806.逆さ重力街の地下へ
「“桜火弾”――“連射”」
左手のピンクの機械甲手より、炎弾を連射。
エレベーターから降りた直後に現れた二足歩行の小型戦車、“フットパンツァー”四機を破壊。
「うん、やっぱりこっちの方が連射速度は早い」
上級国民戦争の時に手に入れた“怨霊弾のスキルカード”に、属性変換の機能を使って得た“桜火弾”。
“魔力砲”などの大火力砲撃だと、連射速度がイマイチで使いづらいと思うことも少なくなかった。
「地下、それも金属だらけの閉鎖空間だからか、この前の大規模突発クエストを思い出すのよね」
ハユタタさんのぼやき。
「四人だけだと、さすがに寂しいよね~。ハユタタちゃ~ん」
ネロさんが、またハユタタさんをからかいだす。
「アンタは、エレジーが居なくて寂しいんでしょう? 向こうのパーティーにでも入れて貰ったら?」
ああ、またハユタタさんが燃料投下するような事を。
「……」
「……なんか言いなさいよ」
珍しく押し黙るネロさん。
「……エレジーの居るパーティーには入らないよ」
「なんでよ? あんなに仲良いのに」
「だって、一緒に居るとエレジーの事ばかり考えちゃって、他の事が全然頭に入らなくなっちゃうんだもん!」
こんな乙女なネロさん、初めて見ました。
「ああ……はい、ごちそうさん」
呆れとドン引きが混ざったような顔のハユタタさん。
「お前、コセさん♡ とエレジーのどっちが好きなの?」
「へ? エレジーだけど?」
セリーヌさんの問いに、即座に返すネロさん。
「……お前、なんでコセさん♡ と寝たんだよ?」
「別に、コセの事を好きじゃないわけじゃないよ? 一番好き、愛してるって感情を抱いているのがエレジーってだけで」
「「ええ……」」
理解できない様子の二人。
「私のエレジーへの想いは、性愛であり、敬愛であり、友愛であり、親愛であり、恋愛なの」
「ユウダイさんは?」
「……まあ、コセもっちゃコセもだけれど、愛のブレンドの割合が違う上に、エレジーに比べると全体的に薄めっていうか」
私にもよく分からなくなった。
「エレジーってね、本当に心の底から清楚なんだよ。あんなに清らかで真っ直ぐで純粋な娘が世の中に実在するなんて……しかも、私と交わったせいで淫乱さとドロドロの性技まで持ち合わせちゃって――推しを穢した背徳感って気持ちに、凄くゾクゾクしちゃうんだよ♡♡♡♡!!」
「「……コイツ、ヤバ」」
「フフフ!」
思わず笑ってしまう。
「ツグミ?」
「いえ。ネロさんが、私達の前でも自分らしさを出せるようになったんだなって」
「……気付いてたの?」
バツが悪そうに頬を掻き出すネロさん。
「朝から晩まであんな胡散臭い喋り方してたら、全然本音で喋ってないって事くらいバレバレでしょうが!」
ネロさんとの付き合いが長いハユタタさんが、指を指して指摘。
「あ~、やっぱバレてた?」
「ネロさんは、素直な自分を見せるのが怖いんだろうなとは思ってましたよ」
「……ツグミのそういうところ、コセに似てるね」
「そ、そうですか♡?」
ユウダイさんに似てるなんて……照れちゃいます♡
「ツグミってさ、コセが絡んだ時だけは、乙女になんのよね」
「普段は、如来か何かかってくらい母性っていうか、神々しい何かを放ってるのに」
「そういう雰囲気に、つい力を貸してあげたいって思っちゃうのよね」
ハユタタさんとネロさんとセリーヌさんの三人が、なんだか意気投合したような顔をしています!
「もう、三人でなんの話をしてたんですかぁ?」
「「「内緒」」」
「もう、狡いですよぉ!」
ユウダイさんと出会って、今みたいに笑えるようになって、私、こんなに友達ができました。
ネロさんまで素直にしてしまうし……やっぱり、ユウダイさんは凄いです!
