761.炎の巨人
「なぁんか、見覚えがあるやつが出て来たな」
「ですね」
私の感想に同意を示してくれるタマ。
「“ガルガンチュア・フラム”。ガルガンチュア系の上位種ですね」
ヨシノが情報をくれる。
【始まりの村】でコセとトゥスカが戦った個体よりも大きく、オレンジ味を帯びた色合い。
「火に特化したタイプですので、私とマスターでは有効打を与えづらいです」
「私がやります」
スゥーシャが前に出る。
「なら、コイツを使ってみないか?」
レリーフェがスゥーシャに差し出したのは、私が預けておいた“ディグレイド・リップオフ”。
「……そういえば、実戦ではまだ使ったことなかったですね」
あのスゥーシャが、ここまで戦いに積極的になるなんてね。
『ゴァァァ!!』
――燃える岩石が空中に、無数に出現! 全てが落下してくる!
「溢れ呑み込め――“雄偉なる天上の越流聖河”!!」
白い水の奔流が、炎を消すどころか、その勢いで岩を全て粉々に。
「――こうすればどうですか?」
“随伴の聖水”で生まれた白い濁流が“ガルガンチュア・フラム”の全身を覆っていき、一気に収縮――大爆発を起こした!?
「へ? 何が起きたの?」
「水蒸気爆発でしょう。全身を一気に覆う事で、爆発の勢いを、極力ガルガンチュアに食らわせたのかと」
ヨシノの解説を証明するように、蒸気の中からズタボロのガルガンチュア・フラムが出て来る。
「拘束して」
聖水の奔流四つが、ガルガンチュアの手脚に巻き付く。
「“神代の銛”」
剣に銛状の青白い光が生成され、巨大化!?
「“聖水銛術”――セイントハープン!!」
聖なる剣を投げ飛ばすために、強力な“聖水大地剣術”じゃなくて銛術の方をね。
スゥーシャのユニークスキル、“徹頭徹尾”の能力で、あの剣は接触したが最後、貫き抜けるまで止まる事は無い。
「最近のスゥーシャ……凄すぎない?」
あの“ガルガンチュア”の上位種を、あっという間に仕留めちゃった。
しかも、精錬剣には十五文字刻まれてたし。
「やったな、スゥーシャ!」
「凄かったです、スゥーシャ!」
「あ、ありがとうございます」
レリーフェとタマ達のあの絡み方、ザ・女の子って感じだな。
私って、昔からああいう女の子同士の絡みって苦手なのよね。
カナと目が合う……お互い、よく分からない笑みがこぼれた。
○“ガルガンチュア・フラムのスキルカード”を手に入れました。
●●●
“環境”を選んで進んだ私達の景色はぁ、一変、ドロドロの溶岩流れる黒い活火山へとぉ、変貌しまぁした!
「これが環境の洗礼ってやつかしら?」
サトミの吞気な声ぇ……いえ、いつもに比べて余裕が無さそうぅ?
「暑いな。熱くて、息をするのも少し辛いくらいだ」
あのメグミですら弱音。
「私が冷やしましょうか、サトミ様?」
「巨人相手に余裕があったらね」
相変わらずのリンピョンでぇす。
「皆さん、この“環境”で出て来る巨人はおそえく――」
ウララが何か言いかけた瞬間、地鳴りと共に黒い地面にい、亀裂――そこから、炎と溶岩纏いし巨人が姿を現す!?
「巨人モンスターの中でもSランク最強格のモンスター、“スルト”です!」
巨人、スルトの手から炎の渦が吹き上がり――槍のように収束していく!?
「散れ、お前ら!!」
バルバザードの叫びに弾かれるように、全員がバラバラな方向へ!
直後、炎の槍が地を穿ち、爆ぜさせ、そこから溶岩が噴き上がる!!
これが“環境”ルート。巨人だけでなく、地理そのものが私達に牙をむくという事でぇすね。
「――へ?」
流れる溶岩が泡立ち――そこから人間サイズのスルトが出て来た!?
“ライブラリ・グラシズ”を装備し、情報を得まぁす。
「“スルトの眷族”?」
次々と生まれる眷族達が、陸の獣のように駆けてくる!?
「来るなでぇす!!」
銃形態の“甘い蕾の中の逢瀬”と“熱い蕾の中の逢瀬”を構え、“魔力弾丸”で迎撃!
「数が……」
数発で簡単に倒せるけれど、溶岩からどんどん――黒くなった溶岩からは、“スルトの眷族”の排出が止まった!
つまり、敵は無限じゃな――遠くの山が噴火して、岩や煙が飛んでくる!!
