805.逆さ無重力街の荒れ地
「どこまでも荒れ地だなー」
街の外に出て暫くしたのち、モーヴがぼやく。
「こっちの街は、魔法実験や戦争で荒れ地と化したっていう設定があるからね」
“重力コンパス”を頼りに、先へと進む。
「……なんかが大量に来るよ!」
クレーレ、地響きで察知したか。
「“アーマーリザード”だよ」
“ケラウノス・ミョルニル”の“雷支配”で、土色の巨大蜥蜴の群れを攻撃……大したダメージにはなってないか。
魔法耐性と雷耐性が高いモンスターだからな。
「モーヴ、“重力砲”!」
「了解! “稼働”――“重力砲”!!」
“重力重砲”から放たれた一撃により、群れの五分の一程が吹き飛ぶ。
“贋作者”のユニークスキルで、モーヴには“エロスハート”を使わせている。
「“氷砕牙の剛毛象”!!」
クレーレ、MPを大量消費する守護神のスキルを。
「ちゃんとペース配分するのよ、クレーレ!」
「大丈夫、大丈夫!」
氷鉄のマンモスが、“アーマーリザード”を蹂躙していく……まあ、悪くない判断だとは思ってたし。
「キンちゃん!」
指輪で呼び出した走金竜に乗ったモモカが、バニラと共に、行軍から離れたはぐれ“アーマーリザード”を始末していく。
戦士のステータスが半分になっているとはいえ、元のLvが100近いからな……装備もスキルも、オリジナルの通常プレ一より遥かに恵まれてるし、ローゼとマリアも着いてるから問題ないか。
「――モーヴ、“重力隔幕”!」
「“重力隔幕”!!」
半透明な黒い重力のカーテンで、群れの本体を止めさせる!
「装備セット4――“四重詠唱”、“風光魔法”、シーニックダウンバースト!!」
“アラストール・ガントレット”で“魔法剣杖ミストルティ”の記憶を読み取り、武具に刻まれていた“風光魔法”を発動!! 一気に殲滅してみせた。
残党は、サキの契約モンスターとモモカ達に任せるか。
「凄い数だったな」
「ここは見晴らしが良いからか、大群が襲ってくるように調整されてるんだよ」
オリジナルと比べると、さっきのは多過ぎだった気がするけれど。
「安全エリアまでは遠い。辿り着くまでに、あと何回の襲撃を受けることになるか」
●●●
「“颶風魔法”――ストームブラスト!!」
荒野に現れたスリムな四メートル程の機械ゴーレムに、嵐の砲弾を放つ!
「え、魔法が消えた?」
当たる直前、溶けるように私の魔法が……。
「サトミさん、ソレは“マジックアンチゴーレム”です!」
ウララちゃんが教えてくれる!
「つまり、魔法が効かない敵ってわけね」
魔法使い優位のルートに、魔法が効かない敵とか……ジュリーちゃんのご両親、ちょっと意地悪過ぎないかしら?
一緒に現れた“大ムカデ”と“デザートラビット”の二つの群れのせいで、みんな手一杯だし。
「“颶風の雷撃”」
カードダセで手に入れたスキルを行使――青緑色の雷を放って、細長い左腕を焼き焦がす。
「このくらいじゃダメみたいね」
スキル攻撃は有効みたいだけれど。
――ゴーレムとは思えない素早い動きで、接近される!?
「“万変の霧”!!」
紫色の霧を壁にして防いだのち、鞭のように操って拘束!
「――“神代の真秀颶風”」
“紺碧の空は真秀な静寂を求めて”に数秒間だけ十二文字刻み、生みだした颶風の球体で――“マジックアンチゴーレム”の上半身を、捻じ切って粉々にした。
「……フー」
神代文字は極力使わない方針だったけれど、つい使ってしまったわ。
「“アーマーリザード”は出ないか」
モンスターを殲滅したメグミちゃんの、残念そうな呟き。
「“アーマーリザード”が、例の能力の対象になるかは判らないんでしょ?」
「まあ、対象は竜だから、トカゲ分類は無理だろうな」
自分だけが使えるSSランクを手に入れてから、どこか浮かれているように見えるメグミちゃん。
「“マジックアンチゴーレム”が出たなら、そろそろ中間地点のはずです」
ウララちゃんからの情報。
「もうほとんど、普段の重力と変わらない感覚になってきてる」
リンピョンちゃんの発言。
「……あっち、見渡す限り、土が黒かったでぇす」
大岩に乗って遠くを眺めていたクリスちゃんが、降りてきて報告してくれた。
「なら、その手前くらいに安全エリアがあるはずです。そこが今日の攻略の、最終目標地点になります」
「じゃあ、急ぎましょうか」
もうすぐ夕刻なうえ、今日は歩きっぱなしでしんどい。
「でも、なぁんで黒い? 上の街は森だらけなのにぃ」
クリスちゃんの疑問。
「魔法使い側の街は、魔法中心に発展した歴史を歩み、結果、魔法戦争が起きて、街の周りが草木の生えない土地へと荒廃してしまった。という設定があるので」
ウララちゃんも、このダンジョン・ザ・チョイスの相当なマニアって感じがするわね~。
「上の街は、魔法が発展しなかったから豊かな森に囲まれていると……【逆さ無重力街】のこのコンセプトには、なにか意味があるのでしょうか?」
狸獣人のカプアちゃんからの疑問。
「その辺の答え合わせは、街の地下にあるの! 聞きたい? カプア!」
「へ……」
やっぱりウララちゃんも、ジュリーちゃん達のように、このゲームの相当なマニアなのね。
○○○
魔法使い側の【逆さ無重力街】、その中心地に聳える塔の前までやって来た。
「こちら、文化遺産の重力塔となっております」
○入場料、1000Gになります。
パーティーリーダーである僕が六人分の入場料を受付嬢さんに払って、塔の内部へ。
「上に行けば頭上の街に行けるのよね?」
目の前のエレベーターを見ながらの、クミンのぼやき。
「らしいね。じゃ、さっさとエレベーターの裏側に行くよ」
円状の壁を伝って反対側へと行くと、表にあったエレベーターよりも小さい入り口がヒッソリとあった。
「ここで良いんだよね、シレイアさん?」
「ああ、この先が五十五ステージのダンジョンだよ」
「悪いはね、ツグミ。隠れNPCが居ない私達のために……」
申し訳なさそうなクミン。
「気にしないでください。私にはユニークスキルの“人工知能”があるので」
「あんたらの実力、早めに確認しておきたいしね~」
あらら、シレイアさんからプレッシャーじゃ~ん。
「ここからはパーティーごとだ。心して進みな」
「ほんじゃ、いっくぞー!」
元々のパーティーメンバーにユイさんとシレイアさんを加えた面子で、私達はエレベーターに乗り込んで地下へと向かう!




