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785.浮かび上がってきた敵の姿

 コセとモーヴと私、三人での式を終える。


「これが、私とコセの婚姻の指輪……♡」


挿絵(By みてみん)


 呆けながらも幸せそんな、薄緑のウエディングドレスを着たモーヴ。


 私は、以前、自分のパーソナルカラーにしていた薄青いドレスで式に臨んだわけだけれど……私は低級で、モーヴは最高級の指輪か。


挿絵(By みてみん)


 ま、当然だけれど。


 彼とは知り合ったばかりだし、ろくに話したのなんてほんの数回だし。


 まあ、醸し出している雰囲気は悪くないけれど。妙な色気もあるし。


「リンカさん、もしかして本当は嫌だった?」


 彼に尋ねられる。


「いいえ。本気で嫌なら、最初に断ってるから」


 指輪のメリットの大きさと天秤に掛けた部分はあるけれど、仮とはいえ夫婦になる相手が誰でも良いなどと思えるほど、私はドライな人間にはなれない。


 着替えを済ませ、七人で教会の外へ。


「向かいにも教会があったのか」


 彼の声に、私もそちらへ視線を向け――今、四階の窓辺りから、誰かがこちらを見ていた?


「アレが、唯一購入されている教会です」


 やはり、新興宗教の団体が利用しているという……。


「おう、兄ちゃん達。元気してる~」


 柄の悪そうな大柄男が、男女を十人以上も引き連れて路地から……。


「何か用か?」


 彼が尋ねる。


「決まってんだろう。このステージで暮らす先輩達には、上納金支払うのが常識だろう?」


 デタラメをベラベラと。


「なんだ、知らなかったのか? なら多めに見てやろう。一人頭50$、今すぐ払えば俺達への非礼を許してやるよ」


 あまりに唐突で無茶苦茶な頭の悪い内容に、私の脳細胞が死滅していく感覚に襲われる!


「もう有り金全部使ってしまったから、お前らに払える物なんざ1$もねぇよ」


 普段温厚な彼でも、さすがに喧嘩腰か。


「テメー、まだこのステージの勝手が解ってねぇみたいだな。装備もスキルも無いここではな、人数が物を言うんだよ!!」


 男の拳が繰り出され――コセのカウンターがお腹に決まる。


「が……なん……こんな若造……に」


 苦しそうに蹲るオッサン。


「Lv差と戦闘技能の差は、考慮に入れないのか?」


「コイツら、ガキのくせに……」

「ハルキよりもLvが高いって言うの!?」


 なるほど。見た目が若そうだから、自分達よりもLvが低いと決めつけてたのか。


「コイツらはやばい! ここでぶっ殺しちまおう!」


 全員が包丁やら鈍器代わりを隠し持ってたのか……厄介ね。



「――やめないか、君達!!」



 突然、連中の背後から声が飛んできた?



「チ! カルト集団共が……ずらかるぞ!」


 苦しんでた男の号令で、連中が全員逃げていく。


 その場所に残っていたのは、先ほどの声の主であろう眼鏡の男と、四人の男女。


 眼鏡の男の格好はファンタジー物に登場する大司教か何かのようで、取り巻きは敬虔な白い神父とシスターといった感じの服装。


「大丈夫でしたか?」


 眼鏡の聖職者が声を掛けて来た。


挿絵(By みてみん)


「……ええ。助けていただき、ありがとうございます」


 コセが対応し始める。


「申し遅れました。私は後ろの教会の所持者であり、《ジャスティス教》の教祖にして大司教を務めるマサヨシと申します」


 ジャスティス教……マサヨシって、もしかして正義って書いて正義(マサヨシ)? 不憫な名前。


「教祖、貴方が新しい宗教を作ったのですか?」

「はい。日本人は宗教を忌避しがちですが、宗教とは元々、人々に人としての規範を教え、導く物。私自身、全ての宗教を肯定するわけではありませんが、宗教は人が人らしく生きていくためには必要不可欠な物なのですよ」


 やんわりと、押し付けがましい言葉の気配。


「その証拠に、私の元には彼等のような敬虔な信者達が集まってくれました」


「皆さんの服装、我々とは違うみたいですね」


 コセ、既にウンザリして話題逸らししてる?


「教会を購入し、宗教を興すと、信徒用の服を用意できるのです。彼等はまだ修行の身ゆえ、ブラザーとシスターと呼ばれております」

「ブラザーとシスター……」


 何か引っ掛かってるのかしら?


