762.霜の巨人と残虐巨人
「……濃いなー」
“環境”ルートを進んで間もなく、視界が濃霧に包まれ、近くに居る仲間の姿すら見失いそうになるレベルに。
「……霧の奥に居やがるな。つか、なんか寒いな」
ザッカルも、巨大で鈍重な何かの存在を感じ取っている。
「霧が邪魔ね」
「私がやる――“精霊魔法”、シルフ!」
フェルナンダが呼び出した風の精霊が突風を起こし、周囲の霧を吹き飛ばして……が、霧の密度と範囲が凄まじく、さほど遠くまでは見通せない。
「木々のある山脈……ああ、なるほど。私達の相手は“ユミール”か」
「どういう能力だ?」
断定したフェルナンダに尋ねる。
「アルーシャ」
「はい。霜による地面からの広範囲攻撃に、どんな攻撃も一度だけ塞ぐ“霜の鎧”を使います」
なんで丸投げした、フェルナンダ?
「霧に紛れて襲ってくるから、実際の強さ以上に厄介なのが“環境”の特徴だ。気を付けろよ」
「お前、自分は戦う気ないのか?」
「私はよく言えば魔法万能型。悪く言えば器用貧乏だ。巨人はデカいだけでも厄介なのに、耐久力が高いからな。なにより、各々がこの霧に対処できないと、ばらけるのも危険だ」
――霧の中から、外獣の気配!
「フェルナンダは視界の確保。アルーシャは周囲のモンスターから私達を守ってく――」
地面から霜の波が迫ってくる!!
「――“極光支配”!!」
“オーロラ・オーラ・カーテン”の力で生みだした光の壁で、霜の波槍を防ぎ溶かす!
『――ァァアアアアアア!!』
霧の奥から現れたのは、十五メートルはありそうな氷の巨人。
「……この距離でも届くのか」
飛行できないと戦いにもならないうえ、霧の対処までしなければならないとは!
「“神代の剣槍”、“跳躍”――“逢魔銛術”、オミナスハープン!!」
ザッカルが跳び上がり、遠距離攻撃を仕掛けた!
「チ! アレが、“霜の鎧”ってやつか」
氷壁を一瞬で全身に纏い、ザッカルの攻撃を完全に防いだように見えた。十二文字を刻んだ一撃を。
「つうか、思ったよりデカいな」
「ユミールの全長は二十メートルですから」
アルーシャの暴露。
「二十メートルはデカすぎでしょう」
「まあ、でも――これで、出し惜しみしている場合じゃないってハッキリしたかな」
双子が、フェルナンダを見ている?
「装備セット4。おら、持ってけ」
フェルナンダがアヤナとアオイに渡したのは、偽“レギオン・カウンターフィット”!
「そういう事か」
「ルイーサとザッカルは、力を温存しておきなさい」
「やるよ、姉ちゃん!」
出るか、コセと双子の精錬剣!
「「重ね羽ばたけ――“開闢光線の水銀鳳凰導”!!」」」
「アレ?」
コセとのじゃないの!?
「一気に決めるわよ、アオイ!」
「オッケー!」
二人とも、剣に十二文字刻んだ!
「「“神代の剣”」」
「俺の後にやれ! “万悪穿ち”!!」
ザッカルの放った剣槍が分裂し、“霜の鎧”を使わせて尚かつダメージまで与える!
「「――“水銀光線剣術”、メリクリウス――アトミックスラーッシュッ!!!!」」
真っ正面から、数十メートルは離れているであろう“ユミール”の、肩から膝まで一刀両断にしてみせた!
「「とどめ――“随伴の水銀光線”!!」
光と水銀に巨人が食い潰されていく様は、どこか美しくもあった。
「「ハアハア、ハアハア」」
「ハハ……やったな、二人とも」
消耗して座り込む二人に声を掛ける。
「「おうよ!」」
二人揃ってのピースサイン……この二人、今までこんなに息ピッタリだったっけ?
○○○
「“強さ”を選んだはずなのに、いきなり巨大な洞窟に変わった時は、“環境”と間違えたのかと思ったけれど」
目の前には、全長十メートルは優に超える……籠手を身に付けたゴブリン?
