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84.心地の良い音

「これが、”辻斬り侍のスキルカード”だよ」


 夜、メルシュによって、笠を被った侍の絵のカードがリビングのテーブルの上に広げられた。


「手に入るスキルは”魔斬り”。コツが要るけれど、斬撃武器を装備している人は取得しておいた方が良いかな」


「へと、槍だと適用されないんですよね?」


 槍メインで戦うタマの確認。


「槍なら穂先で発動出来ない事もないけれど、槍や棍棒、弓や拳闘の場合は”魔突き”の方が一般的かな」


 タマの”群青の大槍”は穂先が大剣みたいだから、むしろ相性良さそう。


「必要だと思うなら使っても良いよ。数はあるしね」

「あ、ありがとうございます!」


 メルシュって、最終的な選択は俺達に委ねようとするところがあるよな?


「私の杖なら使えるんだったわね」

「一枚貰うよ」


 ユリカ、ジュリー、タマ、ユイ、シレイア、ノーザン、メルシュ、トゥスカ、俺がスキルカードを受け取り、チョイスプレートにしまってから使用を選択した。


「こっちは”凝血のマント”だよ」


 血のように鮮やかな、赤い軽いマント。


「近接戦が不得意な人にお勧めかな」

「じゃあ、私が貰っても良い?」

「良いよ」


 ナオとメルシュだけが使用するようだ。


 まあ、ここに居る者は大抵近接戦をこなすしな。

 

「これ、今日手に入れたスキルカード。少ないし大したスキルじゃないけれど」


 ジュリーが、様々なスキルカードをテーブルに並べた。


「じゃあ、気になったカードがあったら遠慮なく聞いてね」

「アタシも答えられるよ」


 メルシュとシレイアが解説し出した。


「コセは良いのか?」


 尋ねてきたのはジュリー。


「ああ、それなりにスキル数は多いから。それより聞きたいことが」

「なに?」


 チョイスプレートを開いて、ある箇所を見て貰う。


「”ヴェノムキャリバー”が自己修復中になってるんだけれど?」


 ”鉄の短剣”の時は、損壊状態と表示されていたのに。


「ああ、”自己修復”効果がある武具は、鍛冶屋に持っていかなくても修復されるんだよ。Sランク武器なら大抵が備えている効果だ。Bランクでも稀にあるけど」


「修復ってどれくらいで終わるかな?」

「損傷率次第だと思うけれど、一日から二日で大抵は直るはず」


 さすが、ゲーム開発者の娘。


「コセ……キスしていい?」

「……なぜ?」

「ユイが見てるから」


 耳元で囁くジュリーの声に、トクンと胸が高鳴る!


 唇をゆっくりと近付けることで、返事とした。


「ん♡」


 ジュリーとのキスに、あまり抵抗を感じなくなっている。


 良いのかな、これで……。


「コセ」


 ――気付いたら、唇をユリカに奪われていた!

 今朝と同じパターン。


「ユリカ?」

「会えないのが寂しかったから♡」


 粗野だったユリカが、どんどん女っぽく!


「お、俺、風呂に入ってくる!」


 このままだと、いつか理性が保たなくなるかもしれない!



             ★



「ハー……気持ちいい」


 (ひのき)風呂……至福だ。


「失礼します、コセ様!」


 ノーザンが、タオル一枚巻いた状態で入ってきた!?


「勝手にお目を汚す無礼、お許しください」

「なんでそんなに慇懃無礼な態度?」

「お許しを。どうしても伝えたい事があり」


 俺の話を聞いてない!


 湯に入り、近寄ってくるノーザン。


「コセ様、もしまた意識を持っていかれそうになった場合は、性を強く感じてください」


「……ん?」


 ノーザンと……キスしたときの話をしているんだよな?


「どういう事なんだ?」

「俗的な感覚を持てば、あの感覚に襲われづらくなります。ですが、コセ様の崇高な在り方は、それを許さないでしょう」


 この子は、俺のなにを知っていると言うんだ?


