759.未分類武器の活用法
「本当に来た!」
私達が半砂漠の道へと走り出した直後、可愛らしいお目々が付いた“恵みのコーン”の集団が、砂煙を上げながら追いかけてくる!
各々、マシーンの同乗者が薬液武器で“除草液”を撒き散らしているけれど、減る気配が無いどころか、むしろ増えている気が……あ、一際大きいコーンさんの額にAの文字が。
「チトセさん! メルシュさんから合図です!」
エレジーさんが伝えてくれる。
私はヘラーシャと共に、リエリアさんの飛行車に同乗。集団の最後尾に付いていた。
「では、始めます! ――“工房展開”!!」
アオイちゃんから譲り受けたSSランク、“アトリエ・コンポジション”が飛行車を囲むように出現。飛行車の移動に合わせてこの工房も一緒に付いてくる。
この現象は、昨日の時点で確認済み。
「行きますよ――“調合支配”!!」
素材無しで、“除草液”と“ダイナマイト”を自動無限生成! 出来上がった傍から砂漠へと投下し、“恵みのコーン”さん達を枯らしながら木っ端微塵にしていく!
ダメ押しとばかりに、ヘラーシャが“薬液ガトリング”で、なかなか倒れないAとBの“恵みのコーン”さんを銃撃。
コーンさん達の大襲撃が止む安全エリアに到着するまでに倒した数は、五万を超えていたそうです。
●●●
「あれだけの数を倒しても、“ディグレイド・リップオフ”が一つ……」
ご主人様が、またショックを受けている。
「農村から本格的に離れると、Eランクの割合が減るからね。代わりに、BやAのコーンが出没するんだから、本当はこっちの方が喜ばしいんだけれどね」
メルシュの、慰めているのかなんなのか良く判らない説明。
農村に付いてから手に入った“ディグレイド・リップオフ”は五つ。
“マスターアジャスト”をレリーフェ以外の全員に配ろうと考えると、まだまだ“ディグレイド・リップオフ”の数は足りない。
壊れた際の予備だって欲しい所ですし。
「オーイ、肉が焼けますよー!」
ザッカルの使用人NPC、アルーシャに呼ばれる。
なんちゃって砂漠を超えた私達は、モモカの「キャンプしてみたい!」の一言で、安全エリアである森と砂漠の境目にて、夜を明かすことに。
モモカは、バニラやヨシノと一緒に、大きな焚き火の周りをウロウロしながら遊んでいる。
「……そういえば、“ディグレイド・リップオフ”に“メタモルコピーウェポン”を使用したらどうなるのです?」
“ディグレイド・リップオフ”は、一度姿をコピーしてしまうと戻せない。
であれば、“レギオン・カウンターフィット”をコピーした“ディグレイド・リップオフ”を“メタモルコピーウェポン”でコピーすれば、“ディグレイド・リップオフ”の節約になる気がする。
「……確かに。“メタモルコピーウェポン”は幾つか余ってたよな?」
ご主人様がメルシュに確認。
「……未コピーの“ディグレイド・リップオフ”は、武器欄に装備できないから“メタモルコピーウェポン”の対象にできないけれど……一度“レギオン・カウンターフィット”にして、その状態で“メタモルコピーウェポン”。からの“マスターアジャスト”……いや、“マスターアジャスト”は武器に融合させないと武器欄に装備できないからダメか」
どうやら、そう簡単にはいかないみたいですね。
「“名も無き英霊の劍”を“ディグレイド・リップオフ”でコピーした場合は?」
ご主人様からの問い。
「そこから“メタモルコピーウェポン”による増加は可能だけれど、“レギオン・カウンターフィット”をコピーした場合と違って、個人で精錬剣は作れないだろうね」
逆に、“レギオン・カウンターフィット”のコピーを“名も無き英霊の劍”にしてからなら、“ディグレイド・リップオフ”でも共鳴精錬は可能。
「共鳴精錬が使えるのは俺と、アヤナとアオイの組み合わせだけ……精錬剣を使える面子が三人以上で、全員が剣メインで戦える上、SSランクが少ないパーティーに“メタモルコピーウェポン”を渡しておくか」
「それらの条件を満たすパーティーってあります?」
私の尋ねに、渋い顔になる二人。
「まあ、条件満たしてるのはルイーサの所くらいかな。ユリカの所も条件は満たしていると言えるけれど、あそこはSSランクが二つだし」
「じゃあ、私が精錬剣を作れるようになれば、“メタモルコピーウェポン”を譲って貰えます?」
いつの間にか私達の傍へとやってきていたのは、イチカが生き返らせた異世界人、フミノだった。
●●●
「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー」
真夜中、“神秘の館”の寝室で、フミノとの行為を終える。
「……フフ」
俺に跨がっていたフミノが、しな垂れかかってきた。
「どうした?」
「この広い館に、今は私達しか居ないのが不思議で」
他の皆は、安全エリアに張ったテントで寝泊まりしているため、この魔法の家の領域には俺達しか居ない。
部屋の隅に、“透明人間”を使ったユイが居る気がするけれど……黙ってよ。
「……私、貴方と一緒に居るから」
首に手を回され、ギュッと密着される。
……妹のされた事を忘れる。いや、割り切るって決めたって事か。
「ああ、一緒に居てくれ」
抱き締め返す。
彼女は、元の世界への唯一の未練を捨て、俺を選んでくれた。
俺には、フミノの居場所であり続ける責任がある。
その覚悟があったから、受け止めたんだ。
「……キスしよ」
「うん」
重ねられた唇の奥から、僅かに嗚咽が漏れている気がした。
●●●
○巨人の住処:右登りは数。左登りは環境。真ん中は強さ。
「この先は“巨人の住処”。パーティーごとに別れて、ランダムに出現する巨人モンスターと戦うことになるから。気を付けてね」
メルシュのアドバイスを最後に、パーティーごとにそれぞれが選んだルートへと歩み出す。
「私達も行きましょう」
パーティーリーダーのクマムの言葉に従い、僕達は“右登りの数”を選択して進む。
「数は、同じタイプの巨人が複数体でしたっけ?」
僕からナノカに尋ねる。
「そうそう。“環境”と“強さ”に比べると弱いけれど、その分、数が多くて厄介。ていうのが右登りだ余~」
「“強さ”は通常よりも強化された個体で、“環境”は厄介な地理での戦いを強いられるんでしたっけ?」
最近、ちょっと強気になったリエリアからの言葉。
……まさかリエリアにまで、十二文字刻むのを越されるなんて。
いや、前に焦っちゃダメだって自覚したんだし、ちゃんと目の前の事に集中しないと。
でも――僕だって、コセ様と愛の精錬剣を完成させたい!
「ノーザンさん、どうかしたんですか?」
リエリアに勘付かれた!?
「な、なんでもないですよ?」
――突然、空気が変わっ……と思ったら、開けた土と岩肌の景色へと変わっている!
「聞いていた通り、倒さないと先に進めないタイプのイベントみたいですね」
クマムが戦闘体勢へと移行。
「僕だって……」
「で、敵はどこなのよ?」
ナオの疑問に応えるように、僕達の周囲の土がいきなり盛り上がって――
「ああ……私達の敵は、“リトル・ウルリクムミ”か余」
全長五メートル越えの灰石ゴーレムが、私達を囲うように十四体も出現した!