774.交わる二人
“渡河船”の旅を終えた私達は、待機していた使用人NPCのヘラーシャさんから、コセさん達が既に船に乗り込み、明日の昼には合流できる事を知る。
そのヘラーシャさんは、私達への伝言のために置いていかれたことにだいぶヘラっていた。
○クエスト報酬を以下から一つ選択してください。
★武器ランクアップジュエル×10
★防具ランクアップジュエル×10
★指輪ランクアップジュエル×10
★その他ランクアップジュエル×10
“オールランクアップジュエル”じゃない所に、ケチくささを感じてしまう。
「なんで何もしてない私だけ、こんなに報酬が多いわけ?」
○クエスト報酬を以下から一つ選択してください。
★武器ランクアップジュエル×15
★防具ランクアップジュエル×15
★指輪ランクアップジュエル×15
★その他ランクアップジュエル×15
○以下のクエスト報酬を全てお受け取りください。
★5500000G ★死者の書 S ★豪奢な槍
★不意打ち無効のスキルカード ★免許皆伝×2
★万能プランター ★極化の種
何故か不機嫌そうなハユタタさん。
「まあまあ。ハユタタさんは寝てただけとはいえ、自分では何もできないまま死んでいたかもしれないんですから」
夜の食堂で、ツグミさんが宥めている。
「それに私ら、クエスト中に色々手に入れたしな」
ナイフを手でクルクル回しているセリーヌさん……アレ、見てるだけで怖い。
「どのランクアップジュエルを選ぶかは、メルシュさん達と相談してからの方が良いでしょうね」
クエストに巻き込まれた十三人以外、誰も居ない“神秘の館”……変な感じ。
「……ネロ、ちょっと良いですか?」
「私の部屋でなら良いよ」
「では、行きましょうか」
「……本気?」
何を驚いているのか。
彼女の提案通り、“吸血皇の城”の一室へと二人で移動する。
ネロを追い、バルコニーへ。
「……それで、なんの用?」
外の景色を見詰めながら尋ねられる。
「私は――貴女が知りたい」
「は?」
ツグミさん達の前では見せようとしない、素の嫌な感じの側面。
「貴女が、私の仲間を平気で殺し、今になっても悪びれる様子もない。かと思えば、死ぬことそのものには頓着せず……私には、貴女が解らないんです。だから……」
一枚のカードを取り出す。
「何それ?」
「大規模突発クエストで、リエリアが手に入れていた“超同調のスキルカード”です」
「そのスキルで、私を理解しようっての? 深く繋がると精神に異常をきたすかもとか、ヤバい話を聞いてるんですけど?」
「貴女は、本音で話してくれませんから」
彼女は、自分でも何が本音なのか解らなくなっているのかもしれない。
「……地獄を見ることになるかもよ?」
「私が、私じゃなくなってしまうかもしれませんね」
どこか、確信めいた予感がある。
「…………どうなっても知らないから」
「……お互いに」
“超同調”を修得し、私は彼女と深く繋がっていく。
その日、私は彼女の……シズカの部屋で、一夜を過ごした。
●●●
「ようやく到着か」
この二日、たまにモンスター、“河賊”などを倒しつつ、主にスイートルームでノンビリ過ごした。
なんだかんだであんまり構ってあげられていなかったモモカやバニラともいっぱい遊び、埋め合わせもした。
「ご主人様、クマムさん達です」
船が港に隣接して階段が形成された頃に、トゥスカが教えてくれる。
「迎えに来てくれたのか」
十三人、全員無事だな。
「マスター、今日はボス戦はどうする?」
「明日の朝で良いんじゃないか? 慣れない船旅で、いつもと違う疲労が溜まってそうだし」
マイホームで一日過ごして、調子を取り戻したい。
「ねーねー、ギオジィ! エレジー姉とネロ姉、手ぇ繋いでるよ!」
クレーレの指摘に、思わず確認を急いでしまう。
「……本当だ」
あれ、たぶん恋人繋ぎだよな?
「でも……」
恋人のイチャイチャ感などは無く、なんというか……ガチっぽい雰囲気が凄いんだけれど。
●●●
「……」
夜、ベッドに仰向けになりながら思考に耽る。
あれから数日、たびたび十二文字を超えようと試みるも、まったく上手くいかない。
……暫く、この件は忘れよう。
固執すると、変な泥沼に嵌まって抜け出せなくなりそうだ。
「……今日は誰も来ないな」
いつもなら、とっくに一人目が来てる頃なのに。
ノック音。
関係を持った事のある妻が、この時間にノックする事はまずない。
「……どうぞ」
ドアを開けて入って来たのは、エレジーとシズカ?
「なんでエレジーとシズカが……」
「狡いです」
「え?」
「私より先にシズカの本名を知っているの……本当に狡いです」
シズカに対する嫉妬?
「エレジーはいったい……いや、二人に何があったんだ?」
クエストの事は聞いたけれど、二人の関係性の変化については誰も知らなかったみたいいだし……今も手を繋いでるし。
「……お互いを深く知ったから……みたいな?」
照れながら語るシズカが、やけに真面目そうに見える。
「シズカ♡」
ごく自然に、後ろからシズカを抱き締めるエレジー……雌の顔しとる。
「ちょ、エレジー……♡」
なんだ、この雌々空間。
「エレジーは、シズカのこと……」
「はい、だいぶ前から知ってました」
「私がアンタに正体を打ち明けた時には、もう勘付いてたみたい」
あの頃から、ずっと秘めて一緒に……。
「あのね――私達を抱いて」
「……へ?」
絶対にそんなこと言わないと思っていた二人が……。
「エレジーもなのか?」
「はい……“超同調”で視ないでくださいね」
それ、“超同調”を使われたくない精神状態って事だよな?
「……初めてを捨てるなら、私達……アンタが良いなって」
「私達はもう、普通の男女の夫婦関係なんて無理でしょうから。コセさんなら、あんまりベタベタしてこないでしょうし……」
コイツら、俺を隠れ蓑にして付き合うつもりなんじゃ……まあ、それは良いか。
「……抱く以上は、俺は二人の夫面するからな」
お飾りの夫なんて、俺の性に合わない。
「やっぱりアンタ、バカに嫌われるタイプよね」
「私も、一時期嫌ってましたし」
リョウを殺した頃の事かな。
「俺は二人の夫で、二人は俺の妻だ。それは……それだけは忘れるなよ」
「「……うん♡」」
二人の気持ちをよく理解できないまま始まった行為は、えらく背徳的に思えた。
★
右隣から、エレジーの寝息が聞こえてくる。
「……ねぇ、良かったの? 私と関係を持って」
左隣から、裸で抱きついているシズカに尋ねられる。
「少し、覚悟が中途半端な状態で手を出したのは、悪かったなと……」
「何それ? 随分と重い男じゃない」
「俺は、少しくらい重い女の方が好みだけれどな」
身勝手な地雷女なんてごめんだけれど。
「私は? 重い女?」
「重い所か、爆弾そのものだろ」
一番の爆弾要素だったエレジーとは和解以上になったようだけれど、サトミやメグミはどう思うか。
「……使い潰したって良いのよ、私のこと」
「嫌だ」
「このゲームをクリアすれば、今度こそ死んでしまうのに?」
「……」
レンも、シズカも、リンカも、このゲームの中でしか生きられない存在。その他の隠れNPCも、使用人NPCだって……。
「迷ってんじゃないわよ…………エレジーやツグミのこと、お願いね」
「……うん」
シズカを、少しだけ強く抱き寄せた。