803.お門違いの誤解
○以下から購入できます。
★浮遊制御ボート 11500000G
★重力コンパス 300000G
★重力の指輪 1000000G
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【逆さ重力街】に辿り着いた日の午後、店に買い物に来ていた。
「メルシュ、この“浮遊制御ボート”っていうのは?」
「この街なら自由に飛び回れる、サーフィンボートみたいなやつだよ。頭上の街へ、いつでも行き来できるようになるアイテムでもある」
「行き来できるんだ……この街以外だと飛び回れないのか?」
「重力街は重力が弱いから高く飛ぶこともできるんだけれど、他の場所だとレールバイク同様、地面から数十センチ浮くだけだからね。サーフィンみたいに飛び上がる事もできるけれど」
「……買ってみようかな」
「マスター、ハッキリ言って無駄遣いだよ。バイクで代用できるし」
「でも、俺のバイクは浮かないし、バイクと違って両手が使えそうだから、悪くないんじゃないかと」
「……まあ、一つくらい持ってても良いか。コンパス以外も一通り買うつもりだったし」
メルシュは、ライブラリを埋めるのが好きなんだろうか。
「それにしても、プレーヤーが全然居ませんね」
トゥスカの指摘。
「街が暗いからか、頭の上の景観が不気味だからなのか、あんまり長居したい街ではないよね」
黒ずんだ金属でできた円柱状の建物がほとんどを占める街並みは、どこか退廃的だ。
「まあ、この特殊な環境も理由の一つかもな」
道具屋の店の出入り口から飛び降り、四メートル程下の地面に着地。
「重力が軽いから軽く跳んでも届くとはいえ、二階に出入り口があるのは慣れる気がしないな」
「まるで、マッドフラットに呑み込まれた後の街のようだよな?」
“神秘の館”に居たはずのレンとイチカが、何故かここに。
「マッドフラット?」
「知らないか? 嘘か本当か、タルタニア文明を歴史から消し去った泥の津波の事だよ」
陰謀論とか信じてなかった割に、そういうのに詳しいよな、コイツ。
「俺は初めて聞いたな。で、それが二階に入り口があるのと関係あるのか?」
「あるぞ。泥の津波に呑み込まれた後の街は、一階部分が完全に泥に吞まれてしまったために、本来の二階部分に新しい出入り口が作られたらしい」
そう言われると、似てなくもないか……一階部分、普通に見えてるけれど。
「“泥土支配”の能力を持つSSランクが、“マッドフラット・クレヨン”でしたね」
ナターシャの指摘。
第三回大規模突発クエストで手に入れ、最終的にキクル達の手に渡ったSSランクの名前……か。
「それで、二人は何故ここに? 街には出ないんじゃありませんでしたっけ?」
トゥスカの問い。
「実は、コセさんを探してたんです」
焦っている様子のイチカ。
「俺を?」
「それが……フミノさんとユイさんが、突然喧嘩を始めてしまって!」
「……へ?」
なぜ、その二人?
