799.新たな仲間達
「改めまして、魔法使いのクミンです」
奴隷用の黒い服に身を包んだ茶髪ロングの女性が、屋敷の中、皆の前で挨拶を始める。
「元山の騎士団所属、マウッドロッテンのエルフ、ロフォンだ」
続いて、黒茶髪ロングの美女エルフが自己紹介。
「ひ、羊獣人のメリーです! よろしくお願いします!」
モコモコの白髪が特徴的な可愛らしい女の子……愛らしい。
「メリーのモコモコ髪、落ち着く~♪」
後ろから抱きついたキャロルが癒されている。
「俺も改めて、レギオンリーダーのコセだ」
クミンと握手をするマスター。
「私達は、このダンジョン・ザ・チョイスの完全攻略を目指しているんだけれど、貴女達四人には、その気がある?」
私から切り込む。
「キャロルは、元々攻略には意欲的です。私もそうですが、石橋を叩いて渡りたいタイプなので、無謀な攻略には異を唱えさせて頂きます」
クミン。彼女が頭脳労働担当って所かな。
「その辺は問題無い。ワイズマンの隠れNPCであるメルシュからの正確な情報に、ダンジョン・ザ・チョイスのオリジナルプレーヤー、複数人の情報源もある」
……マスター。初対面で年上相手には、今までなら間違いなく敬語っを使ってただろうに。
「その若さでこのステージに来られたのは、そういう理由があるのですね」
対照的に、クミンは私達を警戒しているみたい。
「それで、そっちの二人は?」
「わ、私は、クミンちゃんに付いていきます!」
「私も、この世界から抜け出す事には大いに賛成だ。ただし、節度を持った関係性が保証される前提だ」
エルフのロフォンは、私達の関係性に疑心というか、嫌悪の感情があるらしい。
「安心して良い、ロフォン。私達の関係性は、貴女が考えているような物ではない」
「……レリーフェ様?」
この二人、知り合いなんだ。
「まさか、森の騎士団まで壊滅したのですか?」
「ああ、私のミスでな」
レリーフェらしくない物言い。言葉の割に、あまり自分を卑下しているように見えないからかな?
「そう……ですか。まさか、貴女が異種族達と共に行動しているとは」
「今の私に、かつてほどの同胞愛は無い。というわけで、特別扱いはしないぞ、ロフォン」
「貴女が居るのであれば、彼等は信用できそうですね。この巡り合わせに感謝を」
ナチュラルにキザなエルフね、彼女。
「どうやら、仲間に迎えても問題なさそうだな」
ジュリーを始め、レギオンメンバーが新入り三人と交流を深めていく。
「あの……」
クミンが声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「このレギオンの人間関係って、実際はどんな感じなんです? その……」
使用人NPC達にお世話されているマスターを見ながら尋ねてくる……あれ、なんか使用人NPC達とマスターの距離感、近くね?
「まあ、大半がマスター、レギオンリーダーに惚れてて、肉体関係もあるよ」
「ああ……やっぱりそういう……」
だいぶ引いてるな。その方が人として信用できるけれど。
「安心してよ。マスターから積極的に女に手を出しているわけじゃないし、軽い気持ちでってわけでもないからさ」
「いや、だからって……ねぇ」
「それより、結婚はどうする?」
「…………――結婚!?」
クミンのあまりの驚きように、屋敷中が静まりかえり、皆の視線を集める。
「い、いや、あの……そういうのはやっぱり……す、好きな人と……」
「あくまで、EXランクの指輪を手に入れるための結婚だよ。正式に夫婦になれって話じゃなく」
「……ああ、あれね! 婚姻の指輪だっけ? アハハハハ! ……はは」
五十ステージより上に、こんなピュアな子がまだ残ってたとはねぇ。
●●●
「ハァーぁ」
欠伸をしながら、リビング・ダイニングへと下りていく。
「……ぁ」
「うん?」
強い陽射しの中、牛乳? 片手に立ちすくんでいる……クミン?
