818.古代星魔法の魔女クミン
「装備セット3」
“ガムバックラー”で、腕部分だけが金属のモンスター、“ナックルファントム”の拳を受け止めるキャロル。
元がEランクの“ガムバックラー”だけれど、ランクをSまで強化してあるため、衝撃を霧散させる効果はめちゃくちゃ高い。
ていうか、キャロルの装備は本人の趣味の関係で低ランクだけれど、ランクを上げれば化けるタイプが多い。
おかげで、これまで手に入れたランクアップジュエルの半分は、アイツが個人で消費してしまっている。
「なんか腹立ってきた!」
“スチームガン”で、キャロルの背後を取ろうとした“ファントム・リーパー”を牽制。
「“緑雷剣術”、グリーンサンダーブレイド――“四連突き”!!」
「“蒸発魔法”――“魔法砲線”!!」
キャロルの刺突剣、“飴色の童話は美味しい”と、私の“一番星に馬鹿野郎”から繰り出したスキルで、ファントムモンスター二体を撃破。
「――“斥力”!」
別の“ナックルファントム”の一撃を、前のステージで手に入れた“斥力のタワーシールド”の能力で防ぐメリー。
「“二刀流”――“魂魄剣術”、オーブスラッシュ」
メリーが止めている間に、横合いから仕留めるロフォン。
「あと残りは――」
「……終わったよ」
「ゴースト系は相性良くないんだけれどね、アタシは」
ユイとシレイア、二人だけで五体は倒したってこと!? 私達が三体倒している間に?
「さ、さすが」
シレイアさんは隠れNPCだから強いのは解るけれど、ユイは強すぎでしょ!
「光る雲が増えてきたな」
ロフォンの言うとおり、放電する黒い雲が時間と共に増えてきている。
「さすがに、そろそろ浮き島に避難したい所だけれど……」
「あの、前方の雲……凄い勢いで近付いてません?」
メリーの発言。
「“狂乱竜技”――クレイジネスドラゴンブレス!」
シレイアさんが、巨大な暗雲に向かって攻撃した?
「……――なにあれ!?」
霧散した雲の中から、巨大な島が出て来た!?
「安全エリア……なの?」
さっきのシレイアさんの攻撃からして、まだかなりの距離があるはずなのに……デカすぎ。
「あの島は“フラットアース・タートル”――SSランクモンスターだ」
「それって、“アンラ・マンユ”と同格ってこと!?」
あの戦いで、当時のレギオンメンバーが十人以上死んだ。
「精錬剣もSSランクも使えない状態で、“アポピス”みたいな奴の相手をしないといけないの?」
ユイ、表情は変わってないけれど、声には焦りが含まれている気がした。
それくらい、ヤバい状況って事ね。
「しゃーない。悪いんだけれど、クミン――全力でやっちゃって」
キャロルからのガチトーン指示。
「私のMP全部を注ぎ込んでも、倒せるか判んないわよ?」
「尻は僕達が拭ってあげるから」
――こういう所で、私達のリーダーなんだって認めさせられるのよね!
「了解、リーダー」
私の杖、“一番星に馬鹿野郎”に――無理矢理に九文字刻む!!
「……クミンさんは何をする気?」
「強力なユニークスキルを使う気です」
メリーがユイに説明。
「“古代星魔法”――――メトシェラ」
“隕石魔法”と同じく、空が無ければ発動できない超威力の魔法。
ただし――その威力は、“隕石魔法”の比ではない。
『――――グァアァァァァァッッッ!!!?』
島上部に恒星が直撃――島に隠れていた亀の姿が顕わに。
正面の大岩だと思ってたの、亀の頭だったんだ。
「“四重詠唱”、“全属性付与”、“古代星魔法”――ニビル!!」
大きな楕円軌道を描く黒き星を魔法陣より撃ち出し――“フラットアース・タートル”の身体を削っていく!!
「ま、まだ倒れないの?」
神代文字で強化したうえで使用した“古代星魔法”の一撃で倒せなかったのは、
特殊なタイプを除けばアンラ・マンユだけだったのに。
「――へ?」
私の神代文字の力が上がった?
「頑張って、クミンさん」
ユイの神代文字の光が、私の杖に注がれている。
この力には、こんな使い方もあったんだ。
「任せて! ――“激情の法則”!!」
メトシェラで総MPの半分を使用したうえ、ニビル四発で私のMPはほぼ空っぽ!
故に、超強力な“激情の法則”を放ち、巨大な島を砕けた!
『グァアァァッッッ!!』
瓦礫と化した島の一部が、こっちに飛んでくる!?
“フラットアース・タートル”の能力なの?
「“雷岩鎚術”――ロックボルトブレイク!!」
「“魂魄転剣術”――オーブブレイズ!!」
それぞれ神代文字を六文字刻んで、対処してくれるメリーとロフォン!
キャロルやシレイアさんも、私を守るように立ち回ってくれてる。
――これで決められなきゃ、私という女が廃るってね!!
「これで決める――MPブースト」
消えかかってた九文字が、自然と安定していく。
「“六重詠唱”、“全属性付与”、“古代星魔法”――“魔法砲線”!!」
魔法陣と同じ属性、系統のエネルギーを魔法陣より極大の光線状として発射――くたばりかけの亀風情を消し飛ばす!!
「ハァー、ハァー、ハァー」
MPも精神力も、限界まで出し尽くしxj3vhrぅj。
「め、メリー……あと、よろしく」
「う、うん! 任せて、クミンちゃん」
【始まりの村】で私が買ったメリーに身体を預け、意識を手放す――――
●●●
――突然の横合いからの衝撃に、ベッド奥の壁に叩き付けられ、嫌でも目を覚ます。
間髪入れずに、逆側から二度目の強烈な衝撃!!
「……ハァ――ぁ、イツツ」
背中が痛くて眠い。何時間眠れたんだろう、私達。
「な、なんなのよ」
「う、上のベッドから落ちてお尻が……」
マリナとケルフェも混乱してるみたい。
「まったく、何が起きたのさ」
エトラが頭を抱えながら起きてきた時だった。
『皆様、“空賊”が乗り込んで来ました! 対処をお願いします! “空賊”を一時間以内に全滅させて、列車に食い付いている空賊の船を引き剥がしてください!』
制限時間が示されたか。
「装備セット1」
すぐに、起きてたツグミ達と合流。
「タマモ、船が食い付いているカ所って判る?」
この面子で、唯一の本物のNPCに尋ねる。
「前と後ろの両方やね」
やっぱり二カ所か。
「ツグミ。私達は後ろに行くから、そっちは前を担当してもらって良い?」
人数的には私のパーティーの方が多いけれど、メンバーをわざわざ割く必要性は感じない。
「はい、大丈夫です!」
ネロと目が合う……ちょっと気まずい。
「全員、気合い入れて行くよ!」
曇り空の中、二手に別れて“空賊”退治に乗り出す!