757.魔神・竜殺し
「――“極光支配”」
半透明な光のマント、“オーロラ・オーラ・カーテン”の力で、エレメント系のモンスターを一掃してしまうルイーサ。
「さすがSSランク。マントのくせに殲滅力が凄えな!」
いや、俺が使ってた“ゲイボルグ・ディープシー”に負けてねぇや。
「あれ、安全エリアじゃない?」
アヤナの奴が、森の中にポツンと立ってる赤煉瓦造りの祠を指差す。
祠からは、奥にあるっつうポータルの光が微かに溢れていた。
「今日の攻略はここまでだな」
マクスウェルのフェルナンダが宣言。
「モンスターの出現頻度がえげつないって聞いてたが、ルイーサのおかげで楽だったな」
「ザッカル様はくつろぎ過ぎです」
俺の使用人NPCであるアルーシャに責められる。
「良かったのか? スゥーシャにSSランクを譲って?」
ルイーサからの問い。
「良いさ。元々、スゥーシャの方が相性が良いって話だったし」
ちょっと惜しい気もするが、SSランクは便利すぎて……なんか違うなって気がしてたしよ。
自分でもよく分かんねぇ感覚なんだかけれどさ。
そういや、ユイが“ブラッディーコレクション”を拒んだとき、なんか言ってたっけか? 腐らせるとかなんとか。
「まあ、俺には精錬剣だってあるし、問題ねぇよ」
実際、相性は専用の精錬剣の方が上だしな。
現実的に考えて、この前のクエスト最深部みたいにSSランクが使えなくなることもあるだろうし……精錬剣にも、頼り過ぎねぇ方が良いだろうな。
●●●
「第五十ステージのボスは、魔神・竜殺し。弱点属性は竜、有効武器は無し。危険攻撃は、ランダム装備の竜殺し系武器による竜武術だよ」
早朝、いつものメルシュからの最終講義。
「竜殺し系の武器は竜属性攻撃を無効化するから、弱点属性にこだわって攻撃してると危険だからね」
聞けば聞くほど、矛盾の塊みたいなボス魔神。
「“竜化”や強力な竜属性のサブ職業を手に入れたタイミングで、容赦なく対竜能力を持つボスをぶつけてくるのか……」
コセくんの一言に、大半の人間の視線がジュリーちゃんに注がれる。
「……か、神ゲーだろ?」
解っててあの返答……ジュリーちゃんて、見た目に似合わずオタク気質なのよね。
「ステージギミックは、ドラゴノイド型の小魔神が次々と壁から生まれるというもの。魔神に中途半端にダメージを与えると、小魔神の出現スピードが上がるから」
その辺もいつも通りか。
「それと、昨日説明したとおり、五十ステージからの魔神は“天賦覚醒”で一段階パワーアップしてくるから、本当に気を付けてね」
あれか。聞いただけでも厄介過ぎるパワーアップ。
「行くわよ、カナ!」
「ええ」
ユリカちゃん達と一緒に、魔神・竜殺し戦の初陣を飾る。
コトリちゃんのパーティーにリンカが加わったのもあり、私はバルンバルンちゃんの穴を埋めるため、ユリカちゃんのパーティーに移ることになった。
ボス扉が閉まると、朱色のライン光が暗がりで走り、巨大な石竜人の姿が顕わに。
「得物は、“竜殺しの鎚斧”ですね」
ヨシノからの情報。
「魔神は私が!」
スゥーシャが前に出ると、壁から這いでるようにドラゴノイド型の石竜人が続々と!
「速攻で終わらせるわよ! タマはスゥーシャのサポート! 他は雑魚の殲滅! カナとレリーフェは右側をお願い!」
ユリカちゃんの指示に従い、レリーフェと共に駆ける!
「頼りにしているぞ、カナ」
「お手柔らかに」
過度な期待をされてもね。
「魔法を頼む!」
「了解よ!」
銀黒の杖、“殲滅のノクターン”を突き出す!
「“三重魔法”――“暁光魔法”、デイブレイクレイ!!」
今は朝の五時過ぎ。六時前なら、“殲滅のノクターン”の、夜は魔法の威力を二倍にする効果が適用される!
壁から這い出ていた小魔神の、つかの間の殲滅を完了。
せっかくコセくんが手に入れてくれたサブ職業、“亜流手鍍人名覇砥”の活躍の場は、今回も無さそうね。
●●●
「“深海支配”!!」
無限に生み出せる海水の奔流を六つの槍とし、竜人の魔神へと浴びせる!
これだけでも、魔神の身体に亀裂が生じていく。
「一気に決める!」
右手で握る聖なる銛、“天上の白河を氾濫せしめん”に十二文字を刻んだ瞬間――魔神が黄金のオーラを纏いだした!?
メルシュさんが言っていた、“天賦覚醒”が使用された証!
「しま――」
神代文字による海水の強化を施そうとした瞬間、先程までとは比べものにならないスピードで海水の奔流から逃れ、距離を詰められ――これじゃあ、この前と同じ――また、私のミスで!!
「――スゥーシャ!!」
共振した神代文字から送られてきたタマの思念に、闇に落ちかけた私の意識が引っ張り上げられた!
――武術の暴威を纏った鎚斧の一撃を、“遊泳”による空中ひねりでなんとか回避!
「“蒼穹魔法”――アジュアブラスト!!」
タマの魔法を食らった魔神が仰け反る。
独りで戦ってるんじゃないよって、私も居るよって、タマの強くて優しくて、悲痛な叫びが――私に届く。
「……ありがとう、タマ」
“ゲイボルグ・ディープシー”を手放し、随伴させていた“メダライズ・ハープン”を掴み取り――十五文字分の神代の力を流し込む!
“天賦覚醒”時の魔神は、全ての攻撃ダメージを半分にしてしまう――だったら、そんなの関係ないくらいの大ダメージを叩き込む!!
「“聖水氾濫銛術”――セイントリバーハープンッ!!」
黒い靄に縛られて動きを封じられた魔神の胸に、コセさん達が手に入れてくれた暴虐の鈍色銛が炸裂――魔神の巨体を、粉々に吹き飛ばした。
「ハアハア、ハアハア」
バルンバルンを失って、無力で間抜けな昔の自分に……それ以下の自分になってしまった気がしていた。
ちゃんと、タマもコセさんも、今の私を受け入れてくれていたのに……私が一番、私を……また卑下してたんだ。
「――大好きだよ、タマ」
「私もだよ、スゥーシャ」
空中で抱き合って、クルクルと回りながら、私達は久しぶりにキスをした。いっぱいした。
○おめでとうございます。魔神・竜殺しの討伐に成功しました。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★小魔神・竜人の指輪 ★天賦覚醒のスキルカード
★竜殺しの○○(選択可能) ★竜殺しの天賦鎧
○これより、第五十一ステージの【玉蜀黍の農村】に転移します。




