822.ヴォイニッチ手稿の力
「“植物支配”」
島の木々や草花を操り、襲い来る“ハレム・レオン”や“スカイピューマ”、“スタンピードラット”達を拘束。絞殺していく。
「“四重詠唱”、“星屑魔法”――スターダストシューティング!!」
上空から迫る“ダークバット”、“スカルドラゴン”、“吸血バット”を消し去る。
周囲から鈍重な気配。
「……今度は古生代モンスターですか」
――上空から炎が降り注ぎ、辺りの植物を燃やしてしまう!?
「“湖水王盾”!」
水の浮遊盾で防ぐ。
「……七十二柱の魔神、“フェネクス”」
紫の炎を纏う巨鳥。この炎はあれの仕業ですか。
「“後輪光輝宮”!!」
弧を描くように追尾する光弾を背後から発射。回避行動を取られつつも翼に当てて、墜落させる!
「崩壊の腕――崩壊拳!!」
指輪で生みだした巨大な左腕で、フェネクスの頭に一撃を見舞う!
倒れるフェネクスの横で、右手で持っていた“ヴォイニッチ手稿”を開く。
「“養分吸収”」
開かれたページから飛び出た植物のワームが、動きの鈍っているフェネクスを呑み込み、本の中へと消える。
HP半分以下の生物モンスターにしか通用しない、“ヴォイニッチ手稿”の能力の一つ。
「MPの供給源は手に入れました」
これで、“星屑魔法”を存分に放てる。
などと考えつつ、急ぎLvアップ報酬で“古代属性付与”を取得。
「“星屑魔法”、“古代属性付与”――スターダストシュート!!」
最高威力の“星屑魔法”を、総MPの半分と引き換えに放って“古生代コング”、“古生代コブラ”、“古生代ベアー”の身体を削っていく。
“陣属性付与”で魔法に古代属性を付与したことで、“古代の力”によるダメージ減少の対象から外れている。
「フェネクスのおかげで、暫くはポイントの消費を気にせず戦えます」
七十二柱の一柱であるフェネクスなら、暫くは優秀な養分の供給源として私のTP、MP、肉体を再生してくれるでしょう。
「なんとか、勝ちの目が見えて来ましたね」
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「“煉獄王輪剣”――“煉獄転剣術”、インフェルノブーメラン!!」
“バインプラント”、“トレント”、“フラワー・モル”、“ディヴィジョンワーム”、他の知らないモンスターもまとめてぶった切る!
切られるのに強いモンスターもいたけれど、直後に燃えれば関係ないでしょ。
「それにしても、完全に分断されたわね」
見える範囲に、仲間の姿は無い。
まあ、パーティーの半数が自分から離れていったように見えたけれど。
「日付が変わるまで、残り三十分切ったか」
島に残るって私の判断、どっちに転がるかな。
「うん?」
頭のデカい白カバのモンスターが、随分と離れた位置で止まって、こっちに向けて大口を開けた?
「――“瞬足”!」
私がさっきまでいた場所の大気が揺れ、地面が削れていく!?
“ライブラリ・グラシズ”で確認。
「“エアバスター・ヒポポタマス”? さっきのは、空気砲とかそんなんてこと?」
いずれにせよ、バカみたいな威力と射程。
「“煉獄の翼”!」
黒紫の炎翼を呼びだして空に舞い上がり、二射目を回避。
「“煉獄魔法”――インフェルノブラスター!!」
上空を狙うのは苦手らしく、私の方が先に決まった。
「一発じゃダメか――“獄卒の形相”」
バカでかい頭、“煉獄にて嘲笑う獄卒の形相”を出現させ、三射目を防ぐ。
「“煉獄弾”、“連射”!!」
形相から炎弾を放つことで威力を強化――連続で発射して反撃の隙を奪いつつ、確実に削っていく。
「新手のモンスターが……」
まだまだ、空からも地上からも集まってくるし。
こんなとき、精錬剣か“マスターアジャスト”が使えれば――カバ野郎を仕留めきって間もなく、何か巨大なのが……モンスターの群れを突き破って空中を泳いでくる!?
「“レジェンダリー・サーペント”? Sランクモンスター!?」
ペース配分している場合じゃない。
「“煉獄円輪”――“煉獄の業火炎”!!」
真っ直ぐ突っ込んでくるだけの海蛇野郎に、大火球をぶつける!
「まだ突っ込んで来るのか――“神代の炎爪”」
コセのように、十二文字刻んだ状態で青白く燃ゆる刃を長大化!!
「“煉獄爪術”――インフェルノスラッシュ!!」
十メートルを優に超えるだろう竜蛇を、横薙ぎに切り裂いた。
「ハア、ハア……」
一気にキツくなってきた。
「私、やっちゃったかな……」
大人しく、次の島を目指していれば……。
「“六重詠唱”、“星屑魔法”、“古代属性付与”――スターダストシャワー!!」
この場に集まり出していた何百というモンスターが、一瞬で消え去る。
「ご無事ですか、マスター?」
「ヨシノ……」
合流しようと地面に降り立つと、島は淡い光を放ち始めた?
「これって……安全エリアの光?」
光が、島全体へと広がっていく。
「条件は不明ですが、この島は安全エリアへと転じたようですね」
「もしあのまま進んでいたら、また何時間も飛びっぱなしになっていたかもな」
いつの間にか、レリーフェも居るし。
「ハハ、結果オーライってわけね」
何かを判断するって、本当に難しいわ。
●●●
深夜0時近く、俺達は【上級国民街】から持ち込んだ食糧で軽く夜食を取っていた。
大半がコンビニ弁当やパスタ。俺はクリームシチュー味のカップ麺。
モモカはバニラにハンバーグなどを食べさせてあげながら、ジャンクフードを頬張っていた。
『列車内にてトラブルが発生! 乗客が次々とアンデッドになっています! このままでは、運転席にまで奴等が! 助けてください!』
襲われてるのがNPCだと思うと、茶番感が凄いな。
○一時間以内に列車内のアンデッドを全滅させてください。
○時間が経つほど、アンデッドの数が増大します。
急いで夜食を平らげる。
「一時間以内にアンデッドを全滅できないと、列車がコントロール不能になってゲームオーバーだってさ」
メルシュ、“英知の引き出し”で突き止めたのか。
「前と後ろ、どっちでアンデッドは発生している?」
「両方。特に前後で難易度の差は無いみたい」
「なら、俺のパーティーが前。後ろはリューナ達。クオリアとレミーシャは、ここでモモカとバニラを守っていてくれ」
ナターシャも残して行こうか迷ったけれど、さすがに大丈夫だよな?
「了解。行くぞ、お前達」
「どこ行くの?」
「ガウ!」
モモカ達が着いてこようとしている。
「ちょっとアンデッド退治にな」
「私も行く!」
「ガウ~!」
困ったな。
「アンデッドはここにも来るかもしれない。俺達が居ない間、この場所をモモカ達に守っていて欲しいんだ」
レミーシャにローゼ、マリアに目配せし、二人を頼む。
「分かった! 任せて!」
「アウ!!」
聞き分けが良くて助かった。




