829.大物狩り
「“浄解付与”――“深海支配”!!」
“浄化”の力を宿した海水が、スケルトン集団を洗い流していく。
「スケルトンは全滅させました!」
「案外、スケルトン以外のモンスターも多いですね」
スゥーシャとタマの言葉。
「ゴブリンにスライム、ネズミのモンスター。さほど強いのは居ません」
ヨシノが悪くない情報をくれるけれど……。
「それって、倒す旨味があまり無いって事なのよね」
楽なのは悪くないんだけれど。
「“影魔法”――シャドーバインド」
カナが頭上に魔法を……高い天井にいた蜘蛛のモンスターが、影に拘束されている! それも五体も!
「油断しすぎよ、貴女達」
「ありがとう、カナ」
エロモードの時は本当に頼りになるな。
「さあて、気合いを入れ直しますか!」
この前の突発クエストを乗り切ったおかげで、第三回大規模で失っていた自信を少しは取り戻せたし!
「そろそろ私も、ユニークスキルが欲しいわね」
うちのパーティーのユニークスキルは、スゥーシャの“徹頭徹尾”とヨシノの“星屑魔法”のみ。
まあ、“星屑魔法”は元々私が手に入れて、ヨシノに譲った物なんだけど。
「各ステージに一つずつに、あとは突発クエストで偶然手に入れるしかありませんからね」
「例外は、クレーレやメグミの自力で生みだしたパターンか」
ヨシノとレリーフェの会話。
コセやタマのSSランクもだけれど、自力で生みだすとか意味が分からない。
アイツらだけ別ルールでゲームやってるでしょ。
「あ、特殊宝箱の鳥の死骸です」
タマが見付け、ボーン武器で回収してくれる。
その後、半分スケルトン系、半分は生物系モンスターを殲滅しながら宝箱を回収、レバー操作などのちょっとした謎解きをしながら、広大な地下水路を進んでいく。
「なんか、やたら大きな空間に出たわね」
高さ十メートルは軽く超えてそう。
「ここに出たという事は、左回りの半分は超えたようですね」
「てことは、例の強敵の出現場所か」
小さな振動……部屋の奥から、巨大な骸骨騎士が大量のスケルトンを引き連れて姿を現す。
「あれが、“スケルトン・オールドリベリオン”か」
●●●
「“悪魔支配”!!」
黒肉の鎧を纏って、大量の悪魔モンスターを生み出す!
「雑魚狩り、よろしく~」
向こうは“スケルトンハイウォリア”二体に、“デスストーカー”が六。その他、“反骨巨人”や“スケルトンナイト”、“アサシンスケルトン”らCランク以下が数百体越えかな。
こっちは指輪で“デーモンロード”一体、“グレーターデーモン”二体、ユニークSSランクで“アバター”を二、三十体くらいでいっか。
「まあ、一番の大物は私が獲るけれどねー」
“スケルトン・オールドリベリオン”。ヴァルカお義父さんが突発クエストで倒した、三強モンスターの一体。
「私も戦いたい!」
「ガウ!」
「ダメダメ、二人とも。あれは、私の獲物なんだから」
五十六ステージじゃ、ろくに暴れられなかったし。
「エリーシャ、アレちょうだい!」
「畏まりました――“大狩り”」
私の青い斧、“雄大なりし雪原を踏破せよ”が――六倍の大きさに巨大化!
ジュリー姉が梅の薔薇なんちゃらのリーダーから手に入れたユニークスキル、“大狩りの闘者”の能力。
私の手じゃ握れないくらい柄がぶっとくなってるけれど、今の私にはこのユニークSSランクがある!
「行くよ――」
“雄大なりし悪魔神の夢”を変形させて、黒肉の巨腕を作り出し――巨大な投げ斧を掴んで十二文字刻む!
「“ホロケウカムイ”――“氷砕投斧術”、アイスクラッシュトマホーク!!」
全力の一斧入魂!!
