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82.好ましい関係

 安全エリアに辿り着き、”神秘の館”の門を潜る。


 あの時の、呑まれそうになる感覚。


 まだあの感覚が抜けきらなくて、足元や頭がフワフワしている気がする。


「あ」


 足がもつれて、転ぶ――直前にノーザンに助けられた。


 灰色がかった白髪の……小柄な少女。


 俺……この子とキスしたんだよな?


「大丈夫ですか、コセ様?」

「ああ、うん! 大丈夫! あ、ありがとな、助けてくれて」


 キスの事を思い出したら、フワフワとした感覚が薄らいだ。


 あの時、ノーザンがキスしてくれなかったら……俺はどうなっていたのだろう……。



「ご主人様、お帰りなさい」



 玄関を開けてトゥスカが出迎えてくれた事に、強い安心感が湧き上がった。


「ただいま、トゥスカ」



●●●



「なんなの、シレイア?」


 急にシレイアに、館内の彼女の部屋に連れ込まれた。


「メルシュ、コセが神代文字を六つ刻んだ」

「おお、凄い!」


 この短期間で六つも!


「確かに、アタシらにとっては喜ばしい事だが……コセが呑まれ掛けた」

「へ? 六つで?」

「一瞬だったが、九つ刻んだようにも見えた。このままだと、コセが全ての神代文字を刻めるようになる前に自我が消滅しかねない」


 目を離した隙に、そんな事になっていたとは。


「むしろ、よくその状態になったマスターを引き戻せたね」

「ノーザンのおかげさね。まるでどうすれば良いのか知っていたかのように、キスして止めたんだ」


 ……キスしたんかい。


「あの子、神代文字っていう言葉を発してたよ。このままじゃ、観測者に目を付けられるかも」


「今更な気もするけれど、不確定要素は排除しておいた方が良いか」

「ノーザンを切り捨てるつもりかい?」

「どっちの方が良いと思う、シレイア?」


 私は彼女とろくに関わってないから、なんとも判断がつかない。


「アタシは引き込んだ方が良いと思うね。今追い出して神代文字の事を口外されたら、アタシらにまで飛び火しかねない」


 デルタにとって、都合の悪い神代文字の存在。


 アイツらの本質はビビりだから、些細な事で付け狙われかねない。


「確かに、その通りだね」


 情報の出所が私達だと思われれば、今まで以上に面倒な事になるかもしれないし。


 それに、ノーザンがなぜキスという手段を選んだのかも気になるしね。



●●●



「コセ様、どうぞ」

「あ、ありがとう」


 少し疲れている様子のコセを、気遣うノーザン。


「欲しい物があれば言ってください。すぐにご用意いたしますので♪」


 あんなに喋ってるノーザン、初めて見たんだれど。


「の、ノーザン……どうしたの?」


 今朝までの距離感と打って変わって、甲斐甲斐しくしすぎじゃない?


「あ、ナオさん。僕、コセ様のパーティーに残ることにしました」


「「へ!?」」


 今、コセも驚いてたわよね?


 というか、今のノーザンの空気感、リョウのパーティーに居た女達に似てるんだけれど……。


「ノーザン……残るの?」

「ダメだったでしょうか? なんでも致しますので、どうかお側に居させてください!」


 コセの言葉に、大慌てになるノーザン。


「ノーザン、女の子がなんでもなんて口に……」

「いえ、コセ様の言うことであれば、僕はなんでもします!」


 こんなに喜怒哀楽の激しい子だったっけ?


「……皆と相談してからで良いかな?」

「相談などしなくとも、コセ様が決めれば良いと思います!」


 押しが強い! コセが退いてるわよ、ノーザン!


「……相談して決めるのが、俺のやり方だから」

「なるほど、ならば致し方ありませんね」


 コセ、逃げたわね。なっさけない奴!


 リョウも、なんでこんなのを慕っているのか。


「ノーザン、そんなに押しが強いとご主人様が嫌がりますよ」

「へ、そうなんですか?」


 ノーザンを(たしな)めたのはトゥスカ。


「良い男というのは、自分をダメにする女を遠ざける物です」

「ぼ、僕はダメな女なのですか!?」


 ノーザンって、私達の前では本性を隠していたのね。まあ、私もだけれど。


「尽くしすぎる女は男をダメにするものです。ちなみに、発破をかけるという体で不安を押し付ける人間は男だろうが女だろうが最低ですね。非常事態の時に、周りの人間を巻き込んで破滅させるタイプです」


「勉強になります! こ、これからはお姉様とお呼びしても?」

「フフフ、良いわよ」


 牛と犬の姉妹が生まれたよ!


「これ……もう受け入れるパターンだよね?」


 コセが、どこか達観したような顔をしていた。



●●●



 午後、俺達はダンジョン攻略を再開した。


「おらよ!」

『オアアアアアアア!!』


 赤い刺を生やした毛皮のマントを着用した巨漢の白人男、ティタンとシレイアが戦っている。


 ティタンの得物は、黒の巨大な鎚。


 純粋な能力値だけならゴルドソルジャーより強いらしいけれど、使っている武器の性能上、ゴルドソルジャーの方が厄介らしい。


「――ハイパワーナックル!!」


 シレイアの左拳が、ティタンの鳩尾(みぞおち)に入る!


 右手の大刀に注意を引き付けておいて、無手による不意打ちか。


 大したダメージじゃなさそうだけれど、ティタンの動きが止まった。


「ハイパワースラッシュ!!」


 身体を大きく一回転させ、ティタンの首を刎ねるシレイア。


「浅いか」


 かろうじて繋がっているだけの状態で、ティタンが鎚の頭でシレイアに突きを放った!


「……いったいね~!」


 左腕でガードしたため、皮膚や肉がズタズタに!


「装備セット1」


 シレイアの武器が、”アマゾネスの大刀”から”アクアスパーダ”になる。


「行くよ! パワーブレイド!」


 カチリという音と共に水の刀身を生み出し、身軽さを生かしてティタンに接近――全身を切り刻んでいく!


 ティタンが怪力を生かしてバカでかい鎚を振るうも、シレイアには当たらない。


『”大地鎚術”、グランドブレイク!!』


 鎚を地面に叩き付け――地面に衝撃波を這わせてきた!?


「技を使ったのが、アンタの敗因だよ!」


 跳躍と同時に投げ付けた”アクアスパーダ”が、ティタンの胸に深々と突き刺さる!


 着地と同時に駆け出すシレイア。


「ハイパワーブレイク」


 ”アクアスパーダ”を掴んで”大剣術”を発動し、ティタンの胸を爆ぜさせた。


 血肉が散乱していくなか、それらが光に変わりだし、決着を告げる。


「お疲れ、シレイア。ハイヒール」


 メルシュがLvアップで手に入れたサブ職業、”賢者”のおかげで、今の俺は”僧侶”よりも上級の回復魔法が使える。


「ありがとね、マスター。お礼に、今夜一発ヤるかい?」

「ぼ、僕も参加していいですか!」


 シレイアの冗談に反応してしまうノーザン。


「いい加減にしろ」

「ハイハイ。その気になったらいつでも言いな」


 誰が言うか!


「へ? 冗談だったんですか?」


 いや、何故そこで落ち込む、ノーザン!


「さっさと進むぞ。今日中に、ダンジョン内で皆と合流しておきたい」


挿絵(By みてみん)


「はい、コセ様!」


 今朝までの他人行儀な関係の方が、俺としては好ましかったかな。


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