814.それぞれの空の旅
列車の床から侵入して来た白い紳士風の顔無しを素手で押さえ付け、“道化の投げナイフ”で首をかっ切る。
○“怪盗”のサブ職業を手に入れました。
「お疲れ、ネロさん」
「“予告状”が来たときは、どうなるかと思ったけれど」
○怪盗から予告状が届きました。
貴女方の財貨を盗みに参ります。
怪盗より
「届いてから二時間以内に来ると知ってたから、問題無く対処できたって感じ」
タマモから、見つけ次第、遠慮無く倒しちゃって良いと言われてなかったら、上手く対応できなかったかも。
「で、失敗してたらどうなってたん?」
タマモに尋ねる。
「現れてから一分以内に倒せない場合、ランダムにアクセサリー系のアイテム一つか、お金を奪われるんよ。その時に、一番近くにいた人物からねぇ」
「地味に嫌だなー」
弱いけれど、意外と厄介な敵だな、“怪盗”って。
「それにしても……」
まさか、コトリ達のパーティーと一緒の列車に乗ることになるとは。
窓辺のソファーに移動する。
「景色は、最初は悪くないと思ってたんだけれど」
「全然、変わり映えしないよね~」
コトリが声を掛けてきて、私の横に腰掛けた。
「ネロさんて――リョウに殺された人だったりする?」
耳元で囁かれた言葉に、血の気が引く!?
「……意外な反応」
「なんで……」
「まあ、半分くらい妄想じみた推測だったんだけれど、当たってたか」
頭良いんだろうなとは思ってたけれど、いったいどんな頭してたら導きだせんのよ。
「大丈夫、大丈夫。コセさんが隠してるのに、勝手に第三者に言ったりしないって」
「いや、どうやって気付いて……というか、私のこと……憎んでないの?」
「気付いた云々は、エレジーが妙にネロさんに執着していた事と、この前コセさんと“超同調”を使ったからだよ」
じゃあ、私の正体をコセが知ってから“超同調”した奴等は全員――
「言ったでしょう、半分くらい妄想じみた推測だったって。私以外は、ろくに疑ってすら
いないと思うよ」
コトリが“超同調”を軽く使って、表層意識を伝えてくる。
「それとね、リョウ達を殺された云々だけれど――ぶっちゃけ、私もあんまり好きじゃなかったからさ、アイツら」
伝わった表層意識から、その言葉が嘘じゃないと解ってしまう!
「ごめんね。二人で話せる機会がなければ、黙っているつもりだったんだけれどさ」
「コトリ、ネロ、一緒にトランプやらない?」
部屋の中心のテーブルで、ババ抜きをしていたマリナ達に誘われる。
「うん、やるぅー!」
「私は……遠慮しとくよ」
身体が寒くて、震えて、それどころじゃない。
「コトリ……か」
離れていった彼女の背中が、私に重なって見える。
彼女は私に、近いようで対極の存在。
自分の身を守るために、自分を害そうとした相手を殺した人間と、自分を害した人間を殺せず、関係ない人間を見境なく殺した私。
“超同調”の影響で、それが解ってしまった。
「……エレジーの倫理観に影響を受けて、真っ当な感覚にだいぶ戻ったと思ったら」
そのせいで、過去の自分に苦しめられることになるなんて。
……ちょっとだけ、ぶっ壊れたままで居られた方が良かったかもって……思っちゃった。
●●●
「見えてきた。最初の安全エリア」
スカイロード最寄りの小さな浮き島を目視。
「あの島に寄るよ」
私、リエリア、ナノカが乗る飛行車を駐車場に止める。
「このルートって、モンスターとか出ないのか?」
車を下りてきたモーヴの疑問。
「最初の安全エリアまでだけだよ。ここからは普通に出て来る」
ルイーサ達の自力ルートに比べたら、襲撃の頻度も低いし、タイミングも分かりやすいけれど。
「お、良い匂い」
安全エリアにある食堂から漂う香りに、クレーレが食い付く。
