802.逆さ無重力街
ボス戦を終えて転移をすると、身体に重みが戻ってくる。
「てっきり、こっちも無重力かと思ってたけれど」
でも、ここも普段ほどの重力は無いらしい。
「コセ……なんでクミンは落ち込んでんの?」
メグミが尋ねて来た。
目に見えて落ち込んでいるのが判るのは、確かにクミンくらいだけれど。
「無重力のせいで、四人が上手く戦えなくてな」
まあ、クミンがほぼ一撃で倒してたけれど……醜態を晒しまくった後で。
「ずいぶん、暗い雰囲気の街だな」
全体的に黒っぽい金属の建物の街並みに、やけに暗い空……いや。
「空に逆さの街……か」
祭壇下に広がる街にそっくりな光景が、頭上にも広がっていた。
違うのは、こっちの街の周りが荒れ地なのに対し、向こうは森に囲まれている事か。
「上も下も含めての【逆さ無重力街】だよ、マスター」
メルシュが教えてくれる。
「上には飛んで行くのか?」
「街には多少の重力というか、引力があるけれど、街と街の間は無重力になっているの。大体、街の真ん中にある塔の上辺りからね」
今いる祭壇よりも少し高い辺りまで伸びている、黒灰色の塔の事か。
「でも、街を行き来する手段は限られてるからね」
「なんのために街が二つ? 下の街も上の街も、構造が同じに見えるんだけれど?」
「実際のところ、一通りの設備は同じだよ。用意されているイベントの種類なんかは違うけれどね」
「種類? もしかして、上か下でしかこなせないイベントがあるのか?」
「というより……まあ、すぐに分かるよ」
メルシュの言葉に疑問を感じている間に、残りのメンバーもボス戦を終えて合流。
そのまま一緒に祭壇の下へ進もうとすると、突然、下り階段前に……砂時計のような形の機械が浮いた状態で出現した?
『私はここで案内人をつとめます、クロノエルと申します』
無機質な機械音性の声が、機械砂時計から聞こえてくる。
『まずは皆様に、【逆さ無重力街】についての説明をさせて頂きます』
メルシュが言っていたのはこの事か。
『上の街は戦士の街で、戦士の皆様には様々なメリットがございますが、魔法使いの方々には様々なデメリットが課せられます。反対に、下の街は魔法使いの街。魔法使いの皆様にはメリットがございますが、戦士の方々には様々なデメリットが課せられます』
わざわざ同じ説明を……。
『上の街に行きたい方は、今ここで選択してください。私が送って差し上げます』
○上の街に行きますか? 残り179秒
YES NO
制限時間内に決められなかった場合、現在居る街での冒険となります。
三分間の時間制限付き!?
「今ここで選べって事か。メルシュ」
「大体クロノエルの言うとおりだけれど、戦士が魔法使いの街に行くメリットもあるよ。だから、好きな方を選んで良いと思う」
メルシュがこういう時って、何か隠してそうなんだよな。
「ジュリー、離ればなれになったあと、俺達はどうやって合流するんだ?」
「早くても、合流できるのは五十五ステージのボス扉の前だね。魔法の家の領域を除いてだけれど」
魔法の家に戻れるなら、攻略のタイミングを合わせる事は可能か。
「戦士と魔法使いで別れるべきか?」
「メルシュやクロノエルの言うとおり、どっちを選んでもメリットとデメリットがある。私としては、パーティーごとに別れた方が良いと思うよ」
メリットとデメリットか。
「パーティーリーダーの職業で分けよう」
俺は戦士だから、上の街に行くことになる。
「問題はあるか、メルシュ?」
「ううん、無いよ」
なんか怖いな、あのにこやかな反応。
“ツインリーダー”を外したのち、俺、ルイーサ、リューナ、イチカ、コトリ、クマムの六つのパーティーメンバーが光に包まれる。
★
「じゃあ、転移先はやっぱり祭壇だったんだ」
「ああ」
テーブルに腰掛けるユリカと、“神秘の館”の食堂で話していた。
「てっきり、上下が逆さまの街だと思ってたから、拍子抜けだったな」
リューナが、ユリカとは反対側に腰掛ける。
「街の地下から引力が発生しているみたいだし、当然と言えば当然なんだけれどな」
俺も、最初は似たような勘違いをしていた。
「頭上の街にユリカ達が逆さに居ると思うと、なんだか変な感じだ」
「それじゃあ、そろそろ五十五ステージの攻略の話を始めるよ!」
メルシュの声に各々の席へと移動。すぐに静まり返る。
「まず、五十五ステージには主に四つのルートがある。街の外に出るルートと、街の地下に進むルート」
「上と下の街を合わせて四つというわけだ」
メルシュの解説の補助をするジュリー。
「戦士の街の外は森で、陸上生物タイプが主に襲ってくる。魔法の街の外は、非生物系タイプが中心だよ」
魔法側の周りは荒れ地だったな。
「地下の場合は、機械系のモンスター。戦士側の場合はロボットやマシーン、魔法側の場合はバイオモンスターが主だね」
「それと、戦士の街では魔法の威力・MP回復速度が半減するけれど、武術の威力は1,2倍。反対に、魔法使いの街では武術の威力・TP回復速度が半減するけれど、魔法の威力は1,2倍になるから」
「あれ、職業には直接関係ないのか?」
「いや、戦士の街だと魔法使いのステータスは半減。魔法使いの街だと戦士のステータスが半減する。オリジナルだとな」
「実際、戦士の街に居る私にはデバフが掛かってるよ、マスター」
メルシュは魔法使いだもんな。
このデメリットの重さを考えると、戦士は戦士の街、魔法使いは魔法使いの街の方が良かった気がするけれど……メルシュとジュリーの対応を見る限り、何かありそうなんだよな。
「すみません、ナノカのような魔法戦士はどうなるのでしょうか?」
ナノカの契約者であるクマムからの質問。
「魔法戦士なら、ステータスの影響は受けないはず。英雄や大魔導師なら別だけれど」
ジュリーの口から、聞き慣れない言葉が。
「ああ、そうだ!」
突然、エトラが声を張り上げた!?
「どったの、エトラ?」
コトリが尋ねる。
「さっきのボス戦で、私のLvが100になったんだ! その恩恵が、魔法戦士か大魔導師を選べるって奴だったんだよ!」
ああ、だからこのタイミングで。
「選ぶための情報を知りたかったんだ、教えてくれ!」
「魔法戦士は、ナノカのように戦士と魔法使い、両方の恩恵を受けられる良いとこ取りタイプ。大魔導師は、魔法使いの長所を更に伸ばすタイプだね」
答えるジュリー。
「さっきの英雄っていうのは?」
「大魔導師とは逆。戦士の長所を伸ばす上位職だね。戦士の場合しか選べないけれど、魔法使い同様に魔法戦士を選ぶ事もできるよ」
俺がLv100になったら、英雄か魔法戦士を選べるようになると。
「クロノエルが魔法戦士云々の説明をしなかったの、ちょっと不親切じゃない?」
マリナの突っ込み。
「いや、五十五ステージでLv100なんて、本来はあり得ないから」
頭を押さえているジュリー。
まあ、Lvを上げるアイテムもあるから、不可能ではないんだろうけれど。
その後、四つのルートの更に詳しい特徴を聞き、各々が進むルートを決めていった。