790.ウェポン・クラスター
「これで陣地が三つ。残り二つか」
ルイーサさん達から連絡を受け、改めて状況整理。
「それでどうする? 残り二つの陣地を奪って、一足早くクエストから抜けるか?」
レリーフェさんからの試すような問い。
「ルイーサさんとチトセさんの二人じゃ人手が足りないだろうし、取り敢えず同じパーティーのイチカとアヤナさんに転移で行って貰おうと思う」
問題は、ルイーサさん達からもたらされた謎の敵。
楽観的に考えれば夕方までは安全そうだけれど……あの観測者なら何をしてくるか判らない。
「私の予想だけれど、夕方までには全員が屋内に居た方が良いと思う。ヒントが結構露骨だし、下手をすると外にいるだけで“即死”、なんて事になりかねない」
「その予想が当たってるなら、連絡が取れないコセ、ジュリー、ユイにどうにか情報を伝えたいところだが」
「……レリーフェさん、リューナさんのところに転移してドローン操作に協力してくれない?」
“偵察ドローン”には、他のドローンと違って会話機能があるらしい。
殺して手に入れた大量の$で二機を購入、運用して貰っているけれど、自分で操作しないといけないから一人一機しか動かせないし。
「人手が居るな。ユリカを連れていっても?」
「うん、よろしく。うん?」
リューナさんから連絡が。
「もしもし」
『気を付けろ、コトリ。そっちにプレーヤー九人が向かってる』
ここの周囲の建物には、誰も住んでいない。
「なら、間違いなくここが狙われてるね」
これはもう、さっさと二つの陣地を手に入れてしまった方が良いかな?
クエストが始まってから、まだ三時間と少ししか経ってないけれど。
●●●
自販機から、40$で“テリヤキチキンメンチカツモッツァレラチーズバーガー”を購入、半分だけ食べてチョイスプレートへ。
ガッツリ食べたいところだけれど、お腹を重くするわけにはいかない。
「返り討ちにしたプレーヤーは四名、回収した宝箱は三、避難を受け入れたNPCは五人」
あと何人殺せば良いのか判らないのは、なんだかな。
「おい、居たぞ」
「あーあ、みーちゃった」
「チ! 吞気に飯なんざ食いやがって、クソガキが!」
いきなり謂われの無い罵詈雑言を吐いてきたのは、三人の男達。
コイツら、俺が食ってる時は居なかったよな?
「俺がいつ飯食ったって勝手だろ、オッサン」
見た感じ、二十代後半て感じか。
「若い女ばかり侍らせやがって。生意気なんだよ、お前!」
嫉妬混じりの言葉。
今の俺の周りには誰も居ないのに、この物言い……前々からマークされていたみたいだな。
「安心しろ。テメーをぶっ殺した後は、テメーの女共を犯しまくってからぶっ殺してやるからよ」
「まあ、自分から股を開いて命乞いしてきたら俺達の女にしてやるから、テメーはあの世で寝取られ気分でも味わってな」
「……クズ共が」
ベラベラとくだらない――異音に気付いて、すぐさま鎧に神代文字を刻む!
「“神代の鎧”!!」
青白い光を纏った直後、横合いから強力な衝撃を食らい――派手に吹っ飛ばされたッ!?
――……クソ、いったい何をされたんだ?
「……ドローン?」
左右下側のパーツから、煙を上げているのが一機。
「知らねぇだろ? “ミサイルドローン”てんだよ、クソガキ」
「俺らみたいに、陣地を増やした奴の特権て
やつさ!」
陣地増やしには、そういうメリットもあったのか。
「陣地を増やしたら、死ぬリスクが増えるんじゃないのか?」
「バーカ! “地球儀”はともかく、“満月”なら問題ねぇーんだよ!」
コイツら、本当に伝える気があるのかな?