「おはようございます」
「お、おはよう……ございます」
窓が大きいのもあって、部屋全体が眩しくて熱い。
「て、もう昼ですよ!」
「ああ……ちょっと疲れてて」
昨晩は、ナターシャ、アルーシャ、ヘラーシャ、レミーシャ、エリーシャの五人とヤッてたからな……なんでそんなことになったんだっけ?
「……」
何か言いたげな視線を感じる。
「言っておきますけど、私は貴男とは結婚しませんからね!」
四人とは昨夜の時点で、取り敢えず保留ということになっていた。
「ああ、はい」
「……」
なんで睨んで来るんだろ?
「……他の人達、とっくに出掛けましたよ」
「店で買い物してるのか。俺も、何か美味しい物でも探しに行くかな」
チョイスプレートの中なら腐らないし。
「クミンも一緒に行く? お金無いんだろ?」
彼女達の借金は、昨日のうちに返済済み。俺達の金で。
「……へ、変なことする気じゃないでしょうね!」
「……別に付いてこなくても良いけれど?」
さすがに、ちょっとイラッと来た。
「……モモカちゃん、それにバニラも……本当にこのまま連れて行くの?」
真剣な様子で尋ねられる。
「知り合いに、このステージで家庭を持って、子供達を育てているグループがあるわ。良ければ紹介するけれど……」
「何度か別れる事も考えたけれど……俺達が守るのが最善だと思ったんだ」
クミンの知り合いが信頼できたとして、この前のような突発クエストの際、モモカ達を守れるとは限らない。
バニラの在り方も、常人に理解して貰えるとは思えないし。
「後悔……しない?」
「モモカ達が死んだ事も知らずにのうのうと攻略を続ける方が、よっぽど後悔するよ」
たとえ目の前でモモカとバニラを失う事になっても、誰かに二人を任せて死なせてしまうよりは……ずっと良い。
「……そっか」
観測者の目がある今の状況だと、クミン達に伝えるのを迷う秘密も多い。
「二人のこと、心配しくれてありがとうな」
「……まあ、大人として当然だし……」
そんなに照れるとは。
「やっぱり、明日か明後日には攻略を再開したいな」
危険な人間のグループの大半はクエスト時に始末したとはいえ、この【上級平和街】が安全とは、まったくもって言えない。
★
クミン達を迎えてから三日後の昼前、俺達は全員で、【上級平和街】の中心地へとやって来ていた。
「この倉庫みたいなのが、ダンジョンの入り口なのか」
一面がまんま扉らしき白い建物。
「マスター、支払いはここからできるよ」
メルシュの説明に従い、扉横のコンソールを弄って1000000$を払い、俺のレギオンメンバー全員の通行権を得る。
すると、扉が真ん中で割れて、左右にスライド。中の光景には見覚えがある気が……。
「モンスターエレベーターにそっくりだな」
「モンスターは出ないけれど、エレベーター内の作りは同じだね」
全員が乗り込むと、エレベーターが動き出し――急上昇していく!?
「これ、いつまで上昇し続けるんです?」
トゥスカの問い。
「このエレベーターは軌道エレベーター。つまり――宇宙までだよ」
ジュリーの言葉を肯定するが如く、止まったエレベーターの扉の向こうに広がっていたのは……硝子越しの宇宙の光景。
「おおー!」
「綺麗……」
「うわ、絶景じゃん」
「地球は青かった……てやつだね」
各々、目の前の光景に魅入っているらしい。
「こうしてみると、ダンジョン・ザ・チョイスと地球って変わらないんだな」
雲のせいか、大陸の形などは分からないけれど。
「この先にはもうボス部屋しかないけれど、どうする、マスター?」
知ってて訊いてくる、意地悪な参謀。
「予定通り、今日は久しぶりの我が家でゆっくりするさ」
昨日は、プールとかで一日遊びっぱなしだったしな。
そんなこんなで、安全エリアから数日ぶりの我が家へと、俺達は帰還した。




