767.進まない情報収集
「“剛力竜衝”!!」
湾港に出現したギルマンの集団を撃退する。
第三ステージで見た怪魚のモンスターなども、遠目に確認できるな。
「来たみたいですよ」
トゥスカが、巨大船の到来を知らせてくれる。
ブラウンの巨大な隣接船が寄港すると、船の側面の一部が階段に変化する。
「一時間後に出発だ! 乗りたいやつは、さっさと金を払いな!」
○“渡河船”の登場料、一人30000Gです。パーティーメンバー分を払いますか?
さっさと五人分払い、船へと乗り込む。
「本当に、この船そのものが一つの町なんだな」
たくさんの家々に、生け簀のような物、巨大な帆が付いたマストが至る所に。
クマムたちも、同型の船に乗り込んでいるらしいけれど。
「ここでしか買えない物とかもあるけれど、たまに起こる事件を解決すると、なんらかのアイテムとか金銭を貰えるよ」
メルシュ……そういう説明をされると、下心で行動している気分になるんだけれど?
「あまり事件を解決しないと、船が沈没させられてゲームオーバーなんて事にもなるので、騒ぎが起きたら積極的に介入したほうが良いですよ」
後から乗り込んで来たノゾミさんのアドバイス。
「その騒ぎに対応するためにも、パーティーごとにバラバラの番区にいた方が良い。私のパーティーは、一番モンスター被害が多い一番区に行くよ」
ここは三番区だから、ジュリー達は反対側か。
「俺は、リューナ達と一緒に真ん中の二番区だったな」
クエストに巻き込まれた皆は、今頃どうしてるだろう?
●●●
「なかなか進まねぇんだけど……」
高台のような一画にて、セリーヌさんが愚痴る。
三番区で聞き込みを続けるも、成果が上がらない。
「関係ない事件ばっかで、解決してたらあっという間に昼過ぎに……」
確かに、まったく手掛かり無し。
「ツグミ、お前の霊感でどうにかならんの?」
「そんな便利な物じゃないですよ。この世界は、そういう類の存在をあまり感じませんし」
「そういうもん?」
「そういうもんです……あ、でも今朝……」
「なんか気付いた?」
「……いえ」
町にいるNPCみたいに、何も感じなかった人が一人、今朝のあの場所に居た気が……気のせいですかね?
「大物が出たぞぉ!!」
NPCの叫び声。
「あ、“エレクトリックメガイール”ですね――“魔力砲”、“連射”」
現れた個体が雷を放つよりも早く、上半身? を吹っ飛ばして始末し終える。
「あ、ありがとうございます! こちら、私からのお礼です」
細いおじいさんがいきなり現れて、何かを差し出して消えていった?
「貰ったのは“思念の短剣”か……あれ、なんだこれ?」
セリーヌさんが、チョイスプレートを見ながら疑問の声を上げる。
「たびたび、“魔石の撒き餌”ってのを手に入れてんな」
「本当ですね。タイミング的に、モンスターを倒した後のようです」
なんでクエストが始まってから、モンスターを倒すとコレが手に入っているんでしょう?
●●●
「“四連突き”」
破られた船底から侵入したという、“ブラックギルマン”を始末。
「あ、ありがとうございます! 助かりました!」
兵士らしきNPCにお礼を言われる。
「いえ、お気になさらず」
ナノカと共に、二番区の船底へと下りていく。
「また、“魔石の撒き餌”が手に入った余」
「昨日まではモンスターを倒しても手に入らなかったはずのアイテム。効果は、モンスターを引き寄せるでしたね」
「夜明けぐらいからモンスターの襲来頻度が増してるってNPCが騒いでたし、このクエスト関連のアイテムで間違いないと思う余」
メルシュさんがいれば簡単にクリアできそうな謎解きクエストですから、コセさんのパーティーが最初にボス戦に挑まないのを、このステージの観測者は知っていたのでしょうね。
水の音が近くなってくる。
『グルルルル』
「“リバーリザードマン”……その後ろ、“アマゾンリザードマン”が“保護色”で隠れてる余」
「さっさと依頼を終わらせましょう」
船底修理のため、侵入したモンスターを掃討して欲しいという依頼を。
●●●
「……ナオさん」
「後ろはお願い」
付けられている気がして裏路地に入ったら、案の定ね。
この“渡河船”のNPCと見た目がほとんど変わらない連中に、挟み撃ちにされた。
「お前らには死んで貰う」
「理由は?」
「殺せって命令されたからだよ!!」
相手が生きている人間なら、何人かは生け捕りにして情報を引き出す所だけれど。
「氷炎連拳!!」
容赦なく、全員ぶっ殺していく。
「なぁんだ、雑魚じゃない」
「ナオさん、一人逃げだしました!」
ノーザンが残りをぶった切り、逃げたって奴を追い掛けだした!?
慌ててノーザンを追い掛けると、より入り組んだ場所へと進むことに。
「ここ、昨日も来たわよね?」
「はい。でも、こんな道は無かったはずです」
完全に見失ってしまったみたいだし、この先に進んでみるしかないか。
「ハァー……行きますか」
嫌な予感しかしないけど。
●●●
「ハイパワースラッシュ!!」
二番区の船首付近にて、現れた“ビッグペリカン”を両断する。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
モンスターに襲われ掛けた男の子のNPCに寄り添い、泣きながら感謝する母親。
「いいえ。これくらい、へっちゃらですから」
「本当に、ありがとうございました」
親子が去っていく。
「今回は何も貰えなかったね、エレジー」
傍観していたネロさんの、陽気な雰囲気から出た嫌味。
「見返りを求めての行動ではありません」
「相手はNPC。このゲームみたいな世界で、何もくれない相手を助けるとかおかしいよ」
「……なんでそんなこと言うんですか!」
「怒ってるとこ悪いけれどさ、結局、あれから何も情報を掴めてないんだよ? 誰かさんが騒ぎに首突っ込みすぎて、なんて言い切れはしないけれどさ」
助けている暇があるなら調査を優先しろ、と。
「相手が生きていないからですか?」
「……私なら、本物の子供でも助けなかったかもね~」
「――本気で言ってます?」
言葉に殺意が乗る。
「……ダメね。ツグミから離れると、前の私に戻ってっちゃう」
この人は、本当は何を……。
「――ネロ!!」
上から、何かが落下してくる気配!!
「“瞬足”!」
ネロが躱すと同時に姿を現したのは、下半身が蛇の……巨軀の女?
『――死ね、クズ共!!』
このモンスター、喋った!?