792.仙桃の樹
雷により結界が壊れ、外壁を破壊して侵入するも、未だに屋敷から出てこない《梅の薔薇で飾ってあげよう》の一味。
「ビビっているのか、中で待ち伏せて居るのか」
支配した雷で窓を破壊――屋敷中に雷を迸らせる。
「リビングはあっちかな?」
私達の屋敷もその他も、“地球儀”は決まってリビングにあったらしい。
庭を見渡せる、大きな窓があった方へと近付いていく。
「なるほど」
“地球儀”の周りを、障壁系の能力で囲っている集団を目視。
「なんの用だよ、お前!」
ピアスだらけの耳と、他にもアチコチにピアスを付けた半裸、レザーパンツの男がデカい声で話し掛けてきた。
「お前が、レギオンリーダーのミンシュェンか?」
「質問に質問で返してんじゃねぇよ、白人女」
「私はハーフの日本人だ」
支配している雷を差し向けるも、雷が奴の身体をすり抜けただと?
「“贋作”――“マッドフラット・クレヨン”。“泥土支配”!!」
水と土の二属性ならどうだ!
「無駄だっての」
泥水の奔流がすり抜けて……“幽霊”の能力か?
「俺のユニークスキル、“桃源郷の仙人”の前では、どんな攻撃も通用しねぇんだよ」
彼女が言っていたユニークスキル持ちか。
「“桃源郷の仙人”……“仙桃の樹”による身代わり能力」
「テメー、NPCでもないくせに……オリジナルプレーヤーって奴か? 卑怯者の虐殺者共の末裔が!」
南京大虐殺の事を言っているのかな?
「過去の誇張された被害妄想に、現代人の私が付き合ってられるか」
近くに、身代わりになっている桃の樹があるはず。
それを直接破壊するか、樹に実った桃が全て落ちるまで術者を攻撃し続けるか。
「面倒だ」
当てずっぽうに周囲に雷を迸らせながら、術者を攻撃し続ける。
「無駄だ、無駄」
既に数十発分の攻撃を加えているはずなのに、全然倒せない所か、敵の余裕が消えない。
「教えてやるよ。俺のEXランクアイテム、“エターナル・ボックス”。ソイツの中に“仙桃の樹”が入っている限り、幾ら俺を攻撃しても桃は落ちない。つまり、最強ってわけだ!」
“エターナル・ボックス”というアイテムで、“仙桃の樹”の数少ない弱点を無効化したとでも?
「“竜化”!!」
金色の竜人となって、襲い掛かって来た!?
『――溶岩脚!!』
「“明星の翼”!!」
間一髪、上空に逃れる!
『撃ち落としやがれ、テメーら!』
魔法を主体に、様々な遠距離攻撃が雨のように!?
神代文字を九文字刻み、翼を盾にしてなんとか耐える!!
「いい加減にしろ!!」
“雷支配”で雷属性の攻撃を操り、術者に返礼してやった!
『使えねー奴等だ。もういい! テメーらは“地球儀”を守ってろ!』
「……梅毒は、感染からおよそ十年後、日常生活すらままならなくなる病気と聞いた。最悪、死に至る可能性もあると」
『よく知ってるな、白人被れ』
お前達の存在を知った後、テイマーのカナから聞いただけなんだけれど。
「その割に、随分と生に執着する。見苦しいのよ、出来損ないの中国人」
『出来損ない? ――ハッ!! テメーら白人は本当にバカだな! 自分達がいつまでも世界の支配者様のつもりかよ、劣等英米豚がよ!!』
私はハーフの日本人だと言ったはずなのだけれど。そもそもなんでイギリス人かアメリカ人て決めつけた!