まあ、大体解読はできたけれど。
「つまり、“地球儀”を破壊すると“満月”に変わると」
「おおよ! 更に言うと、壊れた屋敷も結界も、綺麗さっぱり元通りになるんだぜ~!」
自慢がしたいのかなんなのか知らないけれど、有益な情報をポンポンくれるな。
「――“魔炎”」
紫の火玉が連なる蛇で、“ミサイルドローン”を破壊。
「ちょうど良い。コイツの実験台になってくれ」
魔法の家が使えない上に武器も装備できなかったせいで、まだ全然実戦で試せていない、俺の新しい剣。
「武器交換――“ウェポン・クラスター”」
“サムシンググレートソード”から、黄金の刃持つ銀の大剣に持ち替える。
SSランクモンスター二体を倒した報酬で手に入れた、EXランクの未分類武器。
「最近このステージに来たばかりのガキが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「“二重魔法”――“雷霆魔法”、ケラウノスファング!!」
雷霆でできた獣の顎が、オッサン三人へと襲い掛かる。
「ま、“魔断障壁”!!」
魔法を完全に防ぐ壁で、リーダーらしき戦士風のオッサンに対処されてしまう。
「“煉獄魔法”――インフェルノブラスター!!」
“魔炎”を操り、魔法使い風のオッサンの炎を消し去る。
「“暴風の竜巻”!!」
鳥人の男が自前の翼で飛びながら、上空から竜巻を撃ちだしてきた。
「“大地壁”」
生みだした土岩の壁で、削られながらも防ぐ。
「貰った――ハイパワースラッシュ!!」
「“不撓の恵み”」
再び手に入れた“グレートグランドキャリバー”の能力で黄土色の光りを全身に纏い、攻撃を完全防御。
続いて“ウェポン・クラスター”に神代文字を六文字刻み――周囲の状況を手に取るように把握。
「崩壊脚!!」
「――大地脚」
大剣使いの足を蹴り上げ、そのまま体勢を崩した男の脚をぶった切る。
「――ぁぁあああああッッ!!!?」
「“カパッチリカムイ”――“後輪光輝宮”!!」
鳥人男の背後の輪っかから、光球が乱れ飛ぶ!
「“空衝”」
空を高速で駆けて、鳥人の懐へ。
“後輪光輝宮”は、背後の光輪から孤を描くようにしか飛ばせないため、懐にもぐり込めば実質無力。
「ハイパワースラッシュ」
向こうが必死に躱そうとしたために、横一文字にするつもりが逆袈裟切りのような形に。
「れ、“煉獄大蛇”!!」
「“雷霆魔法”――ケラウノススプランター」
紫炎の大蛇をすり抜け、雷に焼かれる煉獄の魔法使い。
「うちの煉獄魔法使いの方が、何倍も強かったな」
――背後から迫る気配に対し、“ウェポン・クラスター”で防御!!
「この大剣は!?」
リーダーらしき男の無骨な剣で間違いないものの、剣単体で何度も襲い掛かってくる!
「ソイツは俺のSランク武器、“フリーリー・オービットソード”だ! テメーが死ぬまで追い掛け続けるぞ!」
脚はさすがに治療済か。
「良いな。俺のこの剣に組み込んでやる」
“ウェポン・クラスター”は、剣ではなく未分類武器。
同じ種類の武器を三つか六つ、融合させなければ武器として装備できない。
俺の“ウェポン・クラスター”が大剣なのは、“ケラウノスの神剣”、“グレートグランドキャリバー”、“グレートソード”の三振りを組み合わせた結果。
この“グレートソード”は自分のドッペルと戦った時にドロップしたものだけれど、何故か“サムシンググレートソード”じゃなかった。
「俺の相棒を奪おうとしてんじゃねぇよ! クソゴミ野郎ぉぉぉッ!!」
「――お前みたいな奴等のせいで、皆が普通に出歩く事もできないんだ。モモカは特に!!」
飛び回る剣を受け止め、柄に手を伸ばす!!
「――スティール!!」
所有権を奪う!
「……お、俺の……自慢の……」
「少しは理解できたか? 寝取られ気分って奴がさ」
「た、助け――」
「ハイパワーフリング」
あまりに無防備な背中を晒しながら逃げていくものだから、つい奴の相棒を投げて背中を貫いてしまった。
「ああいうクズ共なら、気兼ねなく殺せるんだけれどな」
俺の視線は、自然とある教会に向いていた。