●●●
【逆さ無重力街】にある裏路地の更に奥から、地下へと続く通路を進んだ先へとやって来た。
「……いらっしゃい」
○以下から購入可能です。
★重力崩壊のスキルカード 600000G
★万有引力のスキルカード 600000G
★無重力空間のスキルカード 600000G
「全部一枚ずつ、倍の値段で買わせて貰う」
「ジュリー?」
着いてきたモーヴの疑問の声。
「ありがたい話だが、うちではそういう商売はしてないよ」
「ダメか」
大人しく値段通りのお金を払って、一枚ずつ購入。
「なんなんだよ、今のやり取り?」
モーヴに尋ねられる。
「ユニークスキル、“超重力魔法”を手に入れる手順だったんだけれど、既に取られちゃってたみたいだね」
“免許皆伝”を使っても卓越者のサブ職業にできない、完全な魔法専用ユニークスキルの一つ。
ここ、魔法使い側の街の利点の一つだったんだけれどね。
「強いのか、その魔法?」
「闇、鉄、星の三属性魔法なうえ、ユニーク魔法の中でも威力が突出しているよ」
本当に、威力だけなら最上位に食い込む。
「さて、早く別のお店も回ろうか」
モモカとバニラを除くパーティーメンバーと共に、次の店へと向かう。
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○以下から購入可能です。
★引斥力ガン 7000000G
★斥力のタワーシールド 11000000G
★引力の矢筒 5000000G
「これが、戦士側でしか手に入らないって代物か」
メルシュに一通り買えとは言われたが……。
「ノゾミ、このアイテムって買う理由はあるのか?」
うちのナンバー1ボインに尋ねる。
「これ自体はあんまりですかね。この後の攻略には役立ちますけど、単純な性能なら、より優れた物を持ってるでしょうし」
購入してみるも、全てAかBランクか。
「まあ、ゲーマーならライブラリを埋めたい衝動には駆られますけれどね」
意外とオタク気質なんだよな、ノゾミは。
「ノゾミさん、体調は特に問題ありませんか?」
ヒビキが尋ねる。
「へ? どうしてですか?」
「魔法使いのステータスは半分になると聞いたので」
「そう言えば、いつもより身体が動かしづらい感じはします」
「サカナはどうだ?」
「だからネレイスと呼べと……まあ、結構な弱体化をしてますの」
うちの魔法使い二人組は、前線に出し過ぎないようにしないとな。
「そろそろ帰るか」
“神秘の館”に帰還すると、庭にほぼ全員が集まって……その中心で、何故か握手を交わしているフミノとユイ。
「どういう状況なんだ、これ?」
●●●
「キャロルさんから、ユイさんがある男に言った言葉を聞いて、私が勘違いをしてしまいまして……ごめんなさい」
ばつが悪そうに謝罪するフミノ。
「ある男?」
「この前の突発クエストで、ユイさんが戦った相手のことだよ……その時に聞いたセリフの、僕の言い方が悪くて……」
フミノよりもばつが悪そうなキャロル。
「どういう事だ?」
「剣道の延長で真剣を振るってる男に、剣道はしょせんスポーツって言ったんだよ」
いつも通り、飄々とした無表情のユイ。
「剣道を基本とした戦いをする私からすると、バカにされたような気がしてしまい……冷静を欠いてしまいました」
「それで、あんな激しい模擬戦を?」
レンとイチカに呼ばれて戻ってきた時、そのあまりの激闘に俺は驚いた。
只の木刀と竹刀だったとはいえ、スキル無しで得物が損耗するほどの激しい打ち合いをするとは。
「勘違いだったって言うのは?」
「剣道の戦い方は、斬るのではなく打つことでしょ?」
「ああ、なるほど」
ユイの発言に思い至る。
剣道は、瞬間的に面、胴、小手、突きを繰り出して当てるスポーツ。
今の剣道の原型になった物は、真剣による実戦を想定した物だったんだろうけれど。
「つまり、その男は真剣で剣道をしていたから、ユイがバカにしたのを、フミノが剣道その物を……自分がバカにされたように感じてしまったと」
打つ剣道で、斬る日本刀を使ってたら、ユイはそう言いたくもなるか。
「剣道を十年以上も続けてきたからか、頭に血が昇りやすかったみたいです。本当に申し訳ありません」
「フミノの武器は竹刀に近い形状の打撃武器だものな。得物と戦い方がちゃんと合ってる」
そこに気付いたから、フミノの怒りも治まったのだろう。
「……フミノさん、本当に悪いと思ってる?」
ユイの言葉。
「え? ちゃんと反省してますよ?」
俺から見ても、反省しているように見えるけど。
「じゃあ、コセさんとシてる所……今度見せて」
……コイツ、この前こっそり見てたくせに。
「じゃあ、今夜はフミノとユイだな」
「……私、見るだけで良いよ?」
「――ダメ」
先に、フミノの前でアヘがせてやる。