830.威風堂々たる十手使いミキコ
「ワニが……」
ワニみたいな魚竜が動き出した瞬間、大量にいた“ナイルクロコダイル”が逃げていく。
目の前の魚竜も私に狙いを付けたみたいだし、予定調和の第二ラウンドってわけ!
「“威風纏い”――“瞬足駆け”!!」
巨体から繰り出される食い付きを避けながら、“幻影肩腕”を消す。
「速いな、このワニ」
デカいからか、余計に動きが素早く感じる。
「出し惜しみ無しでやってやる!!」
右脚だけを包み込む藍色の脚甲、“威勢堂々たる”に九文字刻む!
「“跳躍”――“威風大斬脚”!!」
ワニの頭上より、右脚の蹴り上げから生まれる巨大な斬撃を放ち、鼻先から大きく切り裂く!
“威風纏い”による強化も施された一撃。今の私に出せる、最大威力と言っても良い攻撃だった。
「――“三連空衝”!!」
上顎を頭まで切り裂かれた状態で、ジャンプして来るなんて!
「……コイツ、まだ動けv3jx」
九文字はまだキツい!
「“女王の威光”!!」
十六発の大光弾を生み出し、ワニ野郎に全弾命中させる!
「クソ!」
神代の力を流していなかったからか、大したダメージになっていない。
“女王の威光”は、レギオンリーダーでなければ真の威力を発揮できないスキル。
タマコ様の形見のつもりで、タマコ様が残した物の中から私が選んだスキルだったけれど……。
「本当、なにもかも中途半端」
執拗な攻撃を避けながら思い浮かべるのは、ジャスティス教の教主マサヨシとコセが戦っている姿。
あの二人の一連のやりとりを見ていて、私は――不本意ながら、《ジャスティス教》と《ザ・フェミニスターズ》は似ていると思ってしまっていた。
タマコ様とマサヨシの独りよがりな正義が、レギオンメンバー内の温度差が。
チエリが言っていた。私達は男嫌いで集まったけれど、一人一人の男嫌いに対する認識はバラバラで、他のメンバーの気持ちなんてろくに解ろうとなんてしていなかったんだって。
タマコ様は、女達が男達に虐げられる残虐な光景を実際に何度も見てきた人だったけれど、他の仲間は、レイプされた者もいれば、なんとなく男嫌い程度の者も少なくなくて……私は……。
「……やってやるわよ」
自分がぶっ壊れたっていい――教主を圧倒した時のコセのように、全力で敵を屠ってやる!!
「“威風棒術”――プレステージブレイクッ!!」
愛用の十手、“威風堂々たれ”にも九文字刻んで、すれ違い様にカウンターを決めた!
「“瞬足駆け”――威風連脚!!」
右足で、同じカ所に蹴りを決め続けるpb3ッkn!
「ハアハア、ハアハア」
意識が……私が消えていく感覚が……――それでも、最後までこの文字は消さないッ!!
「――“女王の威光”ッッ!!」
ありったけの神代の力を込めた光弾、十六発をぶちかます!!
「ハアハアッ――ぁぁああああッッ!!!!」
死角から尻尾が直撃して、床に叩き付けられ、身体が飛び跳ねるッ!!
「……ふざけ……な」
与えたダメージが……どんどん治って……いや、傷口から姿が奇形化していく……。
「理不尽……過ぎ――」
自分の、左手薬指に嵌められている物が目に入る……入ってしまった。
「本当に……中途半端」
本物の男嫌いのはずなのに、コセとは打算で結婚した。
男嫌いのはずなのに、教主と戦っていたコセを格好いいと思ってしまった!
「正義なんて言葉で自分の行いを正当化しようとしてる時点で――お前は只の卑怯者なんだよ」
その言葉を――心理だと肯定してしまっていた!!
「私は……只の卑怯者だ」
自然に、脚に、腕に力が入る。
少しだけ、昔の自分に戻ったような感覚。
どれだけ意識しても、手足を動かそうとしても動かせずに、ただ虚しく天井を見ながら時間だけが過ぎていく――あの日々に!
「真逆なのに、感覚は似てるなんてね」
あの億劫なだけの毎日を超えるために、私は心からの男嫌いになることを覚悟した。
今の中途半端な私に必要なのは――新しい覚悟だッ!!
力強く、それでいて自然体で立ち上がれた瞬間、私の十手と右脚甲に十二文字が刻まれ――“威風堂々たる戦士たれ”という名の十手と、“威風堂々たる女王たれ”という脚甲へと変容する。
「――“女王の凱旋”」
“威風堂々たる女王たれ”の能力を使用し、持続的に猛スピードでTPを消費する代わりに、ステータスを大幅上昇!!
「“跳躍”」
軽やかに高く跳び上がって――迫る顎を躱す。
「――“女王の威光”!!」
“女王の凱旋”の能力により、今の私は擬似的なレギオンリーダー扱い――つまり、“女王の威光”は真の威力を発揮。
「爆ぜなさい!!」
神代の力もふんだんに注いだ十六発の威光が、魚竜の上部の血肉を全て爆ぜさせる!!
「これでも終わらな――!?」
剥き出しの血肉や骨から触手が大量に生えてきて、私を狙ってきた!!
「クッ!!」
数が覆い上に伸縮速度が速く、私と全身が傷だらけになっていく!
「――“神代の十手”」
“威風堂々たる戦士たれ”に青白い光を纏わせ、巨大化!
「“威風大斬脚”ッ!!」
高速落下から、追尾してくる触手をまとめて切り離す!
「いい加減に死ね――“殴打撃”!!」
“神代の十手”で下顎を打ち据え、頭を完全に消し飛ばした!
「コイツ!?」
まだ身体が消えない上に、血肉から何か別のモンスターが出てこようとしているように見える!
「ふざけんな」
この得体の知れなさは不気味過ぎだ――急いで決着を着けなきゃ!
「“威風纏い”――“威風棒術”、プレステージブレイク!!」
正面から巨大十手を突き込み、身体の内側へと注ぎ込んだ暴威を炸裂――派手に血肉をぶちまけさせて、今度こそ魚竜を完全に滅して……やった。
「ハアハアッ、ハアハアッ……」
さすがに、もうキツい。
神代文字を解くと、見計らったように扉が部屋の真ん中に出現……“ナイルクロコダイル”が、また集まってきてるし。
急いで、満身創痍の身体を押して扉の先へ!
「み、ミキコ!?」
倒れそうになった所を、ナオに抱き止められる。
「アンタ、なんでそんなにボロボロなの?」
「あんな化け物相手にしてたら、そんなの当然…………」
あ、これもう無理……なやつ…………。
◇◇◇
『……参ったね』
第四回大規模突発クエストに向けて、新要素のアップデートをしていたら、様々な場所でバグが発生し始めてしまった。
『これは、三度目の大型アップデートが必要そうだねぇ』
まあ、新たな要素の理不尽極まりなさを考えれば、様々な法則に影響が出てもおかしくないからね~。
『第四回大規模突発クエスト――いったい、何人が生き残れるだろうかね』
自分で用意した新たな隠れNPCのモデルを見ながら、先の結末に胸を躍らせる。




