表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/956

86.金色のお餅と幼竜

「凄いモンスターの数」


 タマが、周りに置かれた檻の中を見ながら呟いた。


「これ、襲っては来ないのよね?」

「ええ、大丈夫。メルシュがそう言ってたから」


 観測者に見られているのを意識し、メルシュ情報だという事をユリカに対して強調する。


 さて、ここで隠れNPCを手に入れるためのフラグを立てないといけないのだけれど……どうしよう、考えてなかった。


 どうにかして自然な流れでフラグを……思わず、足を止める。


「ジュリー様?」

「なに……このモンスター」


 私が知らないモンスターだ。


 檻の中のモンスターは獣型ばかりで、魔獣の野原に出現する個体だけと決まっている。


 決まっているはずなのに……。


「ドラゴン?」


 大型犬くらいの大きさの、黒い陸竜。


「へー、サタンドレイクの幼竜かい。腹を空かせてるんじゃないのかい?」


 シレイアのアシスト……ちょっと無理があるような気もするけれど。


「そ、そう言えば、この前面白い物を手に入れましたよね!」


 ぎこちないけれどナイスだよ、タマ!


 チョイスプレートを操作し、魔獣の野原で手に入れておいた”万能エサ”を実体化。


 手の上に、黄金の餅のような物が生まれる。

 

 後はこの餅を食べさせれば良いだけなんだけれど、この竜に食べさせて良い物だろうか?


 本当は、奥に居るはずのディケイドウルフに食べさせるつもりだったのに。


 メルシュとも、そう打ち合わせしていた。


「ほら、近付いてきた。早く食べさせておやりよ」


 シレイアが退路を塞ぐ!


 コイツに食わせろって事か。


 この流れでディケイドウルフに食べさせるのは……さすがに無理だね。


「はい、どうぞ」


 檻の中に餅を置く。


『カウ?』


 お餅をクンクンし、ペロペロし出す。


 その後、噛み千切ろうとして上手くいかず、丸ごと呑み込んだ。


『カウ!!? カーウカウカウカウカウカウカウカウカウーーー!!』


 喉に詰まらせたのか、苦しんでいる様子の幼竜。


「ジュリー……これ大丈夫なの?」


 心配そうに尋ねてくるユリカ。


「さ、さあ?」


 大丈夫なはずだけれど、実際に目の前で苦しんでいるのを見ると……可哀想。


『ゲフッ!!』


 黄金の餅が吐き出され、ネトネトの粘液と金属の棒が付いた状態で目の前に落ちる。


 ……汚い。


 でも、これも隠れNPCを手に入れるため!


「うう!」


 金色のお餅から、金属を抜こうと引っ張る!


 お、思ったよりも……キツいぃ!


 お餅を押さえている左手の平に纏わり付く粘液、気持ち悪いよぉぉ!!


「くぬぬぬぬ!!」


 スポン! と、抜けた!!


「鍵みたいだね」

「檻の雰囲気と……似てる」


 シレイアとユイが流れを作ってくれる!


「き、きっとこの檻の鍵なんだよー! は、早く出してあげたら!」

 

 ユリカの棒読み演技! 棒読みなのにテンション高いから、余計に変!


「はいはい」


 もう、色々面倒くさくなってきた。


 手が粘液まみれのまま鍵穴に差し込み、左に捻る。


 ガチャリと音が鳴り、ドアを開けると……幼竜がノソノソ出て来た。


『クアーーーー!!』


 私に向かって幼竜が鳴くと、チョイスプレートが現れる。



○特殊イベント発生。NPCの幼竜が、パーティーに強制加入しました。



 ふう、上手くいった。


 現在の私の最大パーティー人数は五人だけれど、幼竜は含まれないようだ。



○幼竜を第六ステージまで連れて行くと、良い事があるかもしれません。



 オルフェから聞いていた通りの流れ。


「この子を、第六ステージまで連れてけば良いみたい」

「なら、ちゃっちゃと進もうかい」

 

 牢屋が並ぶ部屋を幼竜と共に進んでいき、ディケイドウルフが居る横を通って、再び狭い通路へ。


「別れ道ですね」


○右:魔女の黒歴史

 左:魔女の作業部屋


「黒歴史って……」


 ユリカが静かに驚いている。


 まあ、ユリカがどういう想像をしているか知らないけれど、実際は予想の斜め上を行くだろうな。


 ……ハー、憂鬱だ。


「作業部屋の方が、有用なアイテムが多いんじゃないかい?」

「私は黒歴史の方が気になります」


 シレイアとのこの会話も、事前の打ち合わせ通り。


「パーティーを分けよう。私は右に行く」

「なら……私とシレイアは左」


 ユイとシレイアが私のパーティーから外れ、魔女の宝物庫へ。


 私とタマ、ユリカと幼竜で魔女の黒歴史へと進む。



●●●



「金色のゴーレム! ゴルドゴーレムです!」


 ブラックオリハルコンゴーレムを倒して先に進んでいると、メルシュが敵を視認するなり叫んだ。


 ゴルドって名前についているって事は、魔法ダメージを半減させる”黄金障壁”持ちのはず。


「なら、私が行きます」


 トゥスカが前へ出ると同時に、ゴーレムの両腕から黄金の散弾が飛んでくる!


「”跳躍”」


 幾つかは”古生代の戦斧”で受けながら距離を詰めた所で、跳び上がるトゥスカ。


 アクロバティックな動き……綺麗だな、俺の妻。


「”咎の転剣”」


 左手の平の上に、禍々しいX字の巨大黒ブーメランが生まれる!


「”逢魔転剣術”――オミナススラッシャー!!」


 更に禍々しさが増した状態で回転しながら、ゴルドゴーレムに接近。


 ――容易く黄金の巨兵を両断した。


 だが、まだ動いている!


「ベクトルコントロール!」


 X字ブーメランが戻ってきて、躱そうとしたゴーレムに合わせて軌道を変更!


 今度は頭と胸を真二つにし……光に還した。


「宝箱?」


 ゴーレムが消えたのち、黄金の宝箱が出現。


「珍しい。宝箱持ちモンスターだなんて」

「頼む、メルシュ」


 現在”盗賊”は、サブ職業に余裕のあるメルシュが装着していた。


 俺は”盗術”を予備スキルの方に移動させているため、今は罠を探知出来ない。


「大丈夫、罠は無いみたい。開けるよ」


 メルシュが宝箱を開けると――その中には黄金の指輪。


「”黄金障壁の指輪”だね。Sランクの指輪……宝箱モンスターは、Bランク以上のモンスターからごく稀にしか出ないのに」


 メルシュが不思議そうに呟く。


「名前からして、魔法ダメージを半分にしてくれるのか?」

「うん。取り敢えず、誰が装備する?」


 俺は、一応指輪装備欄が埋まっているからな。魔法に対抗する手段も幾つかあるし。


「ナオさんで良いんじゃないか?」


 本当はトゥスカと言いたいところだけれど、トゥスカは”古代の力”で魔法問わずダメージを五分の一にするし、ノーザンは”ゴルドサタン”に”黄金障壁”の効果が付与されている。


 ナオは装備もスキルもメルシュに劣っているから、この中で一番弱いし。


「い、良いの?」

「良いけれど、割と貴重なアイテムだから、サトミのところに行くときには返してね」


「……返すのか~」


 メルシュから受け取った指輪を、ウットリとした目で見ているナオ。


 ……果たして、本当に返してくれるのだろうか?


「さあ、早く行きましょう!」


 だらけた笑顔のまま一人で進んでしまう年長者を、俺達は仕方なく追い掛けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