「朝食にはちょうど良い時間か」
ここの売り物は蕎麦だったかな? 醤油の良い匂い。
「ジュリー達の飛行車ってやたら武装多いけれど、それって必要だったの?」
ミキコに尋ねられる。
「飛行車に乗っている時にモンスターに襲われたらどうするの?」
質問で返してみた。
「え? ……あれ、クマム達が乗ってた普通の飛行車って、武装あったっけ?」
「一応はある余! リエリアのブループラズマや、ジュリーの重装甲飛行戦車に比べれば貧弱だけれど」
前下部の機銃だけだからな、普通の飛行車の武装は。
「なるほど。リエリアのオープンカータイプじゃないとモンスターに対処しづらいし、飛行車は武装が多い方が良いと……じゃあなんで、もっと良い飛行車をもう一台用意しなかったの?」
「高いし、飛行車ってあんまり使い所ないし」
リエリアのオープンカータイプは危険と言えば危険だけれど、そうじゃないとスキルや武器を生かせないしね。
「いや、高いからって……」
「ミキコさん、私達は気にしてないので大丈夫ですよ」
クマムが止めようとする。
「そうそう。それに、だからこそジュリーは、先頭は自分達が行くって言ったわけだし」
ナオも気付いてたんだ。
「そっか。ジュリー達のが一番頑丈そうだしね」
「そのことなんだけれど、次から車の走行順を私、ナノカ、リエリアの順にしたいんだ」
「なんでよ?」
「先頭と最後尾が、一番危ないから」
●●●
『乗客の皆様、申し訳ありません。現在、車内にモンスターの存在が確認されました。充分にご注意ください』
皆で早めの車内昼食を頂いていた最中、妙なアナウンスが入った。
「メルシュ」
「このアナウンスが入ったってことは、どこかから小型モンスターが現れるよ」
これが、道中の列車内で起きる事件の一つか。
「ガウガウ!!」
バニラの声に視線を追うと、俺達の傍にある吸気口のような部分から――なにかが侵入してきた!?
「“バルーンフェネック”!」
「可愛い!」
ポヨンポヨン跳ねる風船狐を見た瞬間、はしゃぎ出すモモカ!?
「モモカ、それはモンスターだよ」
「そうなの? 装備セット1!」
鉤爪を装備したモモカが、“バルーンフェネック”に向かっていく!
「“一撃必殺”!!」
モモカの鉤爪が刺さった瞬間、“バルーンフェネック”が光に変わり出した。
“一撃必殺”。初撃が二分の一の確率で“即死”になるスキルで、一日一度しか使えない。
魔神以外のモンスターにしか効果を発揮しないものの、必殺の切り札にはなる強力なスキル。
「――“魔物契約”」
モンスターの消滅エフェクトに鞭が巻き付いた瞬間、“バルーンフェネック”が元通りに!?
「ノゾミさん、テイマーのスキルを持ってたのか」
「はい、モモカちゃん」
「やったー!」
“バルーンフェネック”をモモカに手渡すノゾミさん。
「この子のお名前は?」
「へ? えーと……モモカちゃんが決めてくれる?」
ノゾミさん、名前を考えるのが苦手なのかな?
「……ポイン――この子はポイン!」
モモカ……今、ノゾミさんの胸をジーッと見て決めなかったか?
「この子の名前はポインね」
「うん! ノゾミ、ポインと一緒に遊んできて良い?」
「良いですよ」
「わーい♪」
モモカの食事は終わっていたとはいえ、ベッドルームの方へと行ってしまうお子様。
「あの、モモカに気を遣ってくれたんですか?」
「ええ、まあ……モモカちゃんが気に入っているみたいですし、ポインは使い捨てにするのはやめておきましょうか」
いつもの柔和な笑みを浮かべながら発せられた言葉に、一瞬ゾッとしてしまった。
「……キャウ」
バニラ、モモカがポインに夢中だからなのか、寂しそうだな。
ちょっと頭でも撫ででやるか。