804.逆さ無重力街の森
【逆さ無重力街】に辿り着いた次の日の早朝、街の外壁を出て森に入ると、さっそくモンスターの襲来。
「――行け」
“フリーリー・オービットソード”を組み込んだ“ウェポン・クラスター”で、“バーバリアン”の胸を貫かせる。
続いて、ゴブリン系、ゴーレム系、リス系モンスターも葬っていく。
「――“不撓の大地”」
“グレートグランドキャリバー”の効果を“ウェポンクラスター”で発動。飛んできた光球の盾とする。
「こんなに早く出て来るなんてね」
「あれはなんだ?」
キラキラした光が、人型を形作っている。
「“オリジン・エレメント”。エレメント系のSランクモンスターです」
ナターシャが教えてくれる。
通常攻撃ダメージを半減させるエレメント系が、魔法の威力が半減する戦士側に出てくるのか。
「アレは私がやるよ――“有象支配”」
“マス・ホログラフィック”の力で、浮遊剣モンスターの皮を次々と生みだしていくメルシュ。
「“宝石魔法”、ラブラドライトチャレンジ」
攻撃力をランダムに強化する魔法で、浮遊剣の威力を底上げしているのか。
「片付けてきて」
無数の浮遊剣に対し、光で対抗しようとする“オリジン・エレメント”だけれど、着実にダメージが蓄積されていく。
「“三重詠唱”、“宝石魔法”」
メルシュが三つの魔法陣を展開。
「――ガーネットダークレイ!!」
三つの闇の光線が直撃し、怯ませる。
「“宝石魔法”――スフェーンブラスト」
剣と魔法の応酬に加え、黄金の剣を持つ偽大天使による一撃も決まり、完全にメルシュが優勢に。
「“宝石魔法”――マラカイトダウンバースト!!」
頭上からの淡く青い重風圧により、決着が着く。
「魔法の威力にステータスも半減してるから、手こずっちゃった」
「SSランクに“宝石魔法”。実質、消耗無しで戦える手札が充実してるんだな、メルシュは」
触媒を消費して発動する“宝石魔法”はMP消費が無いため、MPの回復速度が半減するこの場所では非常に魅力的。
その“宝石魔法”も、エターナルと名の付く指輪のおかげで無限に使えるし。
「というわけで、戦士向きじゃない敵は私がある程度受け持つよ」
「それにしても、見たことない系統の“宝石魔法”がありましたね。もしかして、また新しい宝石の指輪を手に入れたとか?」
「へ? ……そんなことないよ」
下手くそな誤魔化し方。半分はわざとだな。
「メルシュ様は、ギルドがある街にいるときは、毎日のように宝石店に通われてますから」
ナターシャの暴露。
十六ステージにある、例の宝石店か。
「メルシュ、俺にはカードダセで無駄遣いするなって言っておきながら……」
「む、無駄遣いはしてないもん!」
お、ちょっと本気でむきになったっぽい。
「なんだい、メルシュは宝石好きなのかい?」
シューラまでからかい出す。
「いや、だから……」
「エターナル系の指輪、ライブラリには十三種類が表示されていますね。しかも、全て入手済みになってます」
トゥスカが問い詰める。
「ひ、必要経費だもん……」
この反応、多少は無駄遣いしている自覚はあったな。
「ま、良いか。先に進むぞ」
メルシュが素の感情を出してくれたのには、ちょっと良い気分だ。
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「起伏が激しいですね、この森は」
リエリアの呟き。
おかげで、下りたり上ったりを繰り返して進む羽目に……疲れて来た。
「飛んで行きたいところだけど……」
この辺の木々より高い位置まで行くと無重力になって、一歩間違えると頭上に浮かぶ大地に落ちていくことになり、魔法使い側の中央塔に強制転移させられてしまうらしい。
「思ったよりキツい。ねぇ、あんたらは大丈夫?」
最初は、身体がフワフワして楽に進める気がしてたけれど。
「ええ、大丈夫よ」
「僕は問題ありません」
「私も大丈夫です」
ミキコ、ノーザン、エレジーは全然疲れてないらしい。
「ナオさんはステータスが半減しているので、疲れを感じやすいのかもしれませんね」
クマムちゃんがフォローしてくれる! マジ天使!
「そう言えば、このパーティーで魔法使いはナオとリエリアだけか」
当たり前のように呼び捨てにするミキコ。
「なに、ナオ?」
「いや、随分と馴染んだなって」
《ザ・フェミニスターズ》と初めて接触したときは、あんまり仲良くできる気しなかったけれど。
「……正直、《ザ・フェミニスターズ》よりも、アンタ達《龍意のケンシ》の方が居心地は良いわ。あの男さえ居なければだけれど」
未だにコセには敵意丸出し……もしかして、わざと距離を取るために言ってる?
それが無意識なのか意識してなのかは解んないけど……本当、他人の事を深く考えるようになったな、私。
大きな根や岩の上り下りに、モンスターとの戦闘を繰り返しながら、ようやく安全エリアである開けた場所へと到達。
「“ソーマ”の湧き水スポットがある余!」
はしゃぐナノカが、青い甘水をがぶ飲みしだす。
「うーん、この贅沢感がたまらん余!」
「クマムちゃん、どうしたの?」
「“重力コンパス”を見ていたんです」
街の外のルートを進むのに、必須だというアイテム。
「青い針が指す方向に進めば良いんだっけ?」
クマムちゃんの手にある“重力コンパス”は、私が知る方位磁石と見た目は大差ないけれど。
「より重力が重い方を指す仕組み余」
喉を潤したナノカが戻ってきた。
「その方向に、次のボス部屋へのポータルがあんの?」
「まあね。ただ、目的地に近付けば近付くほど本来の重力に戻っていくから、気を付けるんだ余」
「……本当だ」
街でジャンプしたときは軽々と四、五メートルくらい跳べたのに、今は二メートル程度。
本来の重力感覚としては、二、三十センチ程度のジャンプだったけれど。
「ルートから外れると、街に戻ってしまうんだったわよね?」
ミキコの問い。
「そうそう。何気に慎重さが求められるルートなんだ余」
「……」
「どうしました? ミキコさん」
クマムちゃんが尋ねる。
「いや……本当に攻略がスムーズでさ。なんの諍いも起きないし」
「《ザ・フェミニスターズ》では違ったの?」
四十ステージでの突発クエスト中に、内輪揉めが起きたのは知っているけれど。
「……男嫌いの女の集まりだった。ただ……その男嫌いに温度差があったのは間違いないわ」
答えになってない気がするけれど、そこにレギオン内での諍いの原因があると思ってんのかね、ミキコは。




