821.アイランド・ネスト
いきなり多種多様なモンスターに囲まれた。
「まるで、島全体がモンスターの巣だったみたいだな」
この数、まともにぶつかればどれだけ消耗するか。
せめて、SSランクか精錬剣が使えれば。
「どうする、ユリカ? 脱出して次の島を目指すか?」
島に降りた直後に風と雷が止んだ。
もしこれが意図的な采配なら、島を離れた瞬間、また空が荒れるだろうな。
「――全員、出し惜しみ無しでコイツらをぶっ潰すわよ!! 一時間以内にね!」
完全にブチ切れているユリカ。
「お、おい、良いのか?」
「あと一時間ちょいで日付が変わる。次の島が安全エリアとは限らないし、今なら回数制のスキルを遠慮無くぶっ放せる!」
明確に最良の判断を下せる材料が無い中で、ユリカの考えは決して悪くない。
問題は、私達が相手するモンスターの戦力がどの程度なのか判らないということ。
「良いだろう、乗ってやる!」
リーダーはユリカだ。そのユリカの判断で
死ぬなら、私はそれまでだったということ! ただそれだけだ!
「“風光円輪”、“風光弓術”――シーニックブレイズ」
空から削り穿つ矢を放ち、輝く風の輪を潜らせることで強化。
「――“一矢十矢”!!」
風光の一矢を十の矢へと変え、ジャイアントワームごと土竜モンスター共を蹴散らす!
「――暴風脚!!」
背後から襲ってきた“スカイピューマ”の首を、へし折って仕留める。
「クク! 久し振りに、モンスター相手に思いっ切り暴れさせて貰おうか!」
●●●
「“チャランケカムイ”!!」
使用できなくなった“亡者の怨嗟が還る場所”と同時に手に入れていた、私専用のカムイを降ろす!
「“蒼穹纏い”!」
蒼い風を纏って、自力を更に強化! 皆から離れ、降り立った場所の反対側を目指して進む。
「――ハァァァッ!!」
“ジャンピングタイガー”の群れを、“アジュアバックラー”と“蒼天穹を駆け穿て”で蹴散らし続ける!
できる限り一撃で急所を貫き、隙を作らないように立ち回りながら更に奥へ。
私の周囲に、モンスターがどんどん集まって来てる。
「そろそろ良いかな――“万有引力”!!」
【逆さ重力街】で手に入れたスキルを、今回は引き付ける力として行使――全方位からモンスターを私に向かって引き寄せていく!
「――“冥界の波動”!!」
“蒼穹纏い”を消さないよう、蒼穹系以外の広範囲攻撃スキルを行使! 引き付ける力と押し飛ばす力で“ジャンピングタイガー”、“ジェットモモンガ”などのモンスター集団を圧殺し尽くした。
『グルルル!!』
大型のモンスターが、暗い森の奧から猛スピードで迫ってくる。
「“咎槍”――“蒼穹投槍術”、アジュアジャベリン!!」
現れた巨牛、“レジェンダリー・ファイティングブル”の眉間に当たるも、貫けない!?
「――“蒼穹螺線術”、アジュアスパイラル!!」
武術の重ねがけで威力を激増させ、その堅い眉間を貫き――頭ごと胴体を穿ち抜いた。
「あ、危なかった」
長期戦に備えて神代文字を温存していたとはいえ、複数の強力なスキルに武術を重ねがけして、ようやく倒せた。
「それにしても、レジェンダリーモンスターも出るなんて……」
レジェンダリーモンスターの特徴は、額に紅い宝石を持つ、黒を基調とした大型モンスターであること。
外の世界では、レジェンダリーモンスターは数多の種の最上位クラスと言われていた。
「こんなのが何体も居るとしたら……マズいかもしれないです」
●●●
「邪魔!」
“随行のグリップ”を付けた“魔術師殺しの銛”、“ファンタズムハープン”、“メダライズ・ハープン”を操り、空から襲ってくる“エンジェルエッグ”の群れを撃退し続ける!
タマの後を追いたいのに、足止めがうざったい!
