810.魔法戦争の残影
「なに、コイツら?」
魔法側の重力街の外、黒い土エリアに入って暫くして、土の下から人間っぽい何かが大量に出て来た!
「“レヴナント”と“ハイ・レヴナント”だ!」
バルバが教えてくれた名前……キャロル達のパーティーが遭遇したって奴等に、その上位種までいるのか。
『ギャアァァ!!』
集団の中で、一際戦闘向きな体付きの奴が突っ込んできた!
「ハイパワースピア!」
カプアが放った戟による突きに、刺されるのではなく突き飛ばされた!?
「硬いな。アレが上位種か」
「無傷というわけではなさそうですが、油断できませんね」
「“氷獄王輪剣”――“氷獄転剣術”、コキュートスブーメラン!!」
“レヴナント”は問題なく切り裂いていくリンピョンの円剣でも、“ハイ・レヴナント”は仕留めきれていない!
「――“古代兵装/兆星の門翼”」
クリスが、大規模突発クエストでアルファ・ドラコニアン・アバターが使っていた銀河の翼を使った!?
「……凄い」
翼から放たれる無数の星々が、流星群の如く“レヴナント”共に襲い掛かり、あっという間に始末していく。
「“ハイ・レヴナント”はお願いしまぁす!」
クリスの奴、私達が強敵に集中できるようにしてくれているのか!
別の“ハイ・レヴナント”が、カプアを狙って動き出した!
「拒絶の腕!!」
両腕に、緑色の巨腕を追随させる!
「“超噴射”!」
一気に距離を詰め、カプアと屍の間に入り込んだ!
「――“拒絶”!!」
巨腕で挟み込んだ状態で衝撃波を浴びせ、“ハイ・レヴナント”を潰し殺す。
「“溶解消霧”」
溶解性の霧を散布し、“ハイ・レヴナント”ごと大量の“レヴナント”を始末していくカプア。
「“溶岩柱”!! “溶岩火龍”!!」
地面から噴き上がって前進していく溶岩の噴水に、溶岩で出来た龍が屍達を呑み込んでいく。
「“雷雲の大腕”!! “雷雲生雷”」
雷雲でできた腕で掴んだのち、その雷雲から雷を放って確実に仕留めた。
バルバもウララも、問題なく“ハイ・レヴナント”を始末しているな。
二人とも、コセ達がカードダセで出したスキルを率先して使ってるらしい。
「まずいです、メグミさん!」
背後から、サトミに向かって“ハイ・レヴナント”が二体!
「“万変の霧”」
紫色の霧で拘束してしまうサトミ。
「――リンピョンちゃん」
「お任せを――“氷獄大蛇”!」
黒い石に氷の鎧纏う大蛇が二体に纏わり付き、凍結させて砕き壊した。
「ありがとう、リンピョンちゃん♪」
「サトミ様のためならば、このくらい当然です!」
「……あの二人からは、時折インモラルな雰囲気を感じる事があります」
「ああ……」
カプアって、あの二人の関係性についてはよく知らないんだっけ?
「殲滅完了でぇす」
クリスからの報告。
「早いとこ、こんなところ抜けるわよ」
サトミに従って黒い土の上を進んでいると、何かの残骸が大量に転がっている場所へと辿り着く。
「なにかしら、ここ?」
「魔法戦争時代の名残ですね」
「魔法戦争って?」
訳知り顔のウララに尋ねる。
「魔法側の【逆さ無重力街】では、かつて起きた魔法戦争により森が消失し、大地は荒廃。戦死した者達のほとんどはアンデットになったとされているの。ゴーレムなんかは、魔法使い達が使っていた当時の兵器ね」
地面が黒い地帯に入ってから、やたらアンデットやゴーレム系ばかり出て来ると思ったら。
「じゃあ、戦士側は?」
「あちらは、魔法があまり発展しなかった歴史を辿った、もう一つの無重力街。という設定なんです」
ウララまで設定って言った。
「それよりも、この残骸を調べましょう。有用なアイテムが見付かるはず」
「有用なアイテム? このゴミの山からですか?」
懐疑的なカプア。
「これらの残骸は、大地を荒廃させた魔法兵器の成れの果て。そのパーツを回収できれば、魔法関連の強力な武具を作れるの」
五十五ステージに入ってからここまでろくにアイテムが手に入らないと思ってたら、こういうことだったのか。
「でも、ここって安全エリアじゃ無いのでしょう? 昼前にポータルがある安全エリアまで進む予定だし、長居している暇なんてあるの?」
期限までに六十ステージまで辿り着かないといけないから、あんまりチンタラしてられないのはリンピョンの言うとおり。
「安心して、リンピョンちゃん。この残骸のすぐ向こうは、ポータルのある安全エリアだから」
「なら、約二時間くらいはパーツ回収に費やしましょうか。モンスターからの襲撃によっては早めに切り上げるってことで」
「サトミとウララで二手に別れよう。一人は回収に参加せず、常に周囲を警戒しておくように」
私から、具体的な指示を出しておく。
「なにかあればここに集合するか、各々で安全エリアを目指すぞ」
このパーティー、パーティーリーダー経験者が二人とも緩いから、私が時折、皆を引き締めないといけないんだよな……。
●●●
「これが、魔法戦争の記録映像……」
魔法側の無重力街、その地下へと進んだ私達の前に現れたのは、安全エリアに置かれていた巨大コンソール。
それに近付くと、突然大量のチョイスプレートのような物が出現し、過去の記録映像を映し出しました。
機械の杖や大砲のような物を使用して、互いに殺し合っている映像もあれば、戦争の影響による飢え、怪我、病気になって苦しむ者、略奪、レイプ、リンチの映像も。
「これが戦争……なの?」
少なからず動揺していた私以上に動揺していたのが、ハユタタさん。
リアルな残酷描写は削られていたとはいえ、創作物で曲がりなりにも戦争の悲惨さに触れていた私達より、伝聞でしか知らないであろうこの世界で生きる人達の方が、ショックが大きかったのかもしれない。
その割には、セリーヌさんはハユタタさんほど動揺しているようには見えないけれど。
「……戦争って、本当に人がゴミのように見えるもんなのね」
いつになく、自分を取り繕う様子のないネロさん。
「あ……」
戦争に、ここに来るまでに遭遇したロボットやバイオモンスターが投入されだした。
更に場面は変わっていき、笑いながら拷問をし、四肢を切り刻んだり、耳を削いだり、目玉を抉り取ったり……腐った死体、元の何倍にも膨らんだ水死体、全身が焼け焦げながらも暫く動いていた焼死体、首を吊ったのち、暫く苦しそうに暴れ、首が段々と伸びていく様……さすがに私でも吐きそう。
『以上で、映像記録は全てとなります』
○後世のために残した、この負の記録映像を観てくれてありがとう。
○“オールランクアップジュエル”×3を手に入れました。
「一人三つか……けちくさ」
軽口を叩くネロさんだけれど……顔色は非常に悪い。
「もう暫く休んだ方が良さそうですね」
「……ごめん、私は先に行きたい」
「私も……あまりここに居たくない」
ハユタタさんもだけれど、一人称が俺じゃ無くなっているセリーヌさんもかなりまいってそう。
「なら、魔法の家に戻ったら? そこにポータルがあるし」
ネロさんの指摘に巨大コンソールの裏側を確認すると、そこには確かにポータルが。
「た、助かった」
「同じく……」
この様子だと、セリーヌさんは前回、このルートは通ってないんだ。