「おう、凄い威力!」
翳された盾ごと、部屋の奥の壁へと押し込まれる“スケルトン・オールドリベリオン”。
「エリーシャ!」
“斧倉庫の指輪”から新たに抜いた二つの投げ斧にも、巨大化を施して貰う!
「行くぞぉぉ!!」
黒肉の両巨腕に握らせた“雄大なる魔界の風”と“雄大なる大地の風”に九文字ずつ刻む!
「“二刀流”、“闘気斧”!」
闘気纏う巨斧で、スケルトン軍団を蹴散らして突っ切る!
「“二刀流”――ハイパワーブレイク!!」
左右に振り抜いて、迫るリベリオンの剣を粉砕。
「もっと強い力を――」
ジュリー姉達の足手纏いには、もうならない!!
――両手の投げ斧に十二文字ずつ刻まれて、“雄大なりし魔界へ到達せよ”と、“雄大なりし大地を走破せよ”に進化する!
「“神代の斧”――“二刀流”」
黒肉の獣脚で思いっきりジャンプし、悪魔の翼で滞空!!
「“氷砕斧術”――アイスクラッシュブレイズ!!」
“スケルトン・オールドリベリオン”の胸部と胴体を削り薙ぎ、一気に終わらせた。
「……よし」
私、確実に強くなってる!
●●●
「“一斉掃射”!!」
“偏在の古代海豚の指輪”で喚びだしたロボットイルカを操り、鰐モンスターを掃討してくれるリエリア。
「ワニか……こんだけ数が多いと、恐いよりキモいが勝つ」
「色んな種類が居るなぁ……」
ナオが引いている。
「別れ道ですね」
先頭のクマムの前に二つの入り口があり、その上部に1と2が刻まれている。
「なによ、これ?」
「1が一人、2は二人で入れる部屋で、どっちもモンスターと強制戦闘になるらしい余」
ナノカに教えられる。
「他に違いは?」
「2の方が楽な分、ランダムにランクアップジュエルが二つ。1の方は、確定で“オールランクアップジュエル”が一つ手に入る余」
“ディグレイド・リップオフ”こと偽レギを強化したい私達にしてみれば、1一択みたいな物ね。
精錬剣を作れなければ、作る気もない私からすれば関係ない事だけれど、このレギオンの世話になりっぱなしなのも事実。
それに、せっかく譲ったSSランクの“マッスルハート”まで、私のところに戻ってきちゃったし。
「私は1の方に行くわ」
「良いの、ミキコ?」
「ええ」
ナオに心配されるも、さっさと1の通路へと進む。
暗い通路はすぐに終わり、広いレンガ造りの空間へ。
「……“ナイルクロコダイル”の群れ?」
確か、Bランクのモンスター……目の前の空間を覆う程のこの数……さすがに多すぎるでしょうが!
「入り口……消えてるし」
出口らしき物も見当たらない……やるしか無いってわけね!
「“幻影肩腕”! “威風纏い”!!」
幻の腕を作り出し、威風系統の風を全身に纏って戦闘体勢を整える!
「――威風連拳!!」
一斉に飛び掛かってくるワニ共を、幻影の拳で順に殴り殺す!!
威風連拳を発動中、他の能力は発動できないけれど、“マッスルハート”のおかげでTPの消費を気にする必要は無い!
私自身は回避に専念しつつ、“幻影肩腕”によるカウンターで数を減らしていく。
段々と慣れて只の作業になってくると、つい思考が脱線。
現実のナイルワニは海を長距離泳ぐとか、日本までやって来た記録があるとか、群生地では子供から大人まで食べられる被害が続出してるとか、今は関係ない事を思い出してしまう。
「ハア、ハア……襲撃が止まった?」
まだかなりの数が残っているのに。
「この振動……」
近くにデカいのが居る!
『……クルルルル』
バカでかいワニというより、巨大な魚竜が“ナイルクロコダイル”の下から現れ――大量のワニを食い殺していく!?
「……アンタ、ずっとそこに居たわけ?」
変な段差があるとは思ってたけれど、気付かずに近付かなくてよかった……。