「“ゲイボルグ・ディープシー”は……“エンジェルエッグ”相手じゃ意味ないか」
知らず知らずのうちに、自分がSSランクに頼りがちになっていたのだと痛感させられる。
ようやく全滅――させたと思ったら、今度はこのステージで何度も戦った“ジェットモモンガ”の群れ!?
「“渦の障壁”!!」
巻き込めたのは二体だけで、他は“噴射”を器用に使って避けていく。
「“幻影の銛群”!!」
“ファンタズムハープン”を六つに増やして対抗するも、“エンジェルエッグ”ほど脆くないため、なかなか数を減らす事ができない。
「“超噴射”!」
上空へと加速し、真下に、追随してくる“ジェットモモンガ”を集める。
「“四重魔法”、“聖水魔法”――セイントスプラッシュ!!」
不意打ちで大半を仕留めた。
「残りを早く――」
頭上に、何か大きな気配!?
『グァァァアアアアッ!!』
骨のドラゴンが、暗雲を突き破って迫ってきた!!
「“超噴射”!」
噛み付きときて、すれ違い様の骨の翼も避け――骨の尻尾に弾き飛ばされるッ!!
……左腕の感覚が鈍い、たぶん折れてるッ。
「“浄解付与”――“深淵聖水銛術”、アビスセイント――ハープンッ!!」
振り返ろうと動きが止まった“スカルドラゴン”に、アンデッドやゴースト特攻の“浄解付与”を施した“メダライズ・ハープン”を食らわせ……消滅させた!!
「……タマぁ、どこ~」
私の王子様、私のピンチに全然来てくれない……。
○○○
皆から離れて、風下に移動。
「ここまで来れば――“病原菌散布”」
ランダムに状態異常にする菌を風下に流し、呼吸器官のあるモンスターにデバフを掛ける。
「――ハイパワーサイズ」
状態異常にならなかったモンスターを優先して、首か手足を“ワイルドデスサイズ”で刈り取っていく。
「ゴーレム?」
生物モンスターに混じって、一体だけ黒いゴーレムが居る?
「“禍鎌切”――“暗黒鎌術”、ダークネススラッシュ!!」
まずは、距離を取って小手調べ!
「……うそ」
“亜流手鍍人名覇砥”のサブ職業に含まれるスキルの一つ、“究極の夜”には、時間限定で防御系能力を無視する力があるのに、腕を軽く損傷させただけなんて。
「素の耐久力が高いタイプってわけね――“死霊術”、デーモンクリエイト」
MPを消費して、上半身だけの悪鬼を呼び出す。
「“闇属性付与”」
“死霊術”ともう一つのネクロマンサーのスキル、“死霊支配”で強化されている悪鬼を――ゴーレムに突撃させる!
数度の殴り合いののち、取っ組み合いへと移行する二体。
「よし――“開闢の暁光”!!」
闇属性攻撃を光属性へと転じて炸裂させるスキル、“開闢の暁光”を、“闇属性付与”を施した悪鬼に使用――至近距離で自爆させる。
コトリ達から、屋敷に自爆特攻してきた女の話を聞いて思いついた戦術。
「……うわ、まだ生きてる」
どんだけ頑丈なんだか。
「暗黒の車輪――“暗黒回転術”、ダークネスブレイズ!!」
指輪武器を飛ばし、壊れかけゴーレムを削り裂いた。
「――は?」
ゴーレムが黒い幻影になって、両腕が黒い大刃に!?
「思い出した。“ヘルレイドゴーレム”に“ヘルレイドゴースト”」
レギオンの誰かが遭遇していたのか、ライブラリに載っていた変わった特性のモンスター。
「ヘルレイドゴーストは確か、魔法以外のダメージを半減」
でも、魔法無しで倒すとサブ職業が手に入ったはず。
「相手が悪かったわね」
“死霊支配”の能力で、ゴーストである“ヘルレイドゴースト”の動きを制限。
「武器交換――“ソウルイーター”」
私の新たな黒鎌に持ち替える。
「さようなら」
ゴーストやエレメント系モンスター特攻の“ソウルイーター”と防御能力無視の“究極の夜”の組み合わせにより、数度切り裂くだけでSランクモンスターを倒しきる。
「……まだまだ休めそうにないか」
モンスター共の新たな大群が、こちらへと迫ってきていた。