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791.名を知らぬまま散りぬるを

 NPCの保護と、宝箱の回収に専念すること数時間後、北東側に潜伏していた私の近くに、一人の女性がやって来た。


「ハアハア、ハアハア……誰か、アイツらを殺してよッッ!!」


 苦しそうに、悔しそうに紡がれた彼女の言葉に、強く興味を惹かれる。


「誰!?」


 姿を現すと強く警戒されるけれど、それよりも私は、彼女の見た目に注目してしまった。


「その赤いブツブツ……梅毒の症状?」

「――ッッ!! ……そうよ。捕まって、屋敷に連れ込まれて、散々玩ばれた挙げ句が……性病(まみ)れの身体のできあがりってわけよ」



「ソイツらを殺してあげましょうか? 私が」



「……貴女、本気?」


 このクエストを終わらせるために、殺す理由が、殺して良い理由が欲しかったところだし。


「それで、そのゴミ共の拠点はどこ?」



●●●



「結界の強度、半分を切ったか」


 さて、道中にトラブルなんてなければ、そろそろ到着しても良い頃だけれど。


「万が一の時は私が出るわ、コトリちゃん」


 エロカナさんがやる気。


「私達も準備はできてる」


 メグミさんのパーティーも、やる気十分。


「頼りにしてるね。でも、今回は間に合ったみたい」


 屋敷の門のカメラが、待っていた援軍の姿を捉えた!



●●●



「“大砂鉄槍”――“砂鉄投槍術”、アイアンサンドジャベリン!!」


 カードダセでコセ様達が手に入れてくださったスキルを行使し、不届き者達の一人の上半身をぶち抜く!


「“硝子王剣”! “鏡面王剣”!」


挿絵(By みてみん)


 マリナの剣が、不届き者達を牽制してくれる。


「“暴虐惨禍”!!」


 黒味を帯びた竜巻が、完全に不意を突かれた不届き者達を呑み込む。


「く、クソガキ女ぁぁッッ!!」


 彼女、咄嗟に守護神のスキルを使い、盾にしたようですね。


「ソイツらを殺せ、“太陽光の絶視神”ッ!!」


 ヒステリック女が、凄い形相で睨んでくる。


「怖い顔ですね」

「若いからって調子に乗るなぁぁぁッッ!!」

「なんの話ですか?」


 などと考えている間に、マリナの剣がヒステリック女性の胴と首を刎ねて終わらせた。


『ケルフェ~、聞こえてる~?』


 この声、コトリ?


 インターホンから、微かにコトリの声が?


『あんがとさん、お疲れ様~』


「コトリ、私達はこれからどうします?」


『結界の修復が八割まで進んだら、レリーフェさんのドローンと一緒に三人で行動、NPCの保護と情報収集をお願い』

「任せてください。道中の敵も、片っ端から始末してみせますよ。ここの人達、なんか弱いですし」


 私達に対する咄嗟の反応とか、戦術の組み方とか、ここに来るまでに襲ってきた連中も含め、どいつもこいつも五十四ステージまで辿り着いた猛者とは思えない。


『リューナさんも似たようなこと言ってたよ。たぶん、私達よりも随分長くこのステージにいたから、戦闘の勘が鈍ってるんじゃないかな?』

「なるほど」


 それなら色々合点がいきますね。


『とはいえ、この街にはSSランク持ちが数人は居るはずだから、油断しないでね。後で陣地を奪って貰うから、その分の余力も残すように』


 いつもよりコトリの指示が細かい……これは、あのコトリでもあまり余裕が無い証拠。


「私達の心配は無用です、コトリ。ですので、そちらは任せましたよ」

『おうよ、任されたん♪』


 まったく。“超同調”で繋がった今の私には、貴女のそのおちゃらけが気を紛らわす半演技なのは解っているというのに。


 でも、コトリに頼られるのは素直に嬉しいです。



●●●



「ここが、《梅の薔薇で飾ってあげよう》の拠点よ」


 赤いブツブツだらけの半裸の女性を守りながら辿り着いた屋敷は、作りは私達のホームとあまり変わらなそうなのに、滲み出ている雰囲気は最悪だった。


『ジュリーさん!』


 この通信機越しっぽい声、ヒビキ?


「ドローンから声が?」


『こちらヒビキです。ジュリーさん、今からそこに攻め込むつもりですか?』

「ええ」

『援軍を送るよう掛け合いますので、少し待っててください』

「こっちは一人で良いよ」


 向こうは性病塗れらしいし、他のレギオンメンバーを奴等に近付けたくない。


『……本当に一人で良いんですか?』

「それより、状況を教えて」


 手早く情報交換を済ませる。


「なら、遠慮なく“地球儀”を破壊できる」


 私の中でのクエストに対する難易度が、一気に下がった。


『では、“SSランク解禁の首輪”を届けさせますので』

「それなら、私のをあげるわ」


 梅毒女性が申し出た。


「なんで貴女が……」

「持ってると狙われかねないって言われて、無理矢理に押し付けられたのよ。私、寄せ集めのチームリーダーに任命されてたし」


 そういえば、ここには連れ去られたって行ってたっけ。


「ありがたく貰います」


 手を差し出すも、全然渡そうとしてくれない?


「――私を殺して、自分の物にしなさい」


 意外すぎる、何の意味も無い提案。


「彼等が殺される様を見なくて良いの?」

「約束を守ってくれるなら構わないわ。むしろ……早く死にたいのよ」


 彼女の気持ちは、私には推し量れない。


「自殺する勇気があれば、私はとっくに死んでた……だからお願い」


「……できるだけ、苦しくないようにします」


 死にたがりを殺す、か。


「ここの連中はSSランクは持ってないけれど、ユニークスキルとEXランクを持ってるって言ってた。私が提供できる情報は以上よ……」

「情報、ありがとうございます」


 これで、別れの準備は済んだ……いや。


「私の名前はジュリー。貴女は?」

「……言いたくないわ」


 彼女はきっと、他者に自分を認識されることそのものに強い嫌悪を抱いている。


 ハーフであることに悩んでいた頃の私が、一時そうだったから……。


「……そうですか」

「ほら、早くしてちょうだいよ、ジュリー」


 名前を呼ばれたら、少しだけ情が湧いてしまった。


「今度こそ、さようなら――“精霊魔砲”!!」


 MPの半分を消費して、彼女を一瞬で蒸発させる。


『……多少は救われたと思いますよ、彼女は』


 ヒビキの、色々察していそうな言葉。


「だと良いな」


 取得アイテムからお目当てを探し――“ケラウノス・ミョルニル”を実体化。


『私のドローンは、近くで待機しています』

「三十分以内に終わらせる――“雷支配”」


 黄色い雷を、私の思うがままに轟かせて結界を破壊していく!!



●●●



「ジュリーさんが一人で……」


 向こうに行って貰ったレリーフェさんからの報告。


『上手くいけば陣地が四つになる。どうする、コトリ?』


 現在は、まだ昼過ぎ……。


「ケルフェ達を、どこかの屋敷に攻め込ませる」


 外にいる三人の負担を減らし、このクエストからさっさと抜けられるなら、それに越した事はない。


「問題は、どこに攻め込ませるかだけれど」


 因縁のあった二つのレギオンのうち一つは潰して、もう一つはジュリーさんが攻略中。


「ケルフェ達の性格で、心があまり痛まない敵を見つけてあげないと」


 さすがに、七百人越えの《ジャスティス教》を攻めさせるわけにはいかないし……。


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