753.精錬剣の新たな可能性
“マスターアジャスト”を入手した日の午後、希望者は“マスターアジャスト”を用いた訓練をする事になったものの、俺の場合は専用SSランクがあるのもあり、そっちには参加しない事にした。
「守護の名の下に排せ――“雄偉なる銀翼の凶兆極右”!」
「守護の名の下に黙せ――“雄偉なる銀翼の吉兆極左”!」
銀の片翼の大剣が二振り、この手に顕現する。
「やったな、アヤナ、アオイ」
「き、キッツ!」
「これを維持しながら戦うとか……やば」
二人とも、手こずったからか大分辛そうだ。
「慣れれば、案外どうとでもなるよ。持ってみるか?」
二人に渡して間もなく、共鳴精錬が解ける。
「「ハアハア、ハアハア」」
同時に座り込むアヤナとアオイ。
「これ、まだ暫くは特訓が必要ね」
「もう、一人でも精錬剣できるかな?」
アヤナもアオイも、随分とやる気だな。
「……ねー、共鳴精錬てコセとしかできないのかしら?」
妙な事を言い出すアヤナ。
「そりゃあ、俺専用のSSランクだし」
「試してみましょうよ、アオイ!」
「姉ちゃんにしてはナイスアイディア」
二人が立ち上がると、アオイが自分のコピー剣を押し付けてくる。
「いやお前ら、“超同調”も無いのに」
「「双子なめんな」」
お前らが双子みたいに言動が一致しているとこ、今初めて見た気がするんだけど?
――二人の意識が、滑らかに同調していくのが判る!?
「「重ね羽ばたけ――“開闢光線の水銀鳳凰導”!!」」
俺と作った剣よりも、明らかに豪奢で力強い剣が……生まれてる。
「……本当にできた」
「だ、だから言ったじゃない!」
お前らも驚いてるじゃん。
「これ、結構とんでもない事になるんじゃ……」
それから三日に渡り、“マスターアジャスト”などの新しい武具を用いた戦闘訓練と、他に共鳴精錬を成功させられる者が居ないかの検証が行われた。
●●●
「よし、出発するぞ!」
コセさんの合図を機に、《龍意のケンシ》メンバー全員で、五十ステージの攻略を開始する!
【竜王の御霊山】の地下四階、竜化の社を越え、とうとう地下五階、洞穴部分へと踏み出す。
「そろそろ来るぞ」
ジュリーちゃんの合図を見計らったように、様々なタイプのリザードマンが出現。大挙して襲い掛かってきた。
「“パラディンリザードマン”が居るな」
コセさんが、白い鎧を着込んだ一匹の指揮官の存在を指摘。
「そういえばアイツらって、前に、本来は五十ステージより上に出るって言ってたっけ」
ナオちゃんが、魔法を放ちながらそう口にしている……。
「サトミさん達って、“パラディンリザードマン”に遭遇したことがあるの?」
「ええ。コセさんが初めてアルファ・ドラコニアンを倒した時に、いっぱい現れたのよ。十なんステージの時だったかしら?」
決して強くはないけれど、能力による攻撃を一度だけ無効化する“パラディンリザードマン”は、プレーヤーにとって面倒な相手。
そんな面倒なのが、そんな浅いステージで大挙して……そんな面倒で理不尽な突発クエストを何度もこなしてたら、そりゃコセさん達が規格外の強さになるわけだよね。
「“射出”――“切糸化”」
指先から放った糸で、能力無効に関係なく“パラディンリザードマン”の首を落とすリンカちゃん。
私達と行動を共にする事に納得してくれたみたいだけれど、まだあんまり話せてないから、どういう娘なのか把握できてない。
「次が来たぞ!」
リザードマンの集団を一蹴して間もなく、次はアルファ・ドラコニアンのような屈強な赤い竜人、“ドラゴノイド”が十体以上出現。
「ウララ、頼む!」
コセさんの求めに、ジュッと心の奥から熱さが込み上げる!
「――“竜の子守唄”」
効果を発揮した本のタイトルは、“竜の眠り歌”。
この前の大規模突発クエストの戦利品で、竜のモンスターを眠らせる、竜特効の魔道書。
おかげで、シンプルに強い“ドラゴノイド”を簡単に無力化。皆が、眠った敵をさっさと掃討してくれる。
「楽すぎて恐くなっちゃうなー」
「そんなにですか、ウララ様?」
狸獣人のカプアに尋ねられる。
「ドラゴノイドって、竜殺しの武器が無いと、オリジナルでは本当に厄介だったから」
強い上に、集団で現れるのが当たり前だし。
「あれって……」
地下五階を暫く進むと、巨大空洞の底に安全エリアが広がっていて……オリジナルプレーヤーである私でも知らない建物が、いきなり出現した!?
「これって……なんの建物なの?」
和風中華って感じの、円柱状の建物。
「ホーン族専用の奴隷商館だよ」
メルシュちゃんからの暴露。
思わず、レギオン唯一のホーン族、エトラちゃんの顔色を窺ってしまう。
「そんな顔をされる謂われはないぞ、ウララ」
「ご、ごめんなさい」
どんな顔をしてたんだろ、私……。
「この安全エリアまで来ると引き返せなくなるから、大規模突発クエスト前に来るのを控えてたんだよね」
「そうは言うが、クエスト前に戦力を増