「私は、私が信じる神の導きを信じて皆を導きたい。どうです、あなた方も《ジャスティス教》に入信しませんか?」


「俺達は、このステージの先に進むつもりなので。行こう、みんな」


 彼に促される形で、私達は難を逃れる。


 少し歩いてふと気になり、背後を振り返ると――一瞬、人間とは思えないほど醜悪に歪んだ彼等の顔が……見えた気がした。



●●●



「一筋縄じゃいかなそうだね」


 夕食後のまったりとした時間、各々がこの街で経験した情報を出し終える。


「私達を付け狙っている集団が少なくとも三組に、カルト教団染みた新興宗教団体か」


 リューナのまとめ。


「武器やスキルがあれば、良くも悪くも戦闘に発展している空気感だけれど……本当にやりづらいな、この感じ」


 まるで、こっちに来る前の……現代社会に戻されたような気分だ。


「モモカとバニラを外に出すのは怖い。クオリアも仕事は難しいだろうし、リューナのパーティーは屋敷の警備に回ってくれないか?」

「モモカ達も見張れと? 良いだろう……バイトとかダルそうだし」


 本音が出てるぞ、リューナ。


「んで、コセっちは明日、どうするんすか~」


 ソファーに座っていたところ、背後から山猫獣人のサンヤに抱きつかれ……頭に柔らかいのが当たってんだけど。


挿絵(By みてみん)


「……用心棒的な感じで、アイテム売買……【ジュリーのブグブグ店】と【和洋折衷庵】を行ったり来たりしようかと」


 あんまり離れてないし……店名の名前、いつの間にかジュリーが勝手に……いや、契約したのはジュリーなんだけれどさ。


「何人かは、用心棒として店内に目を光らせてた方が良いだろうな。戦闘技術の高い人間を選抜して」

「じゃあ、ユイとヒビキ、リューナ辺りっすか? あ、でも、私らは自宅警備員だったっす」


 頭にギュムギュム押し付け……誘ってんのか、これ?


「ローテーションで休暇を取らせるつもりだし、何日か店に出て貰おう。リューナもよろしくな」

「ええ……」


 本気で嫌そうだな、リューナのやつ。


「話が変わるけれど、この街に居るレギオンを発表するね」


 メルシュが注目を集める。


「まず、新興宗教団体の《ジャスティス教》。この《ジャスティス教》がレギオン名ね。リーダーは、教祖を名乗っていたマサヨシ」


 レギオンてことは、このステージに来る前から宗教染みた一味だったのか?


「もう一つは、サトミにちょっかいを出そうとした金髪男、の背後に取り巻きっぽくいた茶髪のピアス男、ナオヤ。レギオン名は《子羊たちを愛でよう》」


「「「うげ!?」」」


 ……名前からして気持ち悪い。


 考えた自分達は格好いいとか思ってそうな、微妙で絶妙なネーミングセンス。


 ジュリーのネーミングセンスの方がマシに思えるなんて……なんか、ジュリーがこっちを睨んでいる気がする。


「もう一つ、《梅の薔薇で飾ってあげよう》っていうレギオンのリーダーも見掛けたよ。名前はミンシュェン」

「それって名前なの?」


 メルシュの言葉に対するサンヤの疑問。


「おそらく中国系の名前だろう。それにしても、梅の薔薇ってなんだ?」


 リューナが真面目に悩んでいる。


「……あの、もしや性病の梅毒の事では?」


 イチカの発言に空気が変わる……子供たちがお風呂に行ってて良かった。


「どういうことだ、イチカ?」

「中国人の間に……日本人に梅毒を移そうという集団が居ると、一時期話題になってまして……」


 嫌悪感という名の重圧がリビングを満たす。


「レギオン名が梅毒を指していると考えると、遠回しに、レイプして性病を移してあげるからね、と、堂々と宣言しているって事か?」


 頭がおかしくなりそうだ。


「なんだ、コセ。悪い奴のことを理解できるんじゃなかったのか?」

「エトラ……よくそんな弄りができたね、この流れで」


 コトリが呆れている。


「ねぇ、なんで梅の薔薇で梅毒って事になんの?」


 ナオからの質問。


「梅毒になると、身体にブツブツができるんですよ。それが小さな薔薇のように見えるらしくて」


 イチカが普通に教える。


「うわ……マジでキモい」

「だがおかげで、遠慮なく殺せるな」


 ルイーサが戦意と嫌悪を漲らせている……一方で、一見冷めたように見えるシズカの殺意も凄まじい。


 そんなシズカに呼応するように、エレジーも怖い空気感を放ち始めた。


「とにかく、明日からは一人で出歩かないように。最低でも二、いや三人以上。できる限りパーティーで行動するようにしてくれ」


 アテルとキクルは、このステージをどうやって乗り切ったのやら。


 俺は既に、心労でおかしくなりそうだよ。


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