817.新たな空の足
「ジュリーさん……なんですか、これ?」
目の前の物体に驚いているクマム。
「突発クエスト前に襲ってきた“空賊”のドロップ品、“空賊の飛行船”」
クレーレが戦車砲で撃ち落としたのは、大型飛行船だったらしい。
おまけに超レアの“空賊の飛行船”をドロップするとか、クレーレは強運の持ち主か?
「お待たせしましたー」
雨でびしょ濡れになったリエリア、エレジー、ミキコ、ノーザンが、身体や髪を拭いたのち、店から出て来た。
「モンスターって、スカイロードのバブルを破壊して侵入して来るから、いきなり雨に晒されて驚きました」
リエリアの言うとおりで、クエストが始まってさっそく、私達は飛行モンスターの襲撃を受けた。
まあ、難なく撃退はしたけれど。
「これからモンスターの襲撃は更に酷くなるはず。そこで急遽だけれど、クマムのパーティーには、この“空賊の飛行船”を使って欲しい」
通常の飛行車と違って武装もあるし、雨や風の影響を最小限に抑えられる。
「でも、飛行船の動かし方が解るサブ職業ってあるんですか?」
クマムに尋ねられる。
「その辺は大丈夫。飛行船は“操舵手”、“機関士”のサブ職業を装備していれば問題ないから」
そっちのサブ職業も、“空賊”との戦いでドロップしていた。
「ジュリーさん達は、飛行船に乗らないんですか?」
「飛行船は大人数が乗れる分、小回りが利かない。私達は、飛行車でその辺をカバーするから」
「なるほど、解りました」
納得してくれるクマム。
飛行船には個室や浴場もあるはずだから、ちょっとクマム達が羨ましいんだけれど。
「ジュリー……頼みがある」
顔色が悪そうなモーヴ。
「ど、どうしたの?」
「私を飛行船に乗せてくれ」
「……なんで?」
「よくよく考えたら、あんな金属の箱に入って空を飛んでるとか……怖い」
「「「「「「今更?」」」」」」
●●●
「“停止視眼”!」
アルーシャが“ザ・ストップ・べーション”で、スカイドラゴンの動きを止めた。
「ザッカル様!」
「――“巨悪穿ち”!!」
“万の巨悪を討ち滅ぼせ”に黒き殺意を宿らせ、投げ付ける!!
「解除」
“停止視眼”は動きを止める代わりに絶対無敵状態にするためか、俺の一撃が当たる直前に解除するアルーシャ。
次の瞬間、眉間をぶち抜かれて絶命する白ドラゴン。
「ハァー……あヅぃー」
「勝った傍から情けないこと言わないでください、ザッカル様」
「いや、だってよ」
クエストが始まって間もなく、陽射しが強くなって汗が止まんねぇし、眩しくてろくに目も開けていられねぇ。
「良いの出たか、お前ら?」
“浮遊鉱石”を砕いていたルイーサ達に訊く。
「“白色恒槍シリウス”。Sランクの槍だ」
フェルナンダが教えてくれるがよ。
「クエスト前に手に入れた物より豪華じゃないか?」
大抵がアクセサリーや使い捨てアイテムだったのに。
「実際、クエストによって難易度が上がった見返りかもな」
「マジかよ……」
この暑さからとっとと逃れてぇのに、寄り道した方が得とか……勘弁してくれ。
「じゃあ、今後は寄り道せず、できるだけ早くこのステージをクリアするぞ」
「「賛成~」」
ルイーサに賛同する双子共。
「良いのか? 俺としても助かるが」
「これは、私達のクエストクリアを遅らせるための撒き餌さだろう。ギリギリを狙っていたところに、終盤に時間が掛かる難関が立ちはだかる。という作戦かもしれない」
「ありえるな」
観測者のやり口と、それに引っかかるバカな奴等の思考は、【石階段の町】で嫌と言うほど思い知らされてる。
「というか、普通にこの陽射しが危険すぎる。このままだと死ぬかもしれない」
「安全エリアでも、これじゃあ休めそうにないわよ?」
どうしたもんか。
「フェルナンダ、ノームに岩の傘を作らせる事はできる?」
アオイが何か言い出した。
「できるが、維持し続けるのは無理だぞ?」
「私がなんとかしてみる」
「良いだろう。“精霊魔法”、ノーム」
「“水銀鍍金”――“無重力化”」
岩の傘を水銀で覆ったうえで、空中に浮かせた?
「私達はこれを日除けに使う。死角になる部分は、フェルナンダとアルーシャにカバーして欲しい」
「なるほど」
「畏まりました、アオイ様」
さすが、タイトエンドのアオイ……タイトエンドの意味はよく知らねぇが。
●●●
「ご主人様」
トゥスカの声が、まどろみから引っ張り上げてくれる。
「五時間経ちました。交代です」
「ありがとう、トゥスカ」
一緒に寝ていたモモカとバニラを起こさないように……は、狭くて無理だな。
「……アウ?」
「バニラは、まだ寝てて良いぞ」
なんとか二段ベッドの下側から抜けだし、鎧を装備する。
「トゥスカ達は、これから五時間の仮眠か?」
「はい。眠っている間、ちゃんと守ってくださいね」
「眠ってなくても守るさ」
自然と優しく抱き合い、軽くキスを交わす。うん、目が覚めた。
「……」
タンクトップ姿の、髪ボサボサなノゾミさんがこっちを凝視している事に気付く。
「ご、ごめんなさい」
小声で謝罪し、ベッドルームを出て行くノゾミさん。
「……」
一回寝て気持ちをリセットできた気がしていたのに……気まずい。
「ほら、さっさと出てけ」
やって来たリューナに急かされる。
「お休み、トゥスカ、シューラ、リューナ、サンヤ、ヒビキ」
「「「「「お休み」」なさい」」っす」
「見張りはサカナか?」
「ネレイスと呼――ええ、そうですの」
つい、サカナと呼んでしまった。
ベッドルームから出てNPC組と、先に起きていたクオリアとも合流する。
「クオリア、眠れなかったのか?」
「音に敏感なので」
「クオリア様は一時間ほど前に」
レミーシャが教えてくれた。
「一時間前に何かあったのか?」
「スライムがそれなりの数、隙間から入り込んできてね」
「ベッドルームには来ませんでしたが」
メルシュとレミーシャの説明。
俺達が起きないように対処してくれたんだろうけれど、盲目故に他の五感が鋭いクオリアは起きてしまったと。
「今のところはそれくらいしか起きてないけれど、列車の出入り口に二人は待機しておいた方が良いと思う」
「基本的には開かないんだよな、ここのドアって?」
「本来はね。クエスト中だとどうなるか」
テーブルの上に、お茶をしていた痕跡が。
「あの、なら私が後ろに居ますね」
そう言って、そそくさとベッドルームの方へ行ってしまうノゾミさん。
「私もそっち行くかな」
メルシュがノゾミを追う……正直、助かった。
「ユウダイ様、溜まっておられませんか?」
唐突なナターシャの指摘。
「……へ、なんで?」
「昨日はモモカ様達と寝て、ヌいていないのでしょう?」
それはそうだけれど。
「さすがにこの状況で……」
「私とレミーシャが口で、手早く済ませますので」
半ば無理矢理、ソファーに座らせられる。
「…………よろしくお願いします」
中途半端なムラムラ状態が一番マズいとか、モモカとバニラが居ない今しかチャンスがないとか脳内で言い訳しながら、俺は鎧の装備を外した。