸を見られてるし!
「……ねえ――私の胸、触ってみる?」
「……なんで?」
なんでじゃないでしょうが!
「普通、若い娘のおっぱい触らせるって言ったら、触ろうとするもんなんじゃないの、男の人って……」
嫌なこと、思い出しちゃった。
「好きでもない女の胸を揉んだって、虚しいだけだぞ?」
……そういえばコイツ、いつでも女の胸揉み放題の選び放題だった。
「ていうか、触らせてあげるって言って本当に触るような男、他人を物か何かくらいにしか思ってないクズだけだろ」
「……そうね」
本当にその通りだ。
「クマム達を呼んでくるから、攻略に関しては皆で話し合え」
部屋を出て行くメイさ……コセ。
「言ってることはもっともだけどさ……少しくらい迷いなさいよ」
●●●
「ちょっと危なかったな」
ミキコの誘惑を断ち切り、昼過ぎからの攻略を開始する。
「ご主人様、なんかムラムラしてます?」
「へ?」
トゥスカに指摘されてしまう。
「……ちょっと」
この手の事でトゥスカ達に嘘をついても仕方ない。
「なんで判ったの?」
「そういう匂いがしたので」
「そ、そうなんだ」
トゥスカには色々筒抜けなんだな、俺が思っていた以上に……前にもこんなやり取りしたっけ?
「ここからはダイヤモンドの雨が減る代わりに、モンスターの襲来が増えるから」
メルシュが説明をしてくれている間に、ここまで遭遇しなかったタイプのモンスターが姿を現す。
「十六ステージで見た気がするな」
リビングアーマー系の宝石モンスター、“ダイヤモンドドール”。
“ダイヤモンドドール”が圧倒的に多い物の、違うタイプの宝石ドールもチラホラ。
数はいるものの、コイツらがたいして強くないのはよく知っている。
「マスター、迂闊に接近戦をしない方が良いよ」
“マス・ホログラフィック”で作り出した一体の“オーガ”が、ダイヤモンドドールへと襲い掛かる。
「へ?」
「あ!」
「うん?」
オーガに組み付かれた瞬間、ダイヤモンドドールが爆発した?
「あんな能力、十六ステージで遭遇した時はありませんでしたよね?」
「あちらです、トゥスカ様」
ナターシャの槍が向けられた先に、知らないドールモンスターを発見。
「“コマンダードール”。近場のドール系リビングアーマーの能力を上げ、指示も出せる。使用するスキルは“宝石爆弾”」
「さっきの爆発は、コマンダードールのスキルによる物か……あれ、だったらメルシュにも同じ事が出来るんじゃ……」
「まあね」
直後、“宝石爆弾”のスキルを用いて次々と爆発させていくメルシュ……。
「暫く出番無いな、これ」
●●●
「――威風連拳!!」
立ちはだかるワニ共を蹴散らし、ついでにゴブリンの集団も殺していく。
「なんだ、これと言って何もなく安全エリアまで来られたじゃない」
巨大な魚竜、“サルコスクス”という名前だったらしいモンスターを倒した先は、雑魚モンスターが大量に出るだけだった。
ワニの割合が前半よりも減り、代わりにゴブリンなどの雑魚モンスターが増え始め、むしろ攻略が楽になったくらい。
「モンスターの出現数は増えてるんだけれど余」
「まあ、確かに数は増えてた気がしたわね」
目の前には、真っ直ぐ続く安全エリアの通路と、私達が今通ってきたようなカーブを描いている通路。
「そっちは行けない余、ミキコ。スケルトンの徘路の出口だからね」
ナノカの言うとおり、透明な壁で塞がれているみたい。
「じゃあ、あっちの通路を真っ直ぐに進めばいいわけね」
他の地下通路組は、既にここまで到達済み。
「迷惑掛けたぶん、遅れを取り戻すわ!」
そのためにメルシュから、以前は断った新しい装備も貰ったわけだしね!
「張り切るのは良いけれど、ちょっと休憩するわよ」
「ミキコさん、昼食を食べてないでしょ?」
「軽食を用意しておいたんですよ」
ナオ、クマム、リエリアに止められてしまう。
「……ありがとう」
リエリアお手製のおむすびと、紙コップ味噌汁を貰う。
「……美味しい。中身が豪華だし」
イクラとサーモンを、塩麹に漬けた物かな?
「コセさんやサトミさんに聞いて作ってみたんですよ~」
料理が褒められたのが嬉しいのか、もの凄く照れてるリエリア。
「これ、白味噌の味噌汁か」
「お口に合いませんでしたか?」
「ううん、赤味噌の味噌汁の方が私には馴染み深いってだけよ」
特にどっちが好きとかは無い。
「正確には米味噌です。コセさんは米味噌が好きみたいで」
フーン、アイツは米味噌が好きなんだ……。
●●●
「ハイパワースラッシャー!!」
“サムシンググレートソード”から放った斬撃で、木の上の“コマンダードール”を切り裂く。
「ようやく安全エリアだ」
思っていたよりも時間が掛かった。
起伏のある山道を、“ダイヤモンド”による凹凸などに気を付けながら抜け、下山してきたわけだけれど。
○右下山:緩やかな傾斜
左下山:過酷な渓谷
安全エリアの奥に立てられた看板の左右に、道が続いている。
「あからさまに、右の方が楽アピールしてくるな」
「どっちもどっちなんだけれどね」
“ダイヤモンドゲート”を消すメルシュ。
「そういえば、天気が良くなってますね」
「ダイヤモンドの雨は、もう気にしなくて良いよ」
「そんじゃ予定通り、私らは過酷な渓谷へと進むかね」
シューラの仕切りに従い、俺達は左へと下っていく。