『俺はユニークスキルと“エターナル・ボックス”の組み合わせで、実質の不老不死なんだよ! この世界に来た八年前の時点で五つの性病に感染してたが、今でも俺の下半身はビンビンだぜ~!』
……生理的に受け付けないって言葉の意味を、ようやく本当の意味で理解できた気がする。
『お前にも俺の女の証をくれてやろうか? 梅の薔薇をよ!』
「梅毒がお前の女の証だとでも?」
『かの中国の父も、汚ぇ股間で何百人もの女に梅毒を移し、その女達は、時の権力者の女たる証だと梅の薔薇を喜んだという! だから、お前みたいな劣等英米豚女にも、俺の祝福をくれてやるよ! 残虐な極悪日帝の負け犬野郎共にもなぁ~!!』
人種という枠組で、あまり悪く言いたくないけれど――
「中国人って、噂通りの野蛮人なのね。さすが、白人が攻めてきた途端、まともに戦わずにさっさと降伏した腰抜けの末裔。数百万人が殺されるまで徹底抗戦していた日本人とは大違い」
『腰抜けだと!? 徹底抗戦した挙げ句、惨めな敗戦国に成り下がった日帝のカス共が、俺達よりも上だと言いたいのかッ!!』
「こっちだって、お前らみたいな腰抜けの野蛮人と一緒くたにアジア人呼ばわりされたくなんてないのよ、勘違い病原菌野郎!! 腐った股間を――いつまでもぶら下げてんじゃねぇよッ!!」
翼に刻んだ右翼の神代文字が弱まり、左翼から流れ込む力に身を任せる!!
「――消えろッッ!!」
赤い光宿る支配の雷で屋敷中を蹂躙――腐った股間野郎と障壁を張った雑魚共をまとめて薙ぎ払い、奴等の“地球儀”を破壊!!
『しま――」
外傷に対しては無敵でも、ゲームのルールによる死は逃れられない。
光となって消えていく中、最後の悪あがきとして腐った股間野郎が仕掛けたきたのは、私に唾を飛ばすこと。
必要以上の雷で蒸発させ、万が一にも性病になる危険性を排除する。
「本当に、どこまでも腐った奴等だ」
暫く、コセとの行為を躊躇しそう。
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「レリーフェさん、アレを」
とある屋敷が、“獣化”集団の攻撃を受けて結界を突破されかけている。
『ここに仕掛けるつもりなのか?』
「内部の総数は判りますか?」
ドローン越しに、遠くに待機しているはずのレリーフェさんに尋ねた。
『……27人。他に比べればだいぶ少ないな』
「マリナ、エレジー」
「私は良いわよ」
「心苦しいですが、覚悟を決めましょう」
『ちょっと待て。念のため、コトリに確認を……』
『これでどうだ――“煉獄爪術”、インフェルノスラッシュ!!』
炎の爪で、結界が破壊されてしまった!
「先を越されたら、また一から結界を破壊しないといけなくなる」
「取り敢えず、どう転んでも良いように敷地内に侵入しておきましょう!」
マリナの考えに対し、エレジーからの提案。
内部に居れば、再び結界が張り直されても二度手間にならずに済む。
「それで行きましょう!」
塀を跳び越えて中に侵入――種族が異なる男性四人と女性六人のプレーヤーが、“獣化”状態の獣人、八人とにらみ合っていた。
「バーハン! なんでここに来た! ここがどういう場所か、お前も知ってるだろう!」
『だからだよ。大半がガキしか居ないここなら、俺達でも簡単に落とせるからな!』
大半がガキ……このステージで生まれ育った子供? この二日間、見掛けた子供はNPCだけだと思っていましたが。
「レイナちゃん達が居てくれたら……」
『ああ。あの火傷野郎が残ってたら、俺達もここには来なかったかもな!』
火傷野郎……キクルさんのこと? じゃあ、レイナって……。
「もう三年も突発クエストなんて起きてなかったから、完全に油断してたぜ……」
防衛側の面子は、悲痛な覚悟を決めているみたい。
「ケルフェさん、マリナさん――私、行きます!!」
エレジーが飛び出していった!?