表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
863/956

801.魔神・一極巨星

 早朝、宇宙ステーションのような通路を進むと、少しずつ、妙な感覚に見舞われる。


「そろそろ無重力空間になるから、気を付けてね」


 メルシュがそう言って間もなく、身体がフワリと浮き出す!


「これが、完全な無重力か」


 歩く際の反動だけで、身体が上へと昇っていく。


「わ!?」


 慌てるトゥスカを抱き止め、天井に軽くタッチして止まる。


「ありがとうございます、ご主人様」

「どういたしまして」


「この感じ、魔神・浮遊烏賊と戦った時を思い出すよ」


 わざとらしく、感慨深そうに振る舞っているクレーレ。


「ちょ!?」

「なにこれ!」


 事前に話を聞いていたとはいえ、異世界組は特に無重力に驚いて、上手く対処できていないようだ。


「浮遊烏賊のときは重力が軽い程度だったけれど、今回は無重力そのものだからね」


 メルシュを始め、NPC組は当然のように無重力に対応してるな。


「だ、誰か止めてくださーい!!」


 後方から声がしたと思ったら、何かがかなりのスピードで近付いてく――


「ボグッ!?」


 何かが顔に直撃して止まった!


「ご、ごめんなさい……コセさん」


 この声、ノゾミさん? ていうかこの感触……もしかして、ノゾミさんの胸に埋もれてるのか!?


「なにやってるんすか、ノゾミ」


 引き剥がしてくれたのは、山猫獣人のサンヤか?


「サンヤさんが突き飛ばしたんじゃないですか!!」

「ごめん、ごめん」


 お前が犯人かよ!


「お前な……」

「コセは、良い思い出来たでしょう?」


 それはそうだけれど。


「彼氏でもない男と、事故で抱き合う羽目になったノゾミさんの身にもなれよ」


「大丈夫だよ。ノゾミはコセっちのこと好きだから」

「……へ?」


 思わずノゾミさんの顔を伺う。


「……み、見ないでください」


 真っ赤になった顔を必死に隠してる……可愛い過ぎんか?


「コセ、バニラが面白いよ!」


 楽しそうなモモカの声に引かれるように視線を向けると……バニラが空中で犬掻きをしていた。


 いや、バニラの顔が必死そうなんだけれど?


 そんなこんなで、なんとかボス部屋の前まで向かう俺達であった。



●●●



「第五十四ステージのボスは、魔神・一極巨星。弱点属性は闇、有効武器は無し。危険攻撃は、単一属性魔法全般だよ」


 メルシュさんの攻略解説を、無数にある機械の柱に掴まりながら聞く私達。


「ステージギミックは、この無重力。更に、重力空間に浮く無数の岩石だね」


 今までで一番、面倒なボス戦な気がしてきた。


 解説が終わったようで、最初にサトミさんとユリカさんのパーティーがボス扉の向こうへ。


「キャロル、パーティーを組むぞ」

「はいハーイ」


 “ツインリーダー”のサブ職業の力で、レギオンリーダーのコセさんと、私達四人パーティーのリーダーであるキャロルが一時的なパーティーを組む。


「予定通り、ボス戦は四人に任せるからね」


 参謀ポジションだという、隠れNPCのメルシュさん。


 隠れNPCの存在は知っていたけれど、こうして身近で接すると、本当に生きているような気がして仕方ない。


「終わったみたいだな」

「へ、もう!?」


 コセさんの言葉に驚いてしまう!


 私達が前にいたレギオンのパーティーは、ボス戦に結構な時間を掛けていたはずなんだけれど……。


「もしかして、ここのボスって弱い?」

「うん? 魔神の中では平均的な強さかな。ステージギミックに上手く対応できるかどうかで、難易度は大幅に変わるけれど」


 メルシュさんからの情報に、頭が痛くなってくる。


「無重力下での戦闘か……不安になってきた」

「相変わらず心配性だね、クミンは」


 いつもお気楽なキャロルのセリフ。


「アンタがお気楽すぎんのよ」

「忘れちゃった? 今回の私達には、SSランクがあるってことをさ!」


 そう言えば!


「いける気がして来たわ!」


「ご主人様」

「リューナとツグミのパーティーも終わったみたいだな」


 ちょっと話している間に、別のパーティーがボス戦を終わらせてるし!


「次は俺達の番だ」


 さも当たり前のように……。


「い、行きましょうか」


 このレギオンが実力者揃いなら、こんなに頼もしい事はないじゃない!