●●●
「“植物魔法”――バインバインド!」
ヨシノの魔法により、四体の雑魚バイオモンスターが拘束される。
「“煉獄支配”!!」
五つの黒き爪杖、“煉獄は罪過を兆滅せしめん”に施した“マスターアジャスト”の力で、青いゼリー纏うモンスターを一気に焼却!
「食らった攻撃属性の耐性向上効果も、“植物魔法”と“煉獄支配”のコンボで問題なさそうだな」
レリーフェの冷静な分析。
「油断はできないけれどね。奥に進むごとにバイオモンスターの割合が増えてきてるし、もっとタフなやつ相手だと倒しきれないかも」
「……ユリカ」
「何よ?」
「いや、頼もしくなったなと」
レリーフェに褒められた!?
「そんなに驚くなよ」
「だって、アンタが人を褒めるのって珍しくない?」
「確かに、そうかもな」
「ユリカさん、安全エリアです」
タマが教えてくれる。
「そこで休みましょうか」
安全エリアに入ったのち、太い鉄パイプの上に腰を下ろす。
「通路は大して広くもなく、剥き出しのパイプだらけ……暗いし、気が滅入りそう」
ここまでほとんど一本道。ダンジョン・ザ・チョイスらしくない。
「ほら、紅茶」
「準備良いわね」
レリーフェから、グラスに入ったアイスティーを受け取る。
「用意したのはカナだよ」
「さすが」
気遣いに関しては、カナはレギオン内で頭一つ抜けている印象。
「……訊いてなかったけれどさ、アテルのところにいるルフィルとはどういう関係なわけ?」
「…………」
「……悪かったわね、立ち入った事を聞いて」
「いや、なんと言えば良いのか……」
悩んでいる様子のレリーフェ。
「私とルフィルは、騎士団の団長と副団長という関係で……親友だった」
「親友……」
元は仲が良かったんだろうなって感じはしてたけれど。
「ルフィルは私と同郷だが、父親がウォリバリュナの者でな?」
「なにその……ウォリバ……ウォリバルナ?」
舌噛みそうなんだけれど?
「ウォリバリュナな。エルフの五大部族の一つで、瞳も髪も青いのが特徴だ」
「そう言えば、ルフィルって瞳が碧かったわね」
レリーフェは、緑髪で緑色の瞳。
「目の色のせいで、ルフィルは幼少の頃にたびたび差別的な扱いを受けていてな。おそらく、あまり同胞に対して仲間意識を持っていないのだろう」
そう言えば、二十ステージでリューナ達と襲ってきた時点で、エルフ達とは距離を置いてたのか。
「極めつけは、私がルフィルを失望させた事だろうな」
「失望?」
「私の騎士団が壊滅したきっかけが、当時、慰問に来てくださっていた王族の避難を優先したが故だった」
空気が、少し重くなる。
「副官のルフィルは騎士団の体勢を整えることを優先するよう、私に具申していたのに……私は彼女の案を一蹴して……結果はこの様だ」
捕まって、このダンジョン・ザ・チョイスの奴隷にされたと。
「見限られたんだ、私は。上官としても、親友としても……」
「なら、なんで同じイヤリングしてんのよ、アンタら」
レリーフェとルフィルの片耳には、同じデザインの大きなイヤリングがあった。
「それは……」
「本気で見限ったわけじゃないんでしょ、きっと。でも……自分で、自分の気持ちに整理が付けられなくなっちゃったんじゃないの? ルフィルはさ」
少なくとも、この前の大規模突発クエストの報酬分配の時、ルフィルはまだあのイヤリングを付けてた。
「……ルフィル」
「ああ、羨ましい! 私なんて、親友と呼べるような人間に出会えたことないわよ!」
タマとスゥーシャの関係を親友って呼んで良いのかはわっかんないけれど、それに近しい関係には見える。
「確かに私とお前は親友じゃないが――戦友だとは思っているぞ」
――心が、強く跳ねた。
こんなの、コセへの恋を自覚したときいらい……。
「そろそろ出発するか、リーダー」
「う、うん……」
そっか……レリーフェは私のこと、友達って思ってくれてたんだ。