828.雨街の地下路
「通行料を払って貰おうか」
一つのパーティーにつき5000G払い、私達は【金剛石雨街】中心地近くにある地下道入り口より、五十七ステージの攻略を開始する。
「皆、消えちゃった……」
門番に開けて貰った柵の扉の先に進んだ瞬間、パーティーごとの攻略となったため、寂しそうなモモカ。
「この陰気な場所を抜ければ、すぐに会えるさ」
「うん!」
「ワン!」
モーヴの言葉にやる気を出すモモカと、モモカのテンションにつられていそうなバニラ。
「さっそく来ました!」
全長一メートルを優に越える青いトカゲ、“ウォーターリザード”五匹が現れる。
「行くよ、バニラ!」
「ガウ!」
見事なコンビネーションで、五匹のトカゲを片付ける二人。
「低級モンスター相手なら、バニラは確実に一撃で仕留めるな」
何度見ても、シンプルに強い。
その後、現れた“ゴブリン”や“ゾンビ”の相手は二人に任せ、順調に一本道を進み続ける。
「お、別れ道か?」
○右回り:ワニの巣路
左回り:スケルトンの徘路
「どっちに進むの、ジュリー姉?」
「私達は左だよ」
右だと、モモカが可愛いとか言い出しかねない……さすがにないか。
●●●
「ハッ!」
“スチームガン”より鉄球を発射し、“ウォーク・アリゲータ”の息の根を止める。
「この場所は、投擲には向かんな」
円輪に神代文字を三文字刻み、Bランクの大型鰐、“ナイルクロコダイル”を解体するロフォン。
「うわ~。右回りって、本当に鰐モンスターばっかなんだー」
吞気そうなキャロル。
「まだまだ、こんなもんじゃないはずだけれどねぇ」
シレイアさんの不穏な言葉。
「それにしても……迷路みたい」
「実際、迷路と言えば迷路だよ、マスター。さほど複雑でもないけれどね」
「確かに、方向はほぼ同じままですね」
私から話を振ってみる。
「右回りも左回りも、地下道入り口の反対側へと繋がってるからね。行き止まりで引き返さないとならない場所はほとんど無いらしい」
とか言ってたら、ちょうど行き止まりに。
「あ、真っ当な宝箱!」
特殊宝箱じゃないの、久し振りに見た気がする!
「……“軍粮精支配”」
キャラメルの鞭が、宝箱に絡み付く!?
「ちょっと、キャロル!」
「よく見て、よく見て」
キャロルの指差す方向――キャラメルに
絡みとられた宝箱から、牙や舌が生えてる!
「持ち上げられた時点で本物じゃないって知ってるでしょう? クミン」
「そうだった……」
私が自分で考案した、ミミックを見分ける兼、罠解除の方法だった。
「はい、さいなら」
“ミミック”がキャラメルで圧死。
「お、凄そうなのが手に入った!」
○“ジャイアントキリング”を手に入れました。
「大番狂わせって意味だっけ?」
シレイアさんに視線で説明を願う。
「自分よりも高いLvの相手に有効な短剣だね」
「自分より? この辺のモンスターにはどうなん?」
「モンスターのLvは基本的にステージ数と同じだから、その短剣は通じないね。突発クエスト中や一部のモンスターという例外はあるけれど」
どうりで、第三回大規模突発クエスト以降、私達のLvが上がらないわけだ。
「ちなみに、Lvに差があればあるほど、短剣から繰り出す攻撃の威力が上がるし、上がりやすい」
なんか、不思議な言い回ししてる。
「じゃあ、売るくらいしか使い道がないよね~」
「いや。確か、自分のLvを下げるアイテムを手に入れた事が無かったか?」
ロフォンの指摘。
「Fランクの腕輪だったかな? でも、とっくに売っちゃったわよ?」
「まあ、わざわざ短剣一本のためにLvを下げるのは割に合わんさ。そういう戦術は、装備が揃ってから考えれば良いんだよ」
「そうですね……」
……これからは、使えなさそうな装備も売らずに持ってよ。
●●●
「鬱陶しい雨だな、ダイヤモンドの雨とは」
リンピョンが本気で嫌がっている。
落ちてくる“ダイヤモンド”が草や葉っぱを裂き、木や岩を穿っていく。
どうやら、降ってきた“ダイヤモンド”は、全てがそのまま残るわけではないらしい。
落ちてすぐに消える物と、そのままアイテムとして残る物がある……十個に一つくらいの割合だろうか。
「まあまあ、降っている間はモンスターが襲って来ないからさ」
バルバザードが、吞気に宥めに掛かるが……。
「私は、モンスターが出てくれないと困るんだ!」
スカイドラゴンを逃がした以上、今度の獲物は必ず!
「あら、勢いが落ちてきたわね」
サトミの言うとおり、落ちてくる“ダイヤモンド”の数が一気に減っていく。
「……何かが――上から来ます!」
カプアの警告に散会! “ダイヤモンドゲート”を展開しているウララから離れる!
「“溶岩盾術”――マグマバッシュ!!」
モンスターが放ったであろう、飛んできたダイヤモンドの杭を消し飛ばすバルバザード。
「あの姿……間違いない!」
白い体表を覆うように生える、青味を帯びたダイヤモンドの剣山――“ダイヤモンドドラゴン”だ!
「“竜光砲”ッ!!」
右腕から生えるダイヤモンドの剣山で弾かれた!
「――“超噴射”!!」
口から放たれたダイヤモンドの杭を避け、空を飛んで距離を詰める!
「“飛竜爪”!!」
六文字刻んだ“泰然なる高潔神竜の激昂”より、竜属性の斬撃を飛ばす!
またしてもダイヤモンドの剣山鎧に阻まれるが、ダイヤモンドに覆われていなかった皮膚部分が僅かに切れる。
「ダイヤモンドの無い部分を狙えば良いのか」
飛翔するドラゴンを追い、飛行高度を上げていく!
「装備セット3――“可変”」
左腕の“ドラゴンの顎”を“泰然なる高潔の息吹”へと持ち替え、砲身を展開。
「――“泰然なる息吹”!!」
六文字込めた空気砲により、左翼に命中させて体勢を崩す。
「“竜光砲”――“連射”!!」
SSランク、“スタードラゴン・コア”の力で、竜属性を含む攻撃は何発でも放てるんだ!
「ハアアアッ!!」
左右の砲盾と鎧に九文字ずつ刻み、威力を増大――ダイヤモンドに覆われていない部分から、“ダイヤモンドドラゴン”の巨体を蒸発させた!
「今だ――“竜陣”!!」
“ダイヤモンドドラゴン”を構成していた青白い光を、紅い魔方陣の中へと取り込む。
「……成功だ!」
ユニークスキル、“星竜核”の力で、“ダイヤモンドドラゴン”を取り込んだぞ!