 というか、同い年なのに見た目のせいで、つい年下扱いしてしまう。


 胸は……タマよりもかなり大きいけれど。


「なので、突発的に強い俗的な感覚、性欲を刺激させるのです!」


 ……聞くのが嫌になってきた。


「もしあの感覚に襲われたら、手近に居る女とキスしたり、胸を揉んでください。良いですね!」


 実際、ノーザンとのキスで意識が持っていかれる感覚が霧散した。


 説得力はあるんだよな……説得力は。


「僕なら……その……なにをされても大丈夫なので♡」


 モジモジしながら、頬を染めるノーザン。


「なんでそこまで……」

「それが、僕の使命ですから…………あの、コセ様が使っている鎧と大剣……どうやって手に入れました?」


 ――剣呑というか、殺気一歩手前の圧を……ノーザンから一瞬感じた。

 

「剣はグレートオーガを倒して手に入れた。鎧は……骸骨が身に付けていて、俺にくれると言ってくれたんだ。俺は礼を知っているからと言って」


 あの時の骸骨の言葉、何気に嬉しかったな。


「……そうでしたか。正式に受け継いだということなのですね…………コセ様!」


 ノーザンがザパリと湯から上がり、熱い視線を送ってくる?


「いつか僕に、コセ様の子供を仕込んでください!」

「……き、気が向いたらな」


 それだけ言って、逃げるように浴室から出て自室に駆け込んだ!



○○○



「ナオ。貴方は将来、政治家かその妻になりなさい。無理そうなら、メディアの仕事に就くのよ!」


「どうして?」


 幼い私は、母にそう尋ねた。


「祖国のために、卑怯者の民族が住むこの国を内側から滅ぼすのよ! 貴方は、そのための手助けをするの! 私達最優秀民族の国をいつまでも後進国扱いする嘘吐き政府を打倒し、同胞の息の掛かった政党を、この国の与党に据えるのよ!」


「でも……お父さんは? お父さんは優しいよ?」

「騙されちゃダメよ、ナオ。あの男は嘘つきなんだから!」


「ならなんで……」


 ならなんで、お父さんと結婚して、私を産んだのか。そう聞こうと思ったとき、お父さんが仕事から帰ってきた。


「ただいま。外、もう暗いよ。灯り点けないの?」

「あら~、お帰りなさい、アナタ♪」


 お父さんを嘘吐きと罵ったその口で、私の母親は、お父さんに甘え声を出す。


 どちらの方が嘘吐きなのか。


 それから暫くして、私の両親は別れた。


 私の弟が、お父さんの子じゃないと分かった事が切っ掛けで。


 それでもお父さんは、私達を引き取って、育ててくれた。


 そのお父さんの優しさは、弟には伝わらなかったみたいだけれど。



○○○



「ふあ~あ……朝か」


 嫌な夢見ちゃった。


「……起きるか」


 水でも飲も。


 着替えて、台所に向かう。


「……コセ? ……なにしてるの?」

「おはよう、ナオさん……ちょっと、早く目が覚めちゃって」


 大きな鍋で、なにかを煮込んでいるらしい。


「コセって、優しいよね」

「朝ご飯作ってるだけで?」

「そういうわけじゃないけれど……でもさ、コセって損する性格でしょ? 色々押し付けられたりとかさ」


 戦力外のはずの私やノーザンを、受け入れてくれたみたいに。


「まあ……この世界に来る前は、そうだったかな」


 ちょっとだけ、お父さんに似ている。


「ナオさんは、やっぱり帰りたいんですか? 元の世界に」

「……嫌かな」


 お父さんは過労で死んだ。私と弟のために、精神的にボロボロな状態のまま、朝から晩まで働いて。


 高校生になって、ようやくバイトを始められるという矢先にお父さんが死んで……あの母親は、弟だけを引き取っていった。


 本当は私の事、思い通りにならないから嫌いだったって言い残して。


 私は、自称最優秀民族のアイツらが嫌いだ。


 自分に半分、その血が流れているのが……お父さんに申し訳ない。


 あんな奴等が生きている世界に、戻りたくなんてないよ。


「コセ……無理しちゃダメよ」

「へ? ああ、はい」


 コイツ、悪い意味でお父さんに似てるわ。


 静かな空間にグツグツという煮える音が響いて、なんか心地良くて……皆が起きてくるまで、私はコセの近くでその音を聞いていた。


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