 私達だって、ここまで来た実力者。ボス戦で華々しく活躍して、新たなレギオンへの加入デビューをしてやろうじゃない!



●●●



 コセ達が結構時間を掛けてボス戦を終えたのち、ルイーサと組んだ状態でボス部屋へ。


「本当に一人で良いのか、ジュリー?」

「うん。これを試すのにちょうど良いから」


 右腕に身に付けた金と銀のガントレット、“アラストール・ガントレット”で、私の新たな武器、“魔法剣杖ミストルティ”を握る。


挿絵(By みてみん)


 突発クエストのポイント交換アイテムにもなっていたEXランクのこのガントレットも剣も、元は名も知らない、梅毒に犯されていた女性の持ち物。


 私が存在を知らなかったこの武具、“アラストール・ガントレット”は、間違いなくオリジナルには存在しなかった代物だ。


 何故なら、このガントレットの能力が――このガントレットで握った武具の以前の使用者……所持した状態で亡くなった人達のスキルを使えるようにするという物だから。


 こんな仕様、普通のゲームではありえないし、そもそもオリジナルでは、殺した相手の持ち物を手に入れられるなんてシステムは無かった。


 部屋の奥でマーブル状に輝くライン光が灯り、ソレが空中に浮かび上がる。


 月と太陽が混ざり合ったかのように、岩石部分と光り輝く部分が混在した星型魔神、魔神・一極巨星が。


「“浮遊落とし”が効くなら、楽勝なんだけれど」


 ステージギミックによって無重力になっている以上、魔神の浮遊能力を消し去っても落下はしない。


「“天蓋落雷”!!」


 天井が存在する場所でなら威力が増加する高威力の落雷で、まずは先制!


 魔神・一極巨星との戦いは、ステージギミックがもっとも厄介な要素。


 攻略方法は主に二種類。無重力下でも動きまわれる能力を使用するか、強力な遠距離攻撃手段を用いるか。


「“四重詠唱”――“暗黒魔法”、ダークランス!!」


 銀の両刃の剣を触媒に、魔法を発動。


 “魔法剣杖ミストルティ”は、その名の通り、剣であり杖でもある武具。


「“追尾命中”!」


 四つの暗黒の槍が、浮遊する岩の群れを避けて魔神に直撃。


 “暗黒魔法”も“追尾命中”も、かつてこの剣を使っていた彼女か、あるいはそれ以前の持ち主が使っていたスキル。


 今の私は“アラストール・ガントレット”により、本来は使えないはずのスキルを百種類以上も使用できる!


『グォォ』


 魔神が、魔法陣を展開しだした!


「――“飛王剣”!!」


 浮かぶ岩石を物ともせず、魔神にまで到達。


「止められないか」


 色鮮やかな光の砲射――“恒星魔法”のフィクストスターレイか。


「“超噴射”、“噴射”!」


 小刻みに様々な方向からの推力を生み出し、岩礁を避けながら高速移動――なんとか魔法を避けきる。


 次々と魔法陣が展開され、息つく暇もなく単一属性魔法が放たれ続け――オリジナルよりも魔法の発動間隔が短すぎる!


「また改悪したな、クソ観測者ども!」


 待っていた色の魔法陣に向かって、自ら飛び込む!


「“電磁速射”、金星球――“磁力”!!」


 放たれた“万雷魔法”、サンダラススプランターに向かって黄金の巨球を放ち、雷を全て吸収させた状態で魔神に直撃させる!


「“回転”!!」


 魔神にめり込んだまま自転させ、亀裂を生じさせていく。


「“雷属性付与”――“充電”」


 ミストルティに雷属性を付与し、“充電”の適用対象に。


 “充電”は、雷属性を持つ武具に使用でき、その武具で放つ雷属性を含む攻撃の威力を二倍にする。


「――“万雷砲”!!」


 二倍の威力となった雷の砲撃を、金星球が吸収――威力が超強化された金星球の猛回転によって、魔神・一極巨星は砕け散った。



○おめでとうございます。魔神・一極巨星の討伐に成功しました。


○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。


★一極巨星の天体 ★一極属性強化のスキルカード

★恒星魔法のスキルカード ★惑星魔法のスキルカード 



「……」


 彼女が私に殺されるのを選択したのは、私に自分の力を、最大限に与えようとしたからなのかも。


「……重いよ」


 名前は教えて貰えなかったのに、私は……彼女の事を、忘れられそうにない。



○これより、第五十五ステージの【逆さ無重力街】に転移します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