「“グレンデル”。見た目よりも遥かに硬い上に、巨人にしては動きが俊敏。特殊な能力がない分、シンプルに強いです」
ナターシャが情報をくれる。
「更に、通常よりも強化されてるんだったな」
“偉大なる鬼神の腥風剣”を右手で逆手に持ち、神代文字を限界まで――十二文字刻む!
「――“大地讃頌”!!」
神代の力で強化し、足元からの攻撃で動きを鈍らせる。
「食らえ!!」
鬼神の大刀を振り抜き、“鬼神・斬魔”を放つ!!
『――グギャーッッ!!!?』
籠手で受けられたとはいえ、“鬼神・斬魔”で切り刻まれても……腕が繋がってるとはな。
「写し照らせ――“荒野の秘境に硝子は黄昏れて”」
「……へ?」
トゥスカが精錬剣を? でも、今の言葉とか名前、俺、知らないんだけれど?
「“随伴の黄昏硝子”」
夕焼け色の硝子が巨大な杭となり、何本も放たれてグレンデルの身体に突き刺さっていく。
「本当に頑丈なのですね。貫通させるつもりで放ったのに」
神代文字によるブースト無しとはいえ、あの速度と質量で貫けないのは確かに凄い。
「“ミケカムイ”、“神代の剣”」
速度重視のカムイを纏って、トゥスカが仕掛けた!
「“爆走”跳躍”」
ルイーサお得意のノータイム連続発動をトゥスカなりに使い、グレンデルの蹴りつけを回避しつつ――顔の正面を取った!?
「“黄昏硝子剣術”――トワイライトグラススラッシュ!!」
“グレンデル”が真っ二つにされ……光に換わっていく。
「あの……トゥスカ、その剣て……精錬剣だよな?」
「はい、そうですよ?」
「作ったのか……俺以外の奴と、精錬剣を……」
「ええ。実はこの数日、マリナに協力して貰ってまして」
「マリナ? ……ああ、なるほど」
硝子要素はマリナだったのか。
「コセが居るからアタシらはSSランクを幾らでも増やせるとはいえ、やっぱり一つは“ディグレイド・リップオフ”があった方が良さそうだね~」
なんだ? シューラのトゥスカに対するあの視線?
「トゥスカ様が、“ディグレイド・リップオフ”を一つ所有しておきたいと」
「……ああ」
ナターシャの言葉で、シューラが言っていた意味にようやく思い至る。
「実は、コレは私がこの前、“幼児化”したときに手に入れた物で……」
「良いよ。それはトゥスカが持っていても」
この前の大規模突発クエストの時、俺は共鳴精錬と“メタモルコピーウェポン”があるのを良いことに、“ディグレイド・リップオフ”は全部、他パーティーに優先させたからな。
「よろしいのですか?」
「この前、それでピンチに陥っちゃった部分もあるし」
クエスト中、ろくに休めない状況で、同時の共鳴精錬を二日に渡って戦闘に使用した……アレは、我ながら無理をしすぎだった。
「俺達のパーティーが手に入れた分は、次はシューラに渡すか」
他のパーティーを優先して、自分のパーティーの戦力を整えないなんておかしいもんな。
「それよりもマスター。この前のクエストから――十二文字までしか刻めなくなってるよね?」
――メルシュに痛いところを突かれた。
「……まあな」
“超同調”の弊害と模造神代文字の影響で、俺はどんどん……刻める最高文字数が減っていっている。
「だから、あの堕剣は使わせたくなかったのに」
「メルシュ様、そこら辺で」
「あの状況を乗り切るには、仕方なかったと思うよ?」
ナターシャとシューラが庇ってくれるけれど……。
「本当に反省してる……けれど――いざという時は、頼む」
メルシュに、真摯に訴えかける。
「ぅ! ……私が、どうしてもって判断したときだけだからね」
「惚れた弱みってやつかね。宝箱から回収してくるよ」
巨人を倒した後に出て来た黄金の宝箱に、取りに行ってくれるシューラ。
「ち、違うし……」
「メルシュ様は時々、子供っぽいですね」
「確かに!」
「ちょ、ナターシャにトゥスカまで!」
微笑ましい雰囲気に包まれる。
「……さあて、どうしたもんかなー」
久しぶりに、どうにかなる気がしない壁にぶち当たってしまった気がするよ……。
○“グレンデルの残虐籠手”を手に入れました。
○“免許皆伝”×3を手に入れました。




