819.VS空賊
前側の車両に乗り込んだ直後、“空賊”らしき奴等が剣を振り下ろしてきたけど、ハユタタが“霧散のクリアシールド”で受け、その隙に私が“腹の一物をぶちまけろ”で喉を刺す。
「“万雷投槍術”――サンダラスジャベリン!!」
ハユタタの“ヴァジュランス”が、奥にいた二人の“空賊”を貫く。
「よわ」
「油断すんなよ、ハユタタ」
「そっちこそ」
SSランクの“エロスハート”が無い以上、今までのツグミによる、火力のごり押し戦法は使えない。
なら、私達が雑魚処理を担当して、ツグミのMPをいざというときまで温存させないと。
一応、NPCの乗客は巻き込まない方が良いだろうし。
「ツグミ、“空賊”の数は?」
ユニークスキル、“人工知能”を持つツグミは、一度遭遇しモンスターと同種のモンスターの居場所が判るようになる。
「この先、列車内に二十以上。でも、列車の外と思われる場所には百以上だって」
「これ以上乗り込まれないよう、急いだ方が良さそうね」
「前はよろしく、ハユタタ。セリーヌは、念のため後ろ担当ね」
「良いだろう、任せろ」
その強がりな口調、微妙に似合ってないんだよな~、このフェアリー。
奥の扉が開き、“空賊”が四人、入ってくる。
「――“狂血針”!」
放った無数の血の針で、“即死”に関係なく片付いた。
「本当に弱いな」
「でしょ」
なんだかんだで、ハユタタとも長い付き合い。
ある意味、一番気を遣わなくて良い存在なんだよね。
次の車両に移って、数十人の“空賊”を二人で始末。
「セリーヌ、後ろは問題ない?」
「問題ない所か、なにも来ねーよ」
後ろから乗り込んだ“空賊”はコトリ達が相手してるだろうし、あんま気にしなくても良かった?
「……列車の上を、“空賊”が通り過ぎてます」
ツグミからの情報。
「全滅させなきゃいけない以上、見逃すわけにはいかないわよね」
「その必要は無いようです、ハユタタさん。後ろの扉から全員来ます」
情報通り、背後から“空賊”が入ってきた。
「一人は“空賊幹部”です。周囲の“空賊”の能力を強化します」
“人工知能”からの情報か。
「前からも、なんか来るわよ」
ドアを突き破って、四足の獣が姿を表す。
「“スカイピューマ”。動きが素早く、滑空能力もあるようです。あれは“空賊”のペット? バージョンらしいです」
賊はモンスターまで従えてんのか。
まあ、賊もモンスターの一種って扱いなんだけれどさ、このゲーム。
「“泥土魔法”――ベリアルバイパー」
ハユタタの魔法を俊敏に避けて、接近してくる白毛の“スカイピューマ”。
「“狂血纏い”」
血を身体の周囲に纏わせ、血のコーティングを施した腕に噛み付かせる。
「ネロ!?」
「“狂血刀剣術”――吸血鬼断ち」
噛み付いてきた時の衝撃を逃がすために後ろに跳びながら、首を切り落とす。
“狂血纏い”は狂血系の威力も大きく上げる代わりに、狂血系の攻撃を使うと消えてしまう。
「あんた、自分にも“即死”が適用されるんでしょ!? なに捨て身の戦い方してんのよ!」
「大丈夫、大丈夫。“狂血纏い”でダメージ入ってないから」
ダメージが入らなきゃ、“死の宣告の指輪”の効果は発動しない。敵にも、私にも。
「だからって……」
「ほら、行くよ」
次の車両に移ると、社内なのに突風が吹き荒れる!?
「ここが目的地か」
列車の一部が食い破られるように無くなっていて、代わりに、繋がれたロープの先に空飛ぶ帆船?
「おい、早く戦利品を持っていけ!」
「おう、任せろ!」
賊の一人が、袋を担いで船に逃げようとしている?
「パワーフリング」
“道化の投げナイフ”を袋持ちの首に当て、仕留めた。
「お、俺達の財宝を返しやがれ!」
「なに言ってんの、アイツ?」
疑問を感じてそうなハユタタだけれど――
「ネロさんがさっき倒した敵から、この列車で盗んだ物を手に入れられたみたいです」
「やっぱり?」
○“蒼穹の指輪”を手に入れました。
○“蒼穹神の指輪”を手に入れました。
○“守護神/平将門”を手に入れました。
○“障壁無効の腕輪”を手に入れました。
○“光輝神の指輪”を手に入れました。
○“天空竜の指輪”を手に入れました。
○“アイテム起爆の指輪”を手に入れました。
○“神宿りの腕輪”を手に入れました。
○“浮遊落としの指輪”を手に入れました。
○“Sランク倉庫の指輪”を手に入れました。
○“レベル・グラシズ”を手に入れました。
○“アームリングリング”を手に入れました。
ほぼアクセサリー類だけれど、悪くないラインナップ……たぶん。
「“万雷の鳴神”!!」
列車にいた“空賊”を、まとめて焼き殺すハユタタ。
「後は頼んだわよ、ツグミ!」
「うん!」
●●●
ようやく私の出番。
「――“桜火・切線”!!」
右手の手刀を振り抜き、それによって生まれた赤い線が――空飛ぶ船の前半分を切り裂いて発火させる。
さすがにこの巨体だと、一撃では切り裂けないか。
「“桜火爆撃”!!」
翳した手の数十メートル先で、連続爆発が起きて船を悲鳴と共に粉々に。
残った部分も燃えだし、やがて光へと変わり出す。
「さすが、ユウダイさんから貰ったスキルです」
「「そこは“桜火砲”じゃないのかよ!」」
「はい?」
●●●
「“大鬼肩腕”!」
両肩辺りに浮くように出現させた腕で、“空賊”をぶちのめす。
「コトリ、そっちに行ったぞ!」
エトラの叫びによって間一髪、“スカイピューマ”の襲撃を止められた。
「“光輝弾”」
口の中に撃ち込んで、内部から炸裂させる……血が周囲に飛び散っちゃった。すぐに光に変わるけれど、親を殺した時の感覚を思い出して嫌になっちゃう。
「“邪光線”!」
袋持ちの“空賊”を始末してくれるエトラ。
「――“竜炎砲”!!」
エトラの一撃が決まって、船が半壊。
「“果物爆弾”、“蜃気楼”」
パイナップルを十倍くらいの大きさに見せるマリナ。
「“観測透鏡”」
透明な望遠鏡のような物を頭上に生みだした瞬間、マリナが思いっ切り振りかぶった。
「――死に去らせッ!!」
巨大パイナップル爆弾が、半壊状態の船にゴールイン。一瞬遅れて大爆発を起こし、“空賊”を全滅させてしまう。
『全ての“空賊”が撃退されました。皆様、ありがとうございました。謝礼をお受け取りください』
○謝礼として3000000Gを受け取りました。
「ナイス、エトラ。ナイス、マリナ」
二人を労う。
「……私、寝直したい」
そういえばマリナって、寝起きは機嫌が悪くなりやすかったっけ。




