83.アクァッホ
『”光線魔法”、レーザー!』
「”法喰い”!」
タマの持つSランク武器、”魔術師殺しの槍”で、獅子顔の魔女が放った魔法を吸い消す。
「”狂血剣術”――ブラッドストライク!」
レオウィッチの”魔法障壁”ごと、血を纏った”避雷針の魔光剣”で貫いた。
『グ……ギャア……”光線魔――』
「”魔光斬”!」
雷を吸収していないときに放てる斬撃を、突き刺した状態で放った!
獅子の魔女が両断され、第二平原での戦いは決着した。
他の雑魚モンスターはトゥスカが引き受けてくれていたけれど、とっくに片付いているよう。
「これで、ご主人様と合流出来ますね」
「そうですね。コセ様、疲れていたようでしたから心配です」
正直、私もコセの事が心配だった。
○”光線魔法のスキルカード”を手に入れました。
私のお目当てのスキルカードが手に入った。
英知の街で手に入れる事も出来たけれど、メルシュがコセに取られた時点でこのルートを選ぶつもりだったから、高いお金を払って修得するのは止めたのだ。
さっさと”光線魔法のスキルカード”を使用する。
これでまた一つ、私の最終戦闘スタイルに必要なスキルを手に入れることが出来た。
レオウィッチを倒したことで、平原真っ只中に洞窟の入り口が生まれる。
「早く行きましょう、ジュリー様、トゥスカさん!」
私達は、慌てるタマを追い掛けた。
●●●
「”抜刀術”――紫電一閃」
ユイにより、”辻斬り侍”という赤茶の着物のモンスターが逆に斬られる。
血に飢えた迷路の血に飢えたって、吸うことだけじゃないのか。
「私達は、本当になにもしなくて良いの?」
「辻斬り侍は”魔斬り”を使ってくるから、魔法使いには不利なんだよ」
「ユイばかり狙われてるけれど……」
次々と、笠を被った侍達がユイに襲いかかっていく。
「あいつらは魔法を使うと魔法使いを優先して狙って来るから、私達は大人しくしていた方が良いよ、ナオ」
でも、この数をユイとユリカだけじゃ。
「”暗黒爪術”、ダークネスディバイド! ”塵壊”!」
ユリカは巨大な鋭い杖と鉤爪を使って、かなり力任せに辻斬り侍を倒していた。
仰々しい杖で三人を両断し、鉤爪にいたってはガードした刀剣ごと切り裂いて塵に変えていく。
能力差に任せてって感じだなー。
「く!」
ユイに纏わり付く辻斬り侍の数が、どんどん増えていく!
「――”逢魔の波動”」
ユイを中心に、黒い衝撃波が巻き起こった!?
「装備セット1」
辻斬り侍を退かせた隙に、装備を変えるユイ。
元々手にしていた日本刀とは別に、よく似た黒い日本刀も装備し、二刀流となった!
「ハッ!」
発声と共に、もの凄い速さで辻斬り侍を切り刻んでいくユイ!
「……凄い」
まるで、二人の人間がくっついた状態で刀を振っているがごとく、見事にバラバラな剣裁き。
脳みそが二つないと、あんな腕の動きは不可能なんじゃないかって思うんだけれど。
出て来る辻斬り侍を、百体以上はユイ一人で斬ったんじゃないかしら?
コセの仲間って、こんな化け物ばっかりだったりする?
「ユイ、スキルカードが十五枚になったから、それくらいで良いよ」
「……分かった」
ユイが後退すると、辻斬り侍がこっちに殺到してきた!?
「”大地魔法”、グランドバレット」
メルシュが指輪に触れた後、地層の塊を無数に飛ばす魔法を発動!?
辻斬り侍に通用しないはずの魔法で……全滅させた!!
「魔法は効かないんじゃ?」
「”魔武の指輪”だよ。英知の街で教えたはずだけれど?」
そう言えば、シホが手に入れていたような。
「ナオは探索場に、どこを選んだの?」
「氷属性に弱いリザードマンが出るって言う……制限廻廊」
「魔法……封じられなくて良かったね」
「はい……」
今、メルシュの中の私の評価が……凍り付いた気がする。
●●●
「どう、似合う?」
シレイアが、ティタンからドロップした装備、”世紀末の毛皮マント”を着けてユイに見せびらかしていた。
「……さあ」
ユイ、正直だな。
似合うと言えば似合うし、似合わないと言えば似合わない。それくらい微妙な感じ。
「お姉様! これ、コセ様からいただいたんです!」
「良かったわね、ノーザン」
ノーザンはティタンの使っていた武器、”大地のハンマー”をトゥスカに見せていた。
ちなみに、ティタンを倒した際に手に入れた、”大地槌使い”のサブ職業もノーザンに渡している。
「全員無事に、合流地点に来られたな」
別れ道が終わった先の安全エリアに最初に到着したのは俺達のパーティーで、次にジュリー達、メルシュ達が合流した。
○右:ゴーレムの坑道
○左:魔女の工房
洞窟内の安全エリアの向こうに広がる別れ道を見詰める、俺とジュリーとメルシュ。
「ゴーレムの坑道は色んなゴーレムが出るから魔法使いに有利なんだけれど、魔女の工房は魔法使いに不利な分、魔法使い用のレア装備が手に入るよ」
「メンバーを決めたとしても、攻略は明日だね」
「常に余裕を保つくらいでいよう」
メルシュ、ジュリー、俺の順に方針を語っていく。
本当は、既にメンバーは決まっている。
この会話は、俺達がワイズマンであるメルシュ頼りで攻略していると見せかけるためのブラフ。
右には俺の本来のパーティーメンバーにノーザンとナオを加えた五人。左が、ジュリーとユイのパーティーの計五人が進むことになる予定だ。
この世界に来てから、一ヶ月近くが経とうとしている。
もう一ヶ月と考えるべきか、まだ一ヶ月と考えるべきか。
★
夕方、俺は”神秘の館”の庭にて、メルシュ指導の訓練を行っていた。
「もう一度、剣が自分の一部であるかのように意識を送り込んでみて」
「……こうか」
”強者のグレートソード”の刀身に、青い文字が三つ灯る。
「安定して刻めるのは三文字までだね」
「ああ……そうみたいだ」
デスアーマー、スキルキラーとの戦いの時に無意識に使っていたけれど、”強者のグレートソード”にはこんな効果があったのか。
「刻む文字が増えれば増えるほど、マスターの能力は増大するよ」
「結構……コツが要るな」
どれだけ集中しても、三文字より増えない。
というか、これ以上文字を増やそうとすると意識が持っていかれそうで怖い。
「ノーザン、貴方から言うことはある?」
今回の訓練、言いだしたのはメルシュなのに……何故かノーザンも誘っていた。
「……」
ノーザンはなにかに葛藤するように、俺とメルシュを交互に見ている。
「……コセ様は、彼女を信用しておられるのですか?」
「……ああ、信じてるよ」
トゥスカの次くらいに信頼している。
「隠れNPC……お前達は、アクァッホの手先ではないのか?」
アクァッホ?
「……なんで……まさか、ピラミッドを建設させたのは……この次元の人類?」
二人の会話がよくわからない!
剣呑な雰囲気を放つノーザンと、何かを逡巡している様子のメルシュ。
状況がまったく読めない。
「……アクァッホはデルタとさほど関係ないわ。ただ、デルタはアクァッホの思想をかなり色濃く受け継いでいる者達の組織。私は、アクァッホの主流派とは別の思想を持つ物だよ」
「信じろと?」
「ならなぜ、神代文字を操る彼を私が訓練するのか。事情に精通しているのであれば、彼を導こうとする意味、分かるのでは?」
「良いだろう。龍意を持つ方が信頼しているとおっしゃったのだ、信じようじゃないか」
ダメだ、全然ついて行けない!
「へと……訓練は?」
「マスター、ノーザンを正式に私達の仲間に迎えよう」
「ああ……うん」
結局、二人の会話の意味は教えて貰えなかった。