86.金色のお餅と幼竜
「凄いモンスターの数」
タマが、周りに置かれた檻の中を見ながら呟いた。
「これ、襲っては来ないのよね?」
「ええ、大丈夫。メルシュがそう言ってたから」
観測者に見られているのを意識し、メルシュ情報だという事をユリカに対して強調する。
さて、ここで隠れNPCを手に入れるためのフラグを立てないといけないのだけれど……どうしよう、考えてなかった。
どうにかして自然な流れでフラグを……思わず、足を止める。
「ジュリー様?」
「なに……このモンスター」
私が知らないモンスターだ。
檻の中のモンスターは獣型ばかりで、魔獣の野原に出現する個体だけと決まっている。
決まっているはずなのに……。
「ドラゴン?」
大型犬くらいの大きさの、黒い陸竜。
「へー、サタンドレイクの幼竜かい。腹を空かせてるんじゃないのかい?」
シレイアのアシスト……ちょっと無理があるような気もするけれど。
「そ、そう言えば、この前面白い物を手に入れましたよね!」
ぎこちないけれどナイスだよ、タマ!
チョイスプレートを操作し、魔獣の野原で手に入れておいた”万能エサ”を実体化。
手の上に、黄金の餅のような物が生まれる。
後はこの餅を食べさせれば良いだけなんだけれど、この竜に食べさせて良い物だろうか?
本当は、奥に居るはずのディケイドウルフに食べさせるつもりだったのに。
メルシュとも、そう打ち合わせしていた。
「ほら、近付いてきた。早く食べさせておやりよ」
シレイアが退路を塞ぐ!
コイツに食わせろって事か。
この流れでディケイドウルフに食べさせるのは……さすがに無理だね。
「はい、どうぞ」
檻の中に餅を置く。
『カウ?』
お餅をクンクンし、ペロペロし出す。
その後、噛み千切ろうとして上手くいかず、丸ごと呑み込んだ。
『カウ!!? カーウカウカウカウカウカウカウカウカウーーー!!』
喉に詰まらせたのか、苦しんでいる様子の幼竜。
「ジュリー……これ大丈夫なの?」
心配そうに尋ねてくるユリカ。
「さ、さあ?」
大丈夫なはずだけれど、実際に目の前で苦しんでいるのを見ると……可哀想。
『ゲフッ!!』
黄金の餅が吐き出され、ネトネトの粘液と金属の棒が付いた状態で目の前に落ちる。
……汚い。
でも、これも隠れNPCを手に入れるため!
「うう!」
金色のお餅から、金属を抜こうと引っ張る!
お、思ったよりも……キツいぃ!
お餅を押さえている左手の平に纏わり付く粘液、気持ち悪いよぉぉ!!
「くぬぬぬぬ!!」
スポン! と、抜けた!!
「鍵みたいだね」
「檻の雰囲気と……似てる」
シレイアとユイが流れを作ってくれる!
「き、きっとこの檻の鍵なんだよー! は、早く出してあげたら!」
ユリカの棒読み演技! 棒読みなのにテンション高いから、余計に変!
「はいはい」
もう、色々面倒くさくなってきた。
手が粘液まみれのまま鍵穴に差し込み、左に捻る。
ガチャリと音が鳴り、ドアを開けると……幼竜がノソノソ出て来た。
『クアーーーー!!』
私に向かって幼竜が鳴くと、チョイスプレートが現れる。
○特殊イベント発生。NPCの幼竜が、パーティーに強制加入しました。
ふう、上手くいった。
現在の私の最大パーティー人数は五人だけれど、幼竜は含まれないようだ。
○幼竜を第六ステージまで連れて行くと、良い事があるかもしれません。
オルフェから聞いていた通りの流れ。
「この子を、第六ステージまで連れてけば良いみたい」
「なら、ちゃっちゃと進もうかい」
牢屋が並ぶ部屋を幼竜と共に進んでいき、ディケイドウルフが居る横を通って、再び狭い通路へ。
「別れ道ですね」
○右:魔女の黒歴史
左:魔女の作業部屋
「黒歴史って……」
ユリカが静かに驚いている。
まあ、ユリカがどういう想像をしているか知らないけれど、実際は予想の斜め上を行くだろうな。
……ハー、憂鬱だ。
「作業部屋の方が、有用なアイテムが多いんじゃないかい?」
「私は黒歴史の方が気になります」
シレイアとのこの会話も、事前の打ち合わせ通り。
「パーティーを分けよう。私は右に行く」
「なら……私とシレイアは左」
ユイとシレイアが私のパーティーから外れ、魔女の宝物庫へ。
私とタマ、ユリカと幼竜で魔女の黒歴史へと進む。
●●●
「金色のゴーレム! ゴルドゴーレムです!」
ブラックオリハルコンゴーレムを倒して先に進んでいると、メルシュが敵を視認するなり叫んだ。
ゴルドって名前についているって事は、魔法ダメージを半減させる”黄金障壁”持ちのはず。
「なら、私が行きます」
トゥスカが前へ出ると同時に、ゴーレムの両腕から黄金の散弾が飛んでくる!
「”跳躍”」
幾つかは”古生代の戦斧”で受けながら距離を詰めた所で、跳び上がるトゥスカ。
アクロバティックな動き……綺麗だな、俺の妻。
「”咎の転剣”」
左手の平の上に、禍々しいX字の巨大黒ブーメランが生まれる!
「”逢魔転剣術”――オミナススラッシャー!!」
更に禍々しさが増した状態で回転しながら、ゴルドゴーレムに接近。
――容易く黄金の巨兵を両断した。
だが、まだ動いている!
「ベクトルコントロール!」
X字ブーメランが戻ってきて、躱そうとしたゴーレムに合わせて軌道を変更!
今度は頭と胸を真二つにし……光に還した。
「宝箱?」
ゴーレムが消えたのち、黄金の宝箱が出現。
「珍しい。宝箱持ちモンスターだなんて」
「頼む、メルシュ」
現在”盗賊”は、サブ職業に余裕のあるメルシュが装着していた。
俺は”盗術”を予備スキルの方に移動させているため、今は罠を探知出来ない。
「大丈夫、罠は無いみたい。開けるよ」
メルシュが宝箱を開けると――その中には黄金の指輪。
「”黄金障壁の指輪”だね。Sランクの指輪……宝箱モンスターは、Bランク以上のモンスターからごく稀にしか出ないのに」
メルシュが不思議そうに呟く。
「名前からして、魔法ダメージを半分にしてくれるのか?」
「うん。取り敢えず、誰が装備する?」
俺は、一応指輪装備欄が埋まっているからな。魔法に対抗する手段も幾つかあるし。
「ナオさんで良いんじゃないか?」
本当はトゥスカと言いたいところだけれど、トゥスカは”古代の力”で魔法問わずダメージを五分の一にするし、ノーザンは”ゴルドサタン”に”黄金障壁”の効果が付与されている。
ナオは装備もスキルもメルシュに劣っているから、この中で一番弱いし。
「い、良いの?」
「良いけれど、割と貴重なアイテムだから、サトミのところに行くときには返してね」
「……返すのか~」
メルシュから受け取った指輪を、ウットリとした目で見ているナオ。
……果たして、本当に返してくれるのだろうか?
「さあ、早く行きましょう!」
だらけた笑顔のまま一人で進んでしまう年長者を、俺達は仕方なく追い掛けた。