「オールセット3!!」
鎧の肩部分に“自由の女神の両肩腕”を装着し、その左腕に“薔薇騎士の盾”、右腕に“薔薇騎士の剣”を持たせた!
「ク!!」
飛んでくる岩を避けながら撃ち壊し、眷族達の猛攻は剣と盾で持ち堪える!
強敵の“スルト”は、ウララ達が対処してくれている……なんとか持ち堪えて――そんな程度で、この先の戦いに私なんかが付いていけるか!!
この前のクエストみたいに、誰かのおんぶに抱っこだなんて我慢できない!!
「ここで超えてやる――私の限界をぉ!!」
銃剣に神代文字を刻む! ……十二文字には届かない。
「クソ!!」
眷族共を撃ち殺していく!
やっぱり、私のこの身体じゃ、血じゃ……コセ達のようにはいかないの?
DSに連なる白人の家系。
オルフェ姉さんのように、私に日本人の血が流れているのかも定かじゃないし……クソッタレがッ!!
暑さで、どんどん思考がわけ分かんない方向に。
――ああ、コセとセックスしたい!!
こんなバカみたいな理屈に雁字搦めになるくらいなら――全部吹っ飛ばして、大好きな人とスッキリしたいッ!!
――両手の銃に、いつの間にか十二文字が刻まれていて――“甘い蕾の中の逢瀬”は“甘美な大輪の中で果てて”へ、“熱い蕾の中の逢瀬”は“情熱の大輪の中に迸らせて”へと進化する!!
「“可変”――“神代の大刀”」
迫る“スルトの眷族”を、両手の銃剣で全て切り裂く。
「“可変”」
銃形態に戻し、眷族を排出していない流れる無数の溶岩を銃撃! 雑魚の増殖を食い止める。
「まぁだ、戦ってたんですかぁ」
二丁の大輪を、炎纏う黒き巨人に向かって構え、吹き上がる感情任せに――十五文字刻む。
「――“神代の発射口”」
大輪の周囲に、青白い大筒を展開。
○○○
スルトの一撃に、全員がばらけた!
「取り敢えず、こっちに注意を向けさせないと」
パワーアップした私が、終焉の巨人を引き付ける!
「“六重詠唱”、“六重魔法”――“雷雲魔法”、サンダークラウズスプランター!!」
大火力をぶつけるも、少しよろけただけ。
「急がないと」
オリジナルだったら、スルトのタフさに長時間プレイが求められる場面だけれど……生身の私達じゃ、この地獄の環境にいつまでも耐えられない。
『――ゴガァァ!!』
溶岩の拳が迫る!
「“神の朗読”――“白紙支配”」
SSランク、“フリースペース・ブック”を周囲に大量顕現! “締結の聖典”の写本と為す!
「“不可侵条約”!!」
大量の写本から発動した絶対防御能力で、拳を完璧に受け止めた!
「“六重詠唱”、“吹雪魔法”――ブリザードハリケーン!!」
Sランクの“魔法全書”により、今の私はユニーク以外の、自分が見たことがある魔法なら全て使用可能!
「“六重魔法”――“霙竜魔法”、スリートドラゴバイパー!!」
後退させつつ、十二文字分の力を込めた氷と水の龍に追撃させる!
「“嘆きの牢獄”!!」
この声、リンピョンちゃん――私のすぐ傍まで迫っていた“スルトの眷族”が、氷漬けに!
「私とリンピョンちゃんで守るから、ウララちゃんはあの巨人をお願い!」
サトミさん達が合流してくれた!
「他の皆さんは?」
「クリスちゃんは遠くて……カプアとバルバは、メグミちゃんを庇ってるようだった! だから、ウララちゃんに引き付けて欲しいの!」
メグミさん、もしかして例の苦しみがこのタイミングで?
大規模クエストの時はなんともなかったのに……。
「分かりました!」
オリジナルより高い火力を出せるとはいえ、実質、私一人でスルトを倒さなければならないなんて!
持てる手札の中から、有効な手段を総動員して攻撃し続ける!
『――ゴガァァァァッッ!!』
両手に、炎の渦を発生させ始めた!?
「“竜光砲”――“連射”ぁッッ!!」
メグミさんの苦しそうな声の直後、飛び交う光芒がスルトの上半身と両腕を吹き飛ばしていく!!
おかげで、スルトの危険攻撃が止んだ!
「――まずい!」
スルトの注意がカプア達に!!
「――“神代の発射口”」
強くも無感情とも取れる声が、よく通って聞こえてきた。
「“二重武術”――“薔薇砲術”、ローズブラスター!!」
背中から胸部分を撃ち抜かれたスルトが、一瞬遅れて破裂……光へと変わり出す。
「……凄い」
○“レーヴァテインの腕輪”を手に入れました。