771.アポピス
『さあ、来なさい!! ――“アポピス”ッッ!!』
女モンスターの声が響いた瞬間、仄暗い空に浮かぶ黒い太陽より、黒い蛇? が頭をこちら側に現出させる!
「ヤバい余、SSランクモンスターだ」
ナノカが少し焦っている様子。
四十三ステージで戦ったアンラ・マンユと同格の存在と考えると、ナノカの反応は当然なのかも。
『《生贄が足りぬ。もっと生贄を》』
『面倒なルールだな、まったく!』
――船全体が大きく揺れる!?
「おい、“メルセゲル”!! なにをしている! 本当に船を沈めるつもりか!」
船長が慌てながら、ルートがどうとか言っていた半人半蛇の女性に怒鳴った?
『“皆既日食”の使用条件は満たした。これで、夜にしか活動しないカンディルワーム系が活発化。残り一時間で船は沈む』
「約束が違うぞ! 私の妻と娘を蘇らせる約束だろう!」
『ウッセーな、人形のくせに!! この“死者の書”はな、最初から、私が新しい肉体を手に入れるための物なんだよ!!』
新しい肉体?
「――まさか、ハユタタさんが捕まってる理由って!」
ツグミが慌てている?
『ちょっとガキっぽいけれど、あの子の身体を貰う事にしたのよ。同じ人魚のよしみでね!!』
「ニシィー!! そこまで堕ちましたか!!」
『うるさい! 黙れ、エレジー!!』
エレジーさんの知り合い?
『“死者の書”に縋りし者よ、その魂を差し出しなさい!!』
「が、ぁぁ……」
「な、なにが……」
船長と側近の身体が膨らみ、頭が蛇のモンスターになっていく!?
「“アポピスの戦士”と“アポピスの神官”か余」
目の前の二人以外にも、あちこちでモンスターに変貌している人達が居る……。
「アイツ、どこ行った!?」
ネロさんの声……メルセゲルが居な――また身体が動かなくなった!?
私だけじゃなく、モンスターやNPCの動きも止まっている!
○生贄が444人に達すると、“アポピス”が完全復活します。
○今から一時間以内に“メルセゲル”を倒し、“アポピス”を滅せよ。
○生贄数が少ない状態で“メルセゲル”を倒すと、その分だけ“アポピス”が弱体化します。
○生贄数47/444。
「嘘でしょ! 今から、この広い船の中を捜し回れってこと!?」
ナオさんの弱音。
「エレジーさん、“袖振り合うも”で追えませんか?」
「あ! ……彼女は一番区に居ます!」
この短時間で……転移したみたいですね。
チョイスプレートの画面端で、テンカウントが始まった!
「エレジーさんとナオさんの二ペアで、メルセゲルを追ってください! 残りは襲われているNPCを助けつつ各地に散り、生贄となる犠牲者を減らしましょう!」
アポピスは黒い太陽から出て来ていない。たぶん、“メルセゲル”を倒すまで戦えない仕組み。
もうすぐカウントダウンが終わる。
「この場は私とナノカで引き受けます! 皆さん、ご武運を!」
「「「了解!!」」」
カウントダウンがゼロを刻むと同時に、喧噪が戻ってくる!
『がぁ……生贄……生贄』
『生贄を……我等が神に……』
憐れな者達は、私とナノカが仕留めましょう。
●●●
レギオンメンバーが去っていく。
「さあて、手数を増やすか余! 小魔神召喚」
“小魔神召喚の指輪”で、魔神・祖霊鏡、魔神・銛人魚、魔神・火喰い鳥の小魔神に加え、竜殺し戦で手に入れていた“小魔神・竜人の指輪”より、竜人タイプの小魔神を呼び出す余!
「悪くない面子だ余」
祖霊鏡は半永久的にモンスターをランダム排出するし、他二体も飛行可能だから機動力がある。
「よろしく、新入り」
“小魔神・竜人の指輪”は、ランダム要素が無い分、青黒い石でできた竜人タイプを呼べるから、“小魔神召喚の指輪”よりも扱いやすい。
「“アポピスの雑兵”を討ち取ってこい余!」
四体が散っていく。
「さて」
ほとんどのNPCが変化した“アポピスの雑兵”は、Aランクモンスター。
ただし、目の前の“アポピスの戦士”と“アポピスの神官”はSランク。
コイツら二体は、雑魚とは言えない。
「戦士は引き受ける余」
「頼みます」
無数のレイピアを“超能力”で操っていたクマムの攻めが、神官に集中しだす。
『生贄だ――生贄になれぇッ!!』
「――魔神竜!!」
指輪から青黒い石のドラゴンを呼び出し、頭突きをかまさせる!!
『生贄だぁぁッ!!』
あの巨体差で、殴り勝ちするか余。
やっぱり、本来のスペックよりも強化されてね?
「“魔人武術”――サタニズムスラッシュ!!」
“魔神の大石刀”による、隙を突いた一撃――左腕一本だけか。
案の定、すぐ生えてくるし。
「アポピス系は、中途半端な攻撃じゃダメだ余ね」
奴等は、夜だと再生能力が跳ね上がる。
“皆既日食”のせいで今は強制的に夜扱いになっているから、実に厄介。
「“天賦覚醒”!!」
魔神・竜殺しから手に入れたスキルを“魔神の大石刀”に施し、性能を一時的に二倍に引き上げる。
“天賦覚醒”は、魔神系の武具と魔神系の召喚獣に対して使うスキルなんだ余!
『生贄ぇぇッ!!』
「“猪突猛進”!!」
“突撃猪の石盾”を掲げながらぶつかり、動きを止めに行く!
「“魔人武術”――サタニズムブレイカー!!」
正面から“猪突猛進”を弾かれた瞬間、上段よりエネルギーを放出する強大な一撃を見舞ってやった余!!
『――生にッ』
かろうじて息のあった“アポピスの戦士”に魔神竜のサタニズムドラゴンフレイムを食らわせて、完全に息の根を止めた余。
●●●
『“四重魔法”』
黒い蛇頭をした白衣の神官が、魔法陣を四つ展開した!?
「“熾天使化”!」
『“暗黒魔法”――ダークランス!!』
闇の単一属性なら!
「――“堕天化”」
“熾天使”の白い翼と纏うオーラを黒く染め、闇属性攻撃を完全に無力化。
「“気炎万丈”、“水妖竜穿”」
殺傷力を上げる能力を施した二本のレイピアを、蛇の神官に深々と突き刺す。
『ハイヒ――ッ!?』
回復しようとした瞬間に、真上から落下させたり“猛毒凝血のドレスソード”で口を閉じさせる。
「さようなら――“共振破壊”」
三本の細剣から発せられた内部破壊により、“アポピスの神官”は光に還った。
「手こずらされた――急いで残りも排除しないと」
○生贄数84/444。