800.スター・ドラゴンコア
「本当にやるのか、メグミ?」
“神秘の館”に戻ってきてから人心地付いた頃、メグミがある提案をしてきた。
「【上級平和街】では試せなかったからな。今ならクエストに巻き込まれる心配も少ないだろうし」
そう言い、館の前で、私服姿で仁王立ちになるメグミ。
「今から何が始まるんですか~!」
キャロル達四人がやって来……キャロルの格好、チェック柄のビキニなんだけれど?
クミンはサイバーパンク風の魔女、ロフォンは黒いアオザイっぽい格好、メリーは獣人らしい白い服を着ていた。
「メグミが、新しいSSランクかユニークスキル、あるいは両方を生み出せるようになったかもしれないんだ」
「「「「はい?」」」」
四人とも、程度の差はあれ、変な物を見るような目で……。
「大型アップデートの影響でおかしくなった存在に怪我を負わされると、一回だけそういう事ができるらしいぜ」
レンが、自分のパーティーメンバーと共にやって来る。
「なにそれ? バグによるボーナスってこと?」
「ボーナスなんて生やさしい話じゃないよ! いきなり倒した敵や武具が光になって吸い込まれてきて、気絶しちゃうくらいの激痛に襲われちゃうんだから!」
クミンの言葉に対し、熱弁する雪豹獣人のクレーレ。
「そうですよ! メグミさんもクレーレも、コセさんだって何度も気を失ってたんですから!」
俺が気絶する様をもっとも見ている一人、チトセまで珍しく声が大きい。
「まあ、一回形にしてしまえば、気絶するようなことは起きなくなったけれどな」
「じゃあ、クレーレとコセは、なにか凄い物を手に入れたのか? ……ですか?」
俺との距離感を図りかねている様子のロフォン。
「俺はこのSSランク、“名も無き英霊の劍”だ」
青黒い石の剣を実体化してみせる。
「私のはこれ――“雄大なりし悪魔神の夢”」
黒い肉の鎧を纏うクレーレ。
「それもSSランクなの?」
「ノンノン、キャロル。これはSSランクユニーク……ユニークSSランク? ギオジィ、どっちが良いかな?」
なんでそこで俺に訊く。
「SSランクユニークで良いんじゃないか? どちらかと言えばユニークスキル寄りだし」
未使用時はユニークスキルで、呼び出すと鎧欄に装備される仕様みたいだし。
そのせいで、クレーレは別の鎧を永久に装備できなくなってしまってるけれど。
「なるほど、さすがギオジィ!」
妙な褒め方と共に、抱きついてくるクレーレ!?
「どうした?」
「忘れちゃったの、ギオジィ? ご褒美くれるって約束」
「ああ……」
突発クエスト・上級国民戦争の時に約束したあれか。
「これがご褒美で良いのか?」
「ノンノンノン」
そのノンノンって言い方はなんだ? クレーレのマイブーム?
「――精錬剣、作ろう。ギオジィ」
真剣な目で見詰めてくるクレーレ。
「……分かったよ」
「よっしゃー!」
ジャンプしながらガッツポーズ……どんだけ嬉しかったんだよ。
「良かったのですか、ご主人様?」
「まあ……もう、あまり子供扱いする必要も無いかなって」
久しぶりに、クレーレに女を感じてしまった。芯のある女らしさを。
「――お前ら、うるさい」
メグミの、静かでありながらよく通る声に気圧される!
「「「「「ごめんなさい」」」」」
キャロル達に対し、一気に仲間意識というか……連帯感が生まれた。
「まったく――ッ!!」
「「来た!」」
メグミの中に溜まっていた膨大なデータが、胸の辺りで形を成していく!
どうやら、クレーレにも判ったみたいだな。さすが経験者。
「――ハアー、ハアー、ハアー、ハアー」
荒い息遣いのまま頽れるメグミの胸には、“マッスルハート”に似た星形の紅い結晶が。
「ど、どうなったんだ?」
「成功だよ、メグミ」
彼女に手を貸す。
「メルシュ、この胸の結晶は?」
メグミが尋ねる。
「名前は、“スター・ドラゴンコア”。SSランクだね。竜属性を含む攻撃で消費したTP・MP・OPを一瞬で全回復。回数消費タイプの能力でも、竜属性込みなら実質無限に使えるみたい」
竜属性特化な分、“マッスルハート”と“エロスハート”の両方の性質があり、尚かつ独自の性能もあるのか。
「完全に私向きだな……“マッスルハート”は別の人間に…………」
「頑張ったな、メグミ」
気を失った彼女をお姫様抱っこし、寝室へと運んだ。
★
「来たよ、ギオジィ!」
夕刻前、館の庭にクレーレ達がやって来る。
「コトリとケルフェも来たのか」
「うん……」
「私達も精錬剣、お願いします!」
不安そうなコトリとは対照的に、やる気満々のケルフェ。
「よし、やるか」
二人が十二文字刻めるようになってから大分たつものの、向こうから言い出さない限り、俺に彼女達と精錬剣を作る気はなかった。
“超同調”を使えば使うほど、このスキルの重みを実感していってたからかな。
●●●
気を失ってから目覚めたのち、新しいSSランクを確認しようとしていたのだが……。
「ユニークスキル……“星竜核”?」
SSランクだけじゃなく、ユニークスキルまで生み出していたのか。
「これは…………どんな能力だよ」
だが、このユニークスキルと“スター・ドラゴンコア”の能力を合わせれば……私の攻撃能力は、《龍意のケンシ》内でも最強になるんじゃないか?
「とりあえず、このユニークスキルを実戦で試してみないと、なんとも言えないか」
試す機会が、いつになるか分からないが。
「あ、メグミぃ! 体調、大丈夫ですかぁ?」
薔薇騎士の隠れNPC、クリスティーナが部屋に入って来る。
「ああ、もう大丈夫だ。ひょっとして、クリスが私をここまで運んでくれたのか?」
「いいえ、運んだのはコセさんでぇす。お姫様抱っこでぇ」
「お姫様抱っこ……お姫様抱っこ!?」
私が……コセにお姫様抱っこされて?
「あの時のメグミ、本物のお姫様みたいでしたよぉ。少ぉし、羨ましかったでぇす。あの後、モモカがコセさんにお姫様抱っこをねだってましたぁ」
は、恥ずかし過ぎる。
「私みたいに骨太な女、お姫様には見えないだろう……」
まだ顔が熱い。
「日本の女性と比べるとぉ、白人女性は身体が大きめですよぉ?」
……確かに。
「悪く言うつもりじゃあ……」
「大丈夫、大丈夫、解ってまぁす……」
「……どうかしたのか?」
クリスの唐突な憂い顔に、疑問を抱く。
「大規模突発クエストの後に貰った黒い銃剣、未だに神代文字を刻めませぇん。それが不思議でぇ」
「ああ、あれか」
メルシュの話では、神代文字対応の武器らしいが。
「不思議な事もあるもんだな」
一度形を変えた武具に比べると、原型状態の武具には若干、文字を刻みづらい感覚はあるが。