775.魔神・天空隼
「第五十二ステージのボスは、魔神・天空隼。弱点属性は氷。有効武器は槍。危険攻撃は、右目の“太陽眼”から放つ“太陽光線”だよ」
遺跡に立つ巨大な塔の前で、メルシュさんのいつもの講義。
「ステージギミックは、自身の小魔神四体が半永久的に現れること。四体全てが倒されるたびに復活するうえ、天空隼には闇の単一属性攻撃は効かないから」
魔神に効かないなら、小魔神の方にも通用しなさそうですね。
「……フー」
「どうしたん、ヒビキ?」
サンヤさんが心配してくれている。
「いえ、いよいよ五十三ステージだと思うと……」
攻略半ばで起きた仲違いにより、私達のレギオンは崩壊。私は、気付けば二十二ステージまで戻されてしまった。
「まさか、こんなに早く戻ってこられるとは」
以前ここに来たときとはLvも大違いだし、喪った仲間の数も圧倒的に少ない。
このレギオン、《龍意のケンシ》は、改めて奇跡的な軍団なのだと思い知る。
「リューナ、お願いがあるのですが」
「なんだい?」
「魔神とは、私一人で戦わせてください」
★
ボス部屋の奥で、右半身に白、左半身に紫のラインが走って行く。
「小魔神は私達が引き付けておくから、ヒビキは魔神に集中しろ」
「ありがとうございます、リューナ」
サトミさんのパーティーと共に入ったボス部屋の中で、頭から翼が生えた、隼顔の巨人が飛び立つ。
同時に、床から横並びに、天空隼の小魔神が出現。
「それじゃあ、私達は見てるわね~」
私のお願いにより、サトミさん達は見物に回ることになった。
「行くぞ!」
リューナ、サンヤさん、ネレイスさん、レミーシャが小魔神をそれぞれ引き付け、戦闘を繰り広げる。
その合間を駆け抜け、こちらを睥睨する魔神・天空隼と相対した。
「行きます――」
“馬上で振るうは∞の幸輝”に、“マスターアジャスト”を融合させる!
これで、私の十文字槍は疑似SSランクとなった!
そして、私がセットしたサブ職業メダルで得た支配能力は――
「“紅蓮支配”!!」
紅の猛火を大量に生み出し、魔神に殺到させる!
“随伴の紅蓮華”とは、似てるようでだいぶ違う感覚。
願い通わせるのではなく、命じ従わせるような。
『……“太陽眼”』
右目が赤く発光しだした?
『――“太陽光線”』
これが危険攻撃!!
「“瞬足”」
視線と共に、ビームが追尾して来た!
「“炎神鳥居”」
妖しい鳥居を作りだしながら、尚も回避し続ける。
躱している間も紅蓮の炎で攻撃し続けてはいるものの、あまり有効打になっているようには思えない。
“炎神鳥居”から出現する炎神の群れも、魔神のような強力な個にはイマイチですか。
「“瞬足”――“吉原炎上”!!」
四十一ステージで手に入れたスキルを、魔神の死角となる股下で行使――自身を中心に、大火を劇的に炎上させる!!
「これもイマイチですか」
もしかして、火への耐性が高い魔神なのでしょうか。
「ならば――“紅蓮投槍術”、クリムゾンジャベリン!!」
背後から、“紅蓮支配”で強化した“馬上で振るうは∞の幸輝”を投擲!!
背中は貫けなかった物の、左翼を破壊して落下させた。
『“月光眼”……“月光治癒”』
白い薄光が魔神の身体を包み、焦げ跡だけでなく翼まで再生させ始める!?
勝負を急がなければ!
「“鳳凰翼”!!」
炎の翼で飛び上がり、“帰還”で戻ってきた“
馬上で振るうは∞の幸輝”に、支配した紅蓮の炎を収束させていく。
「――[紅蓮・流れ華火]!!」
再び投擲!
紅蓮纏う十文字槍が、軌跡を描きながら魔神の胸へと突き刺さり、内側から花火を炸裂させる!!
魔神・天空隼が半壊するも、まだ動ける様子。
「思っていた以上に頑丈」
もう一押しですか――魔神が、黄金のオーラを纏い出した!?
「“天賦覚醒”ですか!!」
全てのダメージを半減させると同時に、全ての能力を引き上げるという。
しかも、まだ“月光治癒”の効果も続いている。
再び“帰還”する、私の愛槍。
「これで終わらせます」
魔神が振るう長杖を躱しながら、愛槍に十二文字刻む!!
『“太陽眼”――“太陽法術”』
私の頭上に魔法陣!?
『――ソーラーピラー!!』
「“神代の十文字槍”!!」
青白い穂先を無理矢理巨大化し、落ちてくる太陽光への盾とする!!
『“太陽法術”――ソーラーフレア』
今度は炎の奔流が迫って――“紅蓮支配”!!
神代の力で強化した炎をぶつけ、相殺させる!
『“月光眼”、“月光魔法”』
「装備セット1!!」
腰に出現させた“魔術師殺しのクナイ”を投げ付け、展開された魔法陣を破壊。
「“紅蓮槍術”――クリムゾンチャージ!!」
全力で神代文字の力を集約したエネルギー槍を突き出しながら、急速落下――魔神の黄金のオーラごと身体を貫き、強烈な反動と共に……着地した。
「ハアハア、ハアハア」
○おめでとうございます。魔神・天空隼の討伐に成功しました。
「……支配か」
悪くはありませんが、随伴の力の方が私にはしっくり来ますね。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★天空隼の翼兜 ★太陽眼のスキルカード
★月光眼のスキルカード ★天空隼の長杖
「すみません、手こずりました」
迷惑を掛けたリューナ達に謝る。
「この程度で謝らなくてもいい。許可したのは私だしな」
「確かに、リューナ様は計画を無視してさっさと小魔神を倒してましたね」
レミーシャの暴露。
「自分が長く相手するから、三人はさっさと倒して良いって言ってたのにね~」
サンヤさんからも暴露。
「経験値になるうえ、コイツらからは魔神系統のアイテムが手に入るらしいからな」
……私の後ろで、そんな危険な事をしていたとは。
「で、どうする? メルシュからは、眼のスキルは使用する際、死角を片方潰されてしまって不便だから、装備を選んで欲しいって言われてるけどさ」
サンヤさんの言うとおりで、“太陽眼”と“月光眼”は便利な複合スキルではあるものの、取得にはやんわりと反対されていた。
魔神が同時に眼のスキルを使用しなかったのは、その仕様を踏まえての事なのでしょう。
「私は視覚が関係無いので、両方欲しいのですが」
クオリアさんからの提案。
「なら、私が“月光眼”を選んでクオリアに渡そう」
リューナの案。
前回来たときは、私も人に譲ってましたっけ。
○これより、第五十三ステージの【流民の溜まり場】に転移します。