772.動乱の渡河船
「面倒だな」
NPCとモンスターの乱戦になっていて、魔法などの広範囲攻撃による一掃ができない。
とはいえ、チンタラなんてしていられない!
「――“妖精の戯れ”」
ユニークスキル、“悪戯妖精”の能力を行使し、火を司る赤、水を司る青、雷を司る黄色、風を司る緑色の半透明な妖精を呼び出す。
それぞれが上級の単一属性魔法を操る奴等で、規模の小さい攻撃で“アポピスの雑兵”共を始末してくれる。
「コイツら、一体一体が頑丈だな」
ツグミも、いつもの“エロスハート”によるごり押しが出来ないから、黒い凹凸のある棒、“ディフェクティブクラブ”と“竜殺しの鎚矛”で戦ってるし。
「七人ミサキ」
指輪から呼び出した亡霊七体に、この場を任せて別の喧騒の方へ。
――船が大きく揺れる!
「……なにあれ?」
黒い巨大なワーム? みたいなのが、船に体当たりしている!
「あっちは私が! “万雷砲”、“連射”!!」
ツグミに任せるべきだろうけれど、私達ペアは十メートル以上離れられないから、私も実質ここから動けない。
「あんま使いたくなかったけれど――“古代兵装/四枚盾フェルミオン砲台”!!」
盾と二つの発射口が付いた浮遊砲台を四つ、この場に顕現。
「行け!!」
頭のイメージで四台を操り、一発でTP60を消費する砲撃を繰り出していく。
「このマルチタスクを強要されてる感じ、苦手なのに」
頭がおかしくなりそうな感覚に襲われる。
「……そうだ」
コセさん♡は、共鳴精錬を成功させるために、敢えて神代文字を刻んでいた。だったら!
――鎧、“神秘は秘奥であるが故に”に九文字刻む。
「……おお」
頭が程よくクリアになって、複雑な思考の練りが手脚を動かすように出来る。
「残り時間は、四十分て所か」
頼んだわよ、エレジー達。
○生贄数127/444。
●●●
「“太刀風”――“飛剣・靈光”!!」
スキルの重ねがけ強化状態で放った斬撃で、問題なく“アポピスの雑兵”三匹を始末。
「“幻影肩腕”――装備セット3」
幻の腕に持たせた“精気食らいの大妖刀”と“アマゾネスの大刀”を的確に振るわせながら、自身は弓を引くシレイアさん。
あんな器用な真似、どんな才能があっても人間に出来る芸当とは思えない……。
「雑兵だけじゃないみたいだね」
シレイアさんの前に、変異した船長と同じ姿の敵が。
「私がやろうか?」
「マスターは、アポピス戦まで力を温存しときな」
“アポピスの戦士”と、剣を打ち合わせるシレイアさん。
「“威風剣術”、プレステージブレイク。“古代剣術”、オールドブレイク」
致命打にはなっていない物の、確実に敵の戦闘力を削ぐ戦い方。
「“古代弓術”――オールドブレイズ」
至近距離から頭を打ち抜き、息の根を止めた。
「アポピスの奴等は再生能力が高いからね。一気に畳み掛けるのがコツだよ、マスター」
「ああ……うん」
アポピスと戦う時は、こうしろってこと?
●●●
「お掃除完了です!」
“マキシマム・ガンマレイレーザ”の“光線支配”で、あっという間に二番区のモンスターを殲滅してしまうリエリア。
「SSランクか……私も、一つ欲しくなって来たわね」
“マッスルハート”をコセに渡してしまったのが、今更ながら惜しくなってくる。
まあ、私が持っててもメグミのようには使いこなせなかっただろうけど。
「ミキコさんも、精錬剣を作れば良いのでは?」
「あのエセSSランクか」
とはいえ、私はまだ九文字しか刻めないし……コセの奴と繋がるっていうのは……。
「て、今はそんな話をしてる場合じゃなかったわね。ここは片付いたし、手が足りない三番区の方へ――」
空から大量の気配!!
「またアポピス系か」
鱗の生えた大量の黒コウモリが、一斉に降下し始めた。
○○○
「こっちです!」
ハルバードで敵を薙ぎ払いながら、“袖振り合うも”で感じる方へと進み続ける。
「ノーザン、この方向って!」
「ハユタタさんが居た場所ですね」
ナオさん達には心当たりが?
「エレジー、ネロ、この連結部の後方に窓があるから、そこからハユタタの居る場所に出られるわ」
「お二人は?」
「僕たちは、一番区のモンスターを片付けに行きます!」
「分かりました!」
ネロと共に、ナオさんが言っていた窓を見付け、そこから一番区の内部に侵入。
「……エレジー、さっきはありがとう」
「なにがですか?」
礼を言われるようなこと、ありましたっけ?
「まあ、分かんないなら別に良いし」
なんかいじけてる?
「ほら、行くよ」
ネロがドアを開けた瞬間――鋭い指が襲い掛かって来た!
「“霊化”」
身体を透かせてやり過ごすネロ!
「“影鰐・六重”」
『“閃光魔法”――フラッシュボール!!』
強烈な光に、ネロの影鰐が消される!?
「へー、対策してたんだ」
『黙れ!!』
蛇の下半身を、ハユタタさんの居る水槽に巻き付けている?
「そんなに他人の肉体が欲しいわけ? 浅ましいわね」
清々しいまでの悪辣ムーブをするネロ。
『お前に殺されたから、私達はッ!!』
荒ぶるままに攻撃してくる、ニシィーさんだった何か。
「暴風脚!!」
その顔面に蹴りを食らわせようとするも、防がれてしまった。
『クソぉぉッ!!』
“死者の書”を開いた?
『“水流弾”! “邪悪魔法”、ウィケッドランサー!!』
この狭い場所で手数による攻め!!
「“暴乱惨禍”!!」
「“鉄球魔法”、メタルクラッシュシェルター!」
『ハハハハハハッ!! このまま残り三十分持ち堪えれば、このゲームは私の勝ちよ!』
MPが尽きないのか、この攻撃の手が緩む気配が無い。
「……終わらせましょう、ニシィー」
“暴風は惨禍を撒き散らす”に、私の今の在り方が吸い込まれていくみたいに――自然に十二文字が刻まれ、“暴風惨禍は暴虐を刻みつける”へと至る。
「――“暴虐惨禍”」
一回り大きくなった黒緑のハルバードの槍部分から、黒い暴虐の竜巻を放つ!!
『ま、“魔力障壁”ッ!!』
防がれはしたものの、果たしていつまで持つか。
『あ、頭逝かれてんの!? この人魚も一緒に死ぬわよ!?』
「ああ、だからそこに張り付いてたんですか」
大事な肉体でありながら、私達の盾にするために。
「その水槽、壊そうとしても壊せなかったって聞きましたけれど?」
『クッ!?』
破壊出来る可能性も考えて、念のため神代文字を消してから仕掛けたんですけれどね。
『え、エレジー……ねー、私達、仲間でしょう? 同じ人を好きになった……』
「裏切り者呼ばわりしてくる相手が、仲間なんですか?」
『――このクソビッチ女がぁぁッッ!!!!』
「ギャーギャー煩いっての」
私に気をとられていたニシィーの喉に、ネロの紅の太刀が突き刺さった。