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754.重圧壊のホーン・モーヴ

「……良いな、この盾」


 ジュリーが買ったホーン族、モーヴは“効能狩りの盾”を気に入ったらしい。


 俺が手こずらされたアルファ・ドラコニアン・アバターが使っていた、武具効果を無効化する盾。


「服は奴隷商館で買えたけれど、その他は間に合わせになっちゃうかな」


 ジュリーが、モーヴの装備品選びを手伝っている。


「得意な得物は?」


 俺から彼女に尋ねてみた。


「ああ、大将。思いっ切り振り回すくらいしか、私にはできないからな。面倒なのよりシンプな物をくれ。重くてデカいやつを」


 割りきってんな、色々。


「……大将?」

「この群れのボスなんだろ? なら大将だ」


 群れって……俺はボス猿か何かか?


「まあ、間違ってはいないか。メルシュ、なんか良いのあるか?」


 アイテム管理をしている、我等が参謀に尋ねる。


「取り敢えず、これらの中からどうかな?」


 ズラリと重量のある長物が、食堂のテーブルに並ぶ。


「……コイツは」


 黒いギラギラの、ぶっとい棍棒を掴むモーヴ。


「……良いな、これ」


挿絵(By みてみん)


 軽く振り回しただけで、ちょっとした突風が起きる。


「“この重圧に堪えきれるか”、か。じゃあ、装備は重力系統で固めるかな」


 次々と指輪や腕輪を実体化させていくメルシュ。


「このレギオンの説明、任せても良いか、ジュリー?」

「うん、了解だよ」


 彼女達から少し離れると、見計らったようにトゥスカがコップで水を持ってきてくれた。


「ペルソナの隠れNPC、出現しませんでしたね」


 五十ステージ、奴隷商館の前にランダムで現れるという隠れNPC。


「既に誰かに取られているのかも判らないのが、なんだかな」


 能力は、コトリが使っている“人格分離”と“二重人格”だって判ってはいるんだけれど。


「やっぱり今日一日は、モーヴがうちに慣れる時間に充てた方が良さそうだな」


「では、私に“名も無き英霊の劍”のコピーを」


 ここ数日、何人かが“超同調”を使ったり使わなかったりで試してるんだけれど……。


 皆が俺以外の誰かと精錬剣作ってるの、なんか……モヤる。


「ユウダイさん!」


 剣を受け取ったトゥスカが離れていった直後、話し掛けてきたのは……ツグミさん。


「今から、私達とお茶しませんか?」


 どうやら面子は、人魚のハユタタ、ピエロのネロ、ミキコ、モーラのリンカの五人らしい。


「良いですよ」


 朝食の直後だけれど、まだあまり話した事ない相手と交流を持つ機会だし。



●●●



 “神秘の館”のエントランスにシートを広げて、お茶菓子や紅茶を皆で用意。


 最初は、主催者である私だけで準備するつもりだったのに……皆、良い人です。


「で、昔、アンタがモテてたって本当なの?」


 いきなりハユタタちゃんがぶっ込んだ!?


「モテ? 別に、この世界に来るまでモテた事なんて無いけど?」

「ツグミが言うには、チョコとかいっぱい貰ってたらしいじゃ~ん」


 ネロさんが悪ノリを……ていうか、情報源が私ってバラさないで! ほら、ユウダイさんが軽く睨んでるじゃないですか!


「貰ったって、全部義理チョコだよ」


 幾つかは本命もあったんですよ。皆の目が恐くて義理って言ってただけで。


「女子からは敬意を払われている感じはしたけれど、別にモテては居なかったと思うけれどな。勉強も運動も得意って訳じゃなかったし」


 他の男子は呼び捨てか君付けなのに、ユウダイさんにだけは皆“さん”づけでしたけれどね。


「……ツグミ、なんか怒ってる?」

「ハユタタさん、私はいつもこんな感じですよ?」

「私は、こんな男がモテてたとは思えないのだけれど? 只のヤリ○ンじゃない」


 ミキコさんの毒舌発言。


「……さすがに、アイツらと一緒にされるのはちょっと」


 コセさんの渋顔……可愛い。


「どういう意味?」

「何人か居たんですよ。同級生と不純異性交遊してたカップルが」

「学校で、しかも中学生が本番行為してたとか、初めて聞いたときは気持ち悪かったな」


 色々、問題児が多い中学校でしたしね。


 まあ、だからユウダイさんは、良い意味で浮いてたんですけれど。


「自分で言うのもなんだけれど、パッとしない学校生活だったよ」


 それで無条件に、年齢問わず人として信頼できる相手と思われてるのがおかしいんですけれどね。


 本当、滲み出ている物の差って凄い。


「じゃあさ、その頃のツグミってどんなだったん?」


 ハユタタさんから、まさかのキラーパス!?


「今ほど垢抜けて居なかったっていうか……授業の途中でよく保健室に行ってたよ。ツグミさんは、一年生の頃は特に過呼吸が酷かったから」


 当時は分からなかったけれど、私の過呼吸の原因はストレスだった。主に家庭からの。


 愚痴ばかりの母に、遊び歩いて散財するばかりの父、ヒステリック気味の生意気な二人の姉。


 自分だけの部屋も無いから、家では常に誰かと一緒で安らげない毎日。


 ユウダイさんと少し話すようになってから、私は不思議と過呼吸に襲われなくなっていった。


「そういえば、再会したときすぐにツグミだって気付いてあげられなかったよね~。酷いなー、ユウダイさんはー」


 ネロさんの含みのある言い方。


「確かに酷いわね。女の子の顔を忘れるなんて!」


 ミキコさんまで煽っちゃう!?


「仕方ないだろう? 本当に垢抜けて雰囲気がだいぶ違ってたし、あの頃はもっと太って――」



「――ユウダイさん?」



 凄く重たい、乾いた声が自然と出てた。


「……すみません」


 珍しく、ユウダイさんが矮小な人間のように見える。



「フフ……ユウダイさん――私と結婚してください」



 スッと、言葉にしていた。


「……もう結婚してる……よ?」


 この人、解ってて言ってますよね?


「コセ、あんた……」

「今のは無いわー」


「「……」」


 座して黙しているミキコさんとリンカさんを尻目に、私は追い打ちを掛ける。


「貴方と、正式な夫婦になりたいんです」


「……何十人も居るのに? 本当に俺で良いのか?」

「今更過ぎる問いです。とっくに覚悟は出来ています」


 事前にメルシュさんから聞いていなかったら、再会時にとんでもなくショックを受けてたとは思いますけど。


「大丈夫です! トゥスカさんを立てるようにしますから♪」


 実の姉達と比べれば、このレギオンの人達は接しやすくて気が楽ですし!


「コセ、返事しなさいよ!」


 ハユタタさん、大事な所だからユウダイさんを急かさないでください!


「……今夜、寝室に呼んでも良い?」

「――はい!」


挿絵(By みてみん)


 ちょっと下品な返事な気もしますけど、抱くという行為にユウダイさんが重い感情を抱いているのは解ってる。


 だからこの瞬間、私を、ユウダイさんの人生の大部分に受け入れてくれた事が解って、とっても嬉しいんです!


「やっぱり天然だ、ツグミって」


 ネロさんが何か言ってる。


「ミキコ。私達は、いったいなにを見せられてるの?」

「……さあ」


 リンカさん達と私の心の温度差が凄い事になってそうだけれど、今はどうでも良いです♡♪


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