793.方針変更
「“暴食肥大”!!」
『なんだ!?』
“グロトネリアの宿斧”を投げ付け、黒山羊の人獣を食い断つ。
「“暴乱惨禍”!!」
麒麟の人獣をひき肉に。
『ふ、ふざけやがって!』
「“穿孔脚”!!」
「“飛剣・靈光”!!」
ケルフェさんとマリナさんの援護。
『コイツら、最近来た奴らか!』
『部外者のくせに、邪魔しやがって!』
「子供を犠牲に生き残ろうとしておいて!」
『俺らだってそうなんだよ!』
え?
『なんとしても、拠点を奪って自分達の家族だけは生き残らせる! 綺麗事じゃ誰も生き残れねぇんだよ!!』
勝手に、攻め入ってきた人獣集団を悪者と決めつけていた!
「ど、どうしたら……」
「――提案なんだけれど、私達のチームに寝返らない?」
マリナさんからの突然の提案。
「ど、どうやってだ?」
「この二時間くらいで、“鞍替えの$金貨”を七枚手に入れたでしょ? それを人数分、手に入れればいいのよ」
「そっか! 私達の陣営に加えるんですね! あなた方の人数は?」
「さ、33人です」
『……18人だ』
「全部で41枚。他のメンバーにも聞いてみましょう! あなた方は何枚持ってます?」
「へ? ……ぜ、0です」
『俺達は3枚だ……』
「あなた方も、仲間が何枚持ってるか確認してください!」
レイナさん達のお知り合い、絶対に全員で生き残りますよ!
「あ……」
ここの結界が復活しちゃった。
●●●
「……エレジーめ」
そこの陣地を手に入れれば、私達はこのクエストから抜けられたのに。
『どうする、コトリ?』
レリーフェさんに尋ねられる。
コセさんなら――ギルマスなら、全員を救ってみせたはず!
「所有する金貨の枚数を急いで確認する」
通話を繋いでいたジュリーさん、ルイーサさんにも伝える。
『あの……私、“鞍替えの$大金貨”というのを持ってるよ?』
ジュリーさんの発言。
「大金貨? 効果は?」
『別チームの“地球儀”に使用すると、その“地球儀”所属のチーム全員を丸ごと鞍替えできるみたい』
なんて都合の良い!
「何枚持ってる?」
『大金貨は1枚。金貨は六枚』
『私達は金貨が2枚』
大金貨を攻め込まれた側のチームに使えば、なんとか足りる。
「チョイスプレートで金貨をエレジーに送って。ケルフェ達三人には、金貨を持って獣人達の屋敷へ行くよう伝えて、レリーフェさん」
『それだと、今ケルフェ達が居る屋敷が手薄になるだろう?』
「すぐに援軍を送るから、合流しだい内部から結界を破壊して、獣人達を屋敷に向かわせるようにしよう!」
どんどん、この屋敷の防衛戦力が下がっていくけれど。
「サトミさん、リンピョンとメグミさんを率いて、すぐに向かって欲しいんですけど!」
「ええ! 子供たちにいっぱい、美味しいご飯を食べさせてあげるわ!」
「よ、よろしく」
サトミさん、やっぱ大物だ。
「もう、十五時半を過ぎた」
情報通りなら、早いと十六時には大量のモンスターが現れるかもしれない。
「間に合えば良いんだけど……」
●●●
「へいへいへーい!」
「た、助けてくれぇぇ!!」
「いやー、死にたくなーい!!」
エルフの男、フェアリーの女、ホーン族の男が、得体の知れない液体? 個体なのかも判らない薄茶色味の何かに絡み取られ、動きを封じられたのち……口の中に流し込まれ……窒息死させられたみたい。
「雑魚だなー」
小柄な痴女みたいな人が、あの妙な液体? を消しながら、その液体の発生源と思われる剣を掲げる。
「さすがSSランク。苦労して手に入れたかいがあったよ」
あのデタラメな能力、やっぱりSSランクなんだ。
それにしても、この周囲に漂う甘ったるい匂いは……。
「で、そこでなにしてんのかなぁ!」
剣の形状が蛇のように変化し、私がいた店の屋根を破壊する。
あの感じ、やっぱり液体じゃなくて固体?
「姿を消してないで出て来なさいよ、卑怯者」
卑怯者呼ばわりは……ちょっと嫌かな。
“透明化”を解いて、姿を晒す。
「…………イケメンだ」
「へ?」
イケメンて、私は女……あ、今は“男体化”してた。
「それもイケメンポニーテール!」
この人、イケメンのポニーテールが好きみたい。
「貴方はどこかのレギオン所属ですか? それともパーティー? 僕を仲間に入れてください!」
さっきまで殺意を向けてた相手に、仲間に入れてって……この人、凄く変な人だ。
「……神代文字って知ってる?」
「なんですか、それ?」
「武器に青い文字を刻めたこと無い? できたら仲間に入れてあげる」
あれができるかどうかで、ある程度、人として信用できるかどうか判断できる。
「青い文字? あの丸い絵の事です? 装備セット1」
武器をあの甘ったるい剣から、飴のような透けた刀身の細剣に変え……そこから、飴細工のような色鮮やかな刀身が生えた?
「――こうだっけ?」
飴の剣に、神代文字が九文字も刻まれた?
「ハアハア、ハアハア……やっぱキッツぅ……」
あの疲労具合、無理して九文字が限界っぽい。
「良いよ。仲間にしてあげる」
“鞍替えの$金貨”を投げると、相手が黄金の光に包まれて……向こうにチョイスプレートが表示されたみたい。
「もちろん、YESだよ!」
同じチームになったみたいで、彼女を覆う光が消えた。
「まずは自己紹介だね! 僕はキャロル」
「……外国の人?」
「違う違う。キラキラネームってやつ? 僕の親がさ、パリピーって言葉が擬人化したような人達でさぁ。ノリでこんな名前にされちゃったんだよ。おかげで、小学校ではよく虐められたんだよ」
なんかもう可哀想。
「……私はユイ」
「女の子みたいな名前だね。あ、ごめん! ユイさんもきっと、名前で苦労しただろうに……」
なんか勘違いされてる……そろそろスキルを解こっかな。
「……あれ、なに?」
空を覆う勢いで、黒い影が数千……それとも数万? も集まって――
「来るよ!」
まるで空で竜巻が発生したみたいに、黒い影の集団が地上へと落ちてくる!!
「任せて! 装備セット2――“軍粮精支配”!!」
また出た茶色味の何かが、コウモリみたいな集団をハエのように絡め取り、身動きを封じていく。
「どうです? 僕って良い女でしょう!」
「ダメ……数が違いすぎる」
どこか隠れられる場所――プレーヤーが居る宿が目に入った!
「刻みつけろ――“雄偉なる波紋夜の交渉緑”」
素早く装備を変え、“偽レギ”で精錬剣を形成!!
「“勇猛大地剣術”――ブレイブグランドブレイク!!」
九文字刻んだ状態で、宿の結界を破壊!!
「ええ、一撃で!? ユイさん、凄い!」
「こっち、早く!」
敷地内に入る。
「こいつら、付いてくるよ!」
「結界が復活するまで五分、ここで耐えるよ!」
半日の間、色々観察してて気付いたことの一つ。
一つ目と鋭い牙並ぶコウモリみたいなやつ、五分間は絶対に宿に近付けさせない!
「“随伴の勇猛”!!」




