823.不義理な感情
「俺が後ろ?」
ユウダイ様が嫌がる。
「アンデッド特効のナターシャが先頭の方が良いに決まってるじゃん」
「そうですね」
メルシュ様とトゥスカ様も、私が先頭を行くことに同意してくださる。
「……分かった。後ろは任せろ」
タンクもこなせるのが私とユウダイ様しか居ないため、私が先頭だと必然的に後ろはユウダイ様が担当することに。
「行きます」
五号車から四号車の中へ。
「“ノブリージュ・レヴナント”に“ハイレヴナント”」
いきなり、Sランクモンスターが率いるAランクモンスターのお出まし。
「“鎮魂歌”――ァァァァアアアアア!!」
私を中心に、歌声と共に広がる浄化の領域を車両全体に広げる。
……ゴースト系と違い、高ランクのアンデッド系はすぐには倒せない。
“鎮魂歌”発動中、私は別のスキルを発動できないため、唄いながら“ロイヤルロードリボルバー”で迎撃。
「任せな――“火砕流”!!」
シューラさんが放った、地面を這うように猛スピードで進む岩石混じりの高温黒煙により、接近しようとしたレヴナントどもを押し返してくださる。
その間に、“ノブリージュ・レヴナント”以外は消滅。
「“邪光線”」
貴族ゾンビにトドメを刺すメルシュ様。
「――ナターシャ!!」
トゥスカ様が叫んだ瞬間、私のすぐ横の窓が割れ――“ハイレヴナント”が侵入してきた!?
「“黄昏の影操”――黄昏脚!!」
脚甲に六文字刻んだ状態で、影で縛って引き寄せた死者を蹴り殺してくださるトゥスカ様。
「ありがとうございます、助かりました」
「無事で良かった」
トゥスカ様が寝入ったあと、ユウダイ様のモノをこっそりお鎮めしたので、なんだか後ろめたいのですが……この気持ち、悪くないです。
○○○
「ヒビキの長物は、列車内でも問題無く振るえそうか?」
「ベッドルームくらい狭い場所以外は、大丈夫かと」
列車の連結部分で話していると、六号車の上を伝って来る存在の“警鐘”を受け取る。
「“バーサーク・グール”ですの!」
鳴り響く“警鐘”の強さからして、Aランクか。
このスキルとも長い付き合い。音の強弱や響き方の違いでどの程度の強さ、数なのかは判るようになってきた。
「――“水鉄砲”!!」
ダイブして来たグールを、押し返してくれるヒビキ。
「上は私が行く。中は四人で頼んだ」
本当はもう一人連れて行きたいところだが、この猛スピードで走る列車の上でまともに戦えるのは私だけだろう。
「“空遊滑脱”」
ユニークスキルで駆け上がり、六号車の上へ。
そこに、さっきの四つん這いグール。
異様に長い手脚は、昆虫の脚のような角度。
「“寒突風”!!」
凍える突風を、渦巻く奔流として叩き付ける!
これくらいでは吹っ飛んでくれないか。
「――“飛王剣”!!」
黒き曲刀、“終わらぬ苦悩を噛み締めて”を振るって斬撃を叩き込む!
「意外と楽な相手だった」
手加減してたら、手こずっていたくらいには厄介そうだったが。
「新手か――後ろからも!?」
前から“ハイレヴナント”二体、後ろからは吸血鬼らしきモンスター。
「“早駆け”」
思いっ切り蹴ると列車から弾き飛ばされそうな中、“空遊滑脱”による微調整で問題なくレヴナントの背後を取る。
「吹雪連脚!!」
左腕で空を押さえ付けながら、連続蹴りを決めて二体を蹴り落とした。
残りは一体。
「“猛吹雪の狂餓鬼”!!」
あまり使わないMPを大量消費し、巨大な餓鬼に――近付いてくる吸血鬼を殴らせる!
『ギギ!』
「堪えていないのか」
“警鐘”の感覚からして、コイツは強めのAランク。
「吸血皇程じゃないだろうが」
油断できないな。
『“狂血魔法”、ブラッドスプラッシュ』
魔法も使うのか!
「ブリザードトルネード!!」
詠唱破棄とはいえ、正面からの魔法の撃ち合いでは私が勝るらしい。
――黒のシャシュカに六文字刻み、魔法を強化して完全に押し返し――狂餓鬼に殴り潰させた。
「残り、二号車か」
●●●
「“紅蓮槍術”――クリムゾンストライク!!」
心臓から燃え上がる“ハイレヴナント”を紅蓮脚で蹴り飛ばし、通常のレヴナント数体と一緒に燃え上がらせる。
「ヒビキさん!」
ノゾミさんの合図に身を屈めると、“光線拳銃∞”の最大火力が頭上を超え、レヴナントの集団を消滅させた。
「時間がありません、行きましょう」
ノゾミさんが、珍しく積極的。
「……なんかノゾミ、機嫌悪くない?」
サンヤさんが耳打ちして来た。
「私達が起きてからは、あんな感じでしたね」
我々が眠っている間に、何かあったのでしょうか?
「コセがメイド二人に、下の世話をさせてましたの」
「「……ええ」」
「その時は私とノゾミが離れていたとはいえ、さすがに気配で解りました」
コセさん……それならノゾミさんを抱いてあげれば良かったのに。
次の車両ではノゾミが無双。アンデッド系の高ランクモンスター十体以上を、一人で葬ってしまう。
そして最後の車両は……アンデッドの重箱状態。
「来なさい、“ショック・ガードナー”」
契約していたモンスターを喚びだし、八号車に突撃させるノゾミさん。
けれど、あっという間にレヴナント達によってボコボコに。
「……これ以上は無理か」
ロボットを引っ込めるノゾミさん。
「ランクが高いアンデッドだらけ。浄化系の能力でもないと厳しそうですの」
「なら任せろ!」
リューナさんが七号車の上に。
「皆さん、一度、七号車へ戻りましょう」
ネレイスさんの指示に従い、後退する。
「――“業渦吹雪”!!」
八号車を包み込むように、リューナさんが放った冷たい風が渦を巻く。
「ネレイスさん、あのスキルはなんなのですか?」
「簡単に言うと、モンスターを極度の混乱状態にする強力なスキルですの。効果を及ぼすのに時間が掛かるうえ、ある程度大きな棒状の物が必要で、周囲の気温が低くなければなりませんの」
つまり、八号車全体を棒状の物に見立ててスキルを行使しているわけですか。
――耳を劈くような音が強くなっていく。
「アンデッドが出て来たっすね」
「でも、様子がおかしい」
などと思っていると、アンデッド同士が争い出した?
微かに見えている八号車の内部でも、アンデッド達が争い始めている。
「これなら、なんとかなりそうですね」
ノゾミさんが、二丁の“光線拳銃∞”を使い分けながら、ろくに襲ってこないアンデッドを殲滅していく。
「“浄化水晶”!」
八号車の中心辺りで、ノゾミさんがスキルを使用。設置した大型水晶から清らかな光が漏れ、アンデッドを溶かしていく。
あの光、アンデッドの進行を阻む効果もありそうですね。
「良いのを見付けました――“魔物契約”!!」
ノゾミさんが、アンデッドの一体と契約した?




