769.繋がる点と点
「クマムさん!」
ナノカさんと一緒に、巨大なカエルの集団を相手にしている所を発見。手早く四人で片付ける。
「ありがとうございます!」
「貴女方は命の恩人だ!」
「ありがとう、お姉ちゃんたち!」
NPC達が礼を言っては、次々と去っていく。
「なぁんだ、あんなに居たのに何もくれないんだ」
また、ネロの不謹慎な発言。
「“ジャイアント・トード”の数が多くて、助かったよ」
「二人だけだったら、もっと犠牲者が出ていたでしょうね」
食べられたNPCもいたんですね……。
「あの、下半身が蛇の女モンスターを見ませんでした?」
「見てませんね。ナノカは?」
「見てない余」
「実は……」
私とネロが船首付近で体験した出来事を明かす。
「それで、なぜ私を?」
クマムさんがネロに尋ねる。
「ユニークスキル、“袖振り合うも”をクマムに貸して」
「なるほど」
すぐに実体化し、渡してくれるクマムさん。
「これでどうするの?」
「そのユニークスキルがあれば、自分が遭遇した対象を追えます。人間相手だと、所持した状態で合わないと意味がありませんけど」
このユニークスキルで、さっきのモンスターを追跡できると。
「使わせて貰います」
装備して追跡したい対象を念じると、方向が漠然と思い浮かぶ。
「向こうです!」
「私達も一緒に行きます!」
四人で、あのモンスターの居場所を目指す。
「……へ?」
ここ、あの船長が居る屋敷?
「エレジー、あのモンスターは?」
「この中のようです」
意を決し、四人で屋敷の門の先へ。
「何かご用でしょうか、容疑者の方々」
船長の側近とおぼしき男が、いきなり現れた?
「今回の件と関係あると思われるモンスターが、この屋敷に居るようなのです」
「そう言って、人質を奪還する気なのでしょう? ――厚かましい奴等だ!!」
兵士達が現れ、あっという間に百人程の人数に囲まれる。
「なんの騒ぎだ!」
太った船長が――ハユタタさんに着けられた首輪から伸びる鎖を、引っ張って現れた!?
「……何あれ?」
ネロの殺気が凄まじい。
「船長。この者達が、仲間を奪還するために侵入してきたのです!」
「なにぃ~!」
「違います!! 私達は、ここに逃げ込んだ女形のモンスターを追ってきただけです!」
「黙れ! そんなに仲間を殺されたいのか!!」
「うッ!!」
ハユタタさんの首に、鉈が添えられる。
「アイツ!!」
「こうなりますか」
ネロとクマムさんが、今にも斬り掛かりそうな雰囲気に……。
「良いですよ。ソレの首を刎ねても」
わざと挑発的に返す。
「なに?」
「貴様、正気か?」
私達を嵌めようとした二人が、揃って焦っている。
「エレジー?」
「エレジーさん?」
「だってその人質、私達が追ってきたモンスター本人ですもん」
「「…………」」
この反応、やっぱり船長とその側近は知っていたみたいですね。
「なにをしている! そいつらを捕まえろ!!」
――身体が動かなくなった!?
「クソ、強制イベントかよ!」
ネロの言葉を最後に、私達は声すら発せられなくなった。
●●●
「よっと」
重たい扉を、上に押し開ける!
「いったい、どこまで続いているのやら」
「……ナオさんとノーザンさん?」
声を掛けてきたのは、クマム?
「……アンタたち、なんで牢屋に入ってんの?」
エレジーペアとクマムちゃんペア、ユイペアまで捕まってるし!
「怪しいモンスターを追ってきたら、私達は抵抗もできずに捕まってしまったんです。ユイさん達は知りませんけど」
「……あの船長、なんかムカつくから“透明人間”で侵入した。そしたら、すぐに捕まっちった」
「アタシは連帯責任だよ。ペア相手から離れられないからね」
なにしてんだか。
「取り敢えず、急いで情報交換をしましょう」
お互いが集めた情報を出し合う。
「よかった。本物のハユタタさんは無事なんですね」
エレジーの心配げな顔、クマムちゃんに負けず劣らずの清楚だわ。
「それにしても、見付かったら強制的に捕まるとなると、これ以上進むのは危険かしら?」
ようやく手掛かりを掴んだと思ったのに。
「船長達が今回の事件の犯人側と考えると、身の潔白なんて証明しようがないんじゃ?」
ノーザンの言うとおりでしょうね。
「アタシ達は、明日の午前九時になったら大々的に処刑されるらしい。強制ゲームオーバーなのか知らんが、処刑時間前に屋敷に近付いたら、アンタ達も捕まっちまうかもしれないよ」
シレイアの指摘。
「救出するなら、処刑時間まで動かない方が良いってわけね」
ゲームの演出上のご都合主義、本当に面倒くさい。
「なら、私達は戻って、残りのメンバーにこの事を伝えた方が良さそうね」
処刑を知って、奪還しに来ないように。
「まったく、このクエストはなにが正解でなにが間違いなのか判りづらいわね!」
それにしても……数時間掛けて来た道を、そのまま戻らなきゃいけないのかぁぁ……。
●●●
「明日に処刑とは、随分と急な話だな」
NPC達が、夕方頃から至る所で処刑の話をし始めている。
「誰も来ませんね」
「約束した時間は、とっくに過ぎてるって言うのに」
二番区の野外レストランにて、リエリアと先にご飯を食べていた。
「――良かった。て、ツグミ達は居ないの?」
遅刻してきたナオが、何故かツグミペアだけ捜してる?
「ここに来るまでに処刑の張り紙は見たでしょ? その件で、ツグミとセリーヌは船長達に会いに行ったわ」
「あちゃー」
「遅かったみたいですね」
ナオ達が料理を注文しながら、私達にこれまでのいきさつを話し始めた。
「それじゃあ、今頃はツグミとセリーヌも牢の中か……」
私の言葉を肯定するように、目の前で新しい張り紙が追加されていく。
「……ゲームってあんまりやったことないんだけれど、ゲーム的な考え方としては、どう動けば良いと思う?」
「……処刑の演出が大々的だし、処刑に乱入するのが一つの正解に思えるけれど……底意地の悪いゲームだってあるから、なんとも言えないわ」
「まあ、そうよね」
仕掛けてきたのは、あの観測者だし。
「でも、誰かが屋敷に近付かなければ処刑にはならなかったんですよね?」
リエリアの発言。
「本来とは違う流れってこと?」
「もしかしたら、本来捕まっていたのは、私とノーザンだったのかも」
この二人のルートが、一番ストーリー的にまともっぽいか。本物のハユタタを見付けてるし。
「つまり、誰かがなんらかの理由で屋敷を訪れ、処刑イベントが発生するという流れは、ゲーム的に正しいってことね」
楽観はできないけれど、私達はこのクエストの攻略を確実に進めているということ。
「じゃあ、僕達がもし全員捕まってたら?」
ノーザンの言葉に、沈黙が訪れる。
「その時点でゲームオーバーだったか、何かしらのイベントで助かるとか?」
「どっちにしろ、判断するには情報が足りないわね。私とリエリアは、深夜まで三番区を見回る予定よ。夜にしか起きないイベントもあると思って」
「私はクタクタで休みたいけど……クマムちゃんが捕まってるのに、休んでられないよね!」
ナオの奴、他にも捕まってる面子が居るのに……。
「僕達は一番区を見回りましょう。二番区に誰も回せないのは残念ですが」
その後、私達は別れ、各々の夜を過ごし、明日の処刑に臨む。




