813.新たな飛行車と浮遊鉱石
「見ろ! これが私達の飛行車、重装甲飛行戦車だ!」
今朝受け取ったばかりの指輪から、さっそく新車を呼び出す!
現れたのは、重火器を搭載した黒いワゴン車タイプ。
まあ、形状は一般的なワゴン車のボンネット部分に、一人用座席が生えてきたような感じだけれど。
その上部に戦車砲、側面部分にはレーザー銃にミサイル、運転席の前下には機銃が装備されている。
「今回は私が運転しよう!」
運転席に乗り込み、“虚空座標機”をレーダー機器に接続。
私のすぐ後ろにサキとエリーシャ、更に後ろの座席にモーヴとクレーレが乗り込む。
「結構狭いな。鎧外してて良かった」
「車ってこういう感じなんだ。リエリア姉の飛行車みたいなのを想像してた」
モーヴとクレーレ、好き勝手言って。
「にしても、この辺は飛行車が随分と並んでるな」
「あれらはレンタル品ですね。性能はこの車やリエリアさんのブループラズマ飛行車よりも劣ります」
サキがモーヴに説明してくれる。
『聞こえますか、ジュリーさん? こちら、リエリアです』
スピーカーの周波数を合わせると、さっそくリエリアの声が。
『ジュリーだ。こっちも準備オーケー』
『こっちもいける余!』
通常の飛行車の操縦は、ナノカが担当するのか。
どちらの飛行車も四人乗りだからな。
「予定通り、私が先頭で。二人は、距離を空けて着いてきて」
MPを車に補充し、操縦桿を操って浮上。
「これから、スカイロードって所を通って進むんだっけ?」
「はい。スカイロード上には、複数の飛行車用駐車場がありますから」
浮き島の端っこに到着。そこから伸びる、シャボン玉のようにうっすら色付いた、揺れる膜のトンネルへと、三台の車で走り出す!
●●●
「で、私達は地味に飛んで行くと」
アヤナがぼやいている。
自力で飛んでいくこのルートはパーティーごと。
ユリカ、イチカ、キャロル、サトミのパーティーも今頃、“虚空座標機”を頼りに目的地を目指して無限の空を飛んでいるはず。
「あ! あれって!」
雲を突き抜けながら、列車が明後日の方向へと走って行った。
「良いなぁ……優雅な列車の旅」
「アヤナ、余所見して離れるなよ」
命綱の“虚空座標機”を持っているのは、フェルナンダとアルーシャだけ。
つまり、二人からはぐれた奴は確実に死ぬ。
「モンスターが来たぞ、お前達!」
フェルナンダからの警告。
「なんだあれ?」
鳥のモンスターの大群が現れたと思ったら、実態はキラキラした一対の翼持つ……卵?
「“エンジェルエッグ”だ!」
「“極光支配”!!」
無数の極光の針を飛ばすも、盾にした翼にほぼ弾かれる!
「ソイツは属性耐性が異様に高いモンスターだ! 特に、光属性耐性は100%!」
それ、光属性ではダメージが通らないって事だよな?
「嘘でしょ? さいあくなんだけど!」
文句を言いつつ“水星のアームロッド”を振り、“ヘビーバスターソード”で薙ぎ払うアヤナ。
「あれ? コイツら、脆い?」
アヤナの通常攻撃は見た以上に強力とはいえ、なんの能力も使用していない状態で倒せた?
「“エンジェルエッグ”は属性耐性が高いだけで、武具による直接攻撃には弱いです」
アルーシャが有用な情報をくれる。
「驚かせやがって」
“ヴリル・ジェット・ヘイロウ”でバランスを取りつつ、剣と盾で返り討ちにしていく!
「予想以上に脆いな」
盾を叩き付ける所か、突撃を盾で防いだだけで砕け死んでいく。
ただし、突撃の速度と勢いはなかなかで、一歩間違えれば皆からはぐれかねない。
「“水銀手裏剣”」
浮遊武器を生み出し、投げ付けるアオイ。
「“鞭化”――ハイパワーラッシュヒット!!」
鞭に変えた“吉兆と凶兆の双銀鳳凰”に“激鞭術”を適用し、瞬く間に蹴散らしてくれる。
残りも、飛び回る“水銀手裏剣”で倒されていく。
「さすがはアオイだな! ――ブレイドサークル!」
ザッカルがアオイを褒めながら、迎撃用の下級武術と得物の剣槍で残りを片付けた。
「“エンジェルエッグ”には、属性付きの上位武術よりも通常武術の方が有効そうだ」
属性付きの方が、強化率の問題で本来は無属性武術よりも威力が高いんだが。
「このゲーム、五十ステージを越えた辺りから意地悪な仕様が増えてない? 卓越者のサブ職業を作れるようになった辺りで、属性耐性が高い敵をぶつけてくるとかさ」
アヤナの言うとおりで、“竜化”を手に入れたステージのボスが竜特効持ちだったり、【逆さ重力街】の戦士優位側に武術が効かないモンスターを出したりしてきた。
「このゲームを作ったオリジナル製作者の意図なんだろうが」
ジュリーの両親は、どういう意図があって、こういう設定にしたのか。そもそも、意図といえる程の物があったのかも分からないが……。
「アルーシャ? どこ行くんだよ!」
“飛行魔法”で離れていくアルーシャに気付くザッカル。
「見てください、“浮遊鉱石”です」
アルーシャが指し示した先には、直径五十センチ程のキラキラした青白い隕石のような物が。
「遠目だと、周りの色に溶け込んでいて分かんねぇな」
「回収せんの、アルーシャ?」
アオイが尋ねる。
「こちらの“浮遊鉱石”はアイテムではありません。特殊宝箱です」
そう言いながらアルーシャが手にしたのは、【獣の聖地】で購入出来る“割り杭”。
「ザッカル様、ちょっと支えてください」
「お、おう」
ザッカルに石を抱えさせた状態で、“割り杭”に小槌を振り下ろすアルーシャ……相変わらず、この二人はどっちが主か判らなくなる。
○“蒼穹王の指輪”を手に入れました。
「悪くはないけれど、使い所が無い物が出ちゃったわね」
「だね」
双子の言うとおりで、この指輪が合うタマは、既に同じ物を持っているからな。
「実を言うと、目的の座標に真っ直ぐ向かうと、“浮遊鉱石”に遭遇すること無くゴール出来てしまう可能性が高いのですが、どうしますか、ルイーサ様?」
アルーシャが尋ねているのは、真っ直ぐ進むか、寄り道してでもアイテムを手に入れるのか、という事だろう。
「暫くは真っ直ぐ進もう。今日の目標である三つ目の安全エリアに余裕で着けそうなら、少し回り道をしても良いだろう」
ある程度進んでからの方が、レアなアイテムが手に入りそうだしな。