表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
822/956

765.黄河の湾港

 ボス戦を終え、転移を終える私達。


「あれ、また砂漠なんだ」


 ナオさんの指摘。


「でも、こっちの方がムシムシします」

「まあ、あれだけデカい河がありますからね」


 私の言葉に答えたノーザンさんの視線は、いつもの祭壇の麓にある湾状の町に隣接する、大河に向けられていた。


「あれって河なんですね」


 この高さから見てるから細長く見えるけれど、麓の町と比べると、川幅は町の三倍以上ありそう。


「わあ、大っきな船ですよ、エレジーさん!」


 リエリアさんの声が向けられた先に、上流の方から流れてくる巨大な……土色の船?


「船の形をした町に見えますね」


 ツグミさんがそう口にした瞬間――私達は光に包まれていた。



●●●



「クマムとツグミのパーティーが居ない?」


 俺とルイーサのパーティーが転移してきて間もなく、先に来ていたジュリー達に告げられる。


「先に下りたのか?」

「ううん、違うみたい」


 メルシュ、“英知の引き出し”で何か気付いたのか? ――だとしたら!


「クマム達、突発クエストに巻き込まれたみたいなんだよね」


 いつぞやのように、最初に来たパーティーが巻き込まれたか!


「今回から“ツインリーダー”を徹底したのは、幸いでしたね」


 トゥスカの言葉。


「それで、アタシらはクエストが終わるまで待つことしかできないのかい?」


 シューラが尋ねる。


「それには、この港と五十二ステージの仕組みを説明する必要があるね」


「仕組み?」


「五十二ステージのダンジョン攻略は、毎日流れて来る“渡河船”に乗り込んで、丸二日の間、河を下っていくって物なんだ」


 ジュリーからの説明。


「クマムたちは、クエストで無理矢理、今日の“渡河船”に乗せられてしまったみたい」


「――つまり、強制的に五十二ステージの攻略をやらせられていると?」

「うん。だから、クエストが無事に終わっても、彼女達と合流はできない」


 上手く切り離されたってわけか!


「後続が合流しだい、急いで後を追おう!」


「コセさん!」


 遅れて転移してきたイチカの叫び!?


「メグミさんが、魔神を倒した後に倒れてしまって!!」


 ク! このタイミングで!!


「落ち着いて、マスター。“渡河船”は一日一度しか寄港しないから、どっちにしろ明日まで待たないと追う手段が無い」

「……飛んでったり、クルーザーで追うのは無理なのか?」

「うん、無理だよ」


 メルシュがそう言うなら本当に無理なんだろうけど……ゲーム特有のご都合主義が、こんなにも厄介な物になるなんて!


「動ける者で、この町のイベントを今日中にこなしてしまおう。ただ、“渡河船”に乗り込んでいる間は魔法の家には戻れない」

「体調を整えて、明日の“渡河船”とやらに乗り込むしかないな」


 ジュリーとルイーサの冷静な結論。


「……判った。メルシュ、案内を頼む。ジュリー達は、後続のパーティーに一通り説明してくれ。サトミのパーティーはメグミを“神秘の館”で休ませてやってほしい」


 クエストに囚われた十三人と合流できるのは、早くて三日後か。


 今度こそ、全員無事でいろよ。



○○○



「ここって……地面が揺れてる?」


 リエリアが指差していた、大きな船の上?



『突発クエスト・波乱の渡河の旅へ。へようこそ! プレーヤー諸君!』



 虚空に響く男の人の声。


『このクエストは、本来の五十二ステージの攻略をより難しくした物に過ぎず、クエストをクリアすれば一気にボス戦前の安全エリアに辿り着ける!』


 なんの準備もできないまま、休む間もなく強制攻略というわけですか……これが観測者のやり方。


『これから丸二日に渡り、様々な事件が“渡河船”の上で巻き起こる。本来なら目的地までモンスターの来襲などをやり過ごせば良いだけだが、このクエストでは一つの事件を追って貰う』


「事件て、私達に名探偵にでもなれってか?」


 私の横でそんな言葉を発したのは――ピエロのネロ!?


『目的地までに事件を解決できなければゲームオーバー。参加者十三人、全員に死んで貰う』


「十三人という事は、参加者は《龍意のケンシ》のメンバーだけか」


 ネロ、楽しそうでなんか腹立つ。


『それでは突発クエスト、“波乱の渡河の旅へ”を開始する!』


 気配が虚空から消える。


「……周囲にはNPC以外、誰も居ませんね」

「事件がなんの事か分からないし、取り敢えず合流がてら、この船上の町の散策と行こうか~」

「……一緒に行く気なんですか?」

「この状況でバラバラに動くん?」


 それはそうだけれど……どういう神経をしているのか、この女!


「……いえ、一緒に行きましょう」


 まずは、NPCからの情報収集ですかね。



●●●



「この河には夜行性のおっかないワームが居るから、絶対に夜に河に飛び込んだりするなよ? あっという間にへそや肛門から食い破られて、全身を数十匹の“カンディルワーム”に食い殺されるからな」


 NPCの漁師からの情報。


「取り敢えず、夜は水に近付かない方が良さそうですね」

「クマム! この魚の香草焼き、美味いぞ!」


 ナノカが、“渡河船”の屋台で散財している。


「これだけ探しても、誰とも合流できないなんて」

「“渡河船”は一船一船が広いからな。動き回って入れ違いになってる可能性もある余」


 動き回って探すべきか、留まって見付けて貰うべきか。


「“渡河船”は、【海上連結船】に似て、三つの船が横並びになっているのですね」


 真ん中の巨大船の左右に、高さは同等の一回り小さい船が隣接しながら、河を流れているのがこの渡河船。


 でも、船の大きさは【海上連結船】を遥かに上回る。


「――強盗だー!!」


 少し離れた位置から叫び声!?


「どけぇぇ!!」


 刃物を持った男が、アクセサリー片手に突っ込んで来た?


「私がやる余! ――魔人脚!!」


 魚の香草串焼きを食べながら、一蹴りで強盗をのすナノカ。


「おお、あんがとさん! あんたら、旅の人かい? コイツは礼だ」



○“オールランクアップジュエル”を手に入れました。



「それでは、良い旅を!」


 強盗を担いで去っていく男の人。


「今のが例の事件……なわけないですよね?」

「さすがに簡単過ぎだからねぇ。それより、そろそろ暗くなるよ」

「魔法の家には戻れないし……宿を探しますか」


 このクエストで解決しなければならない事件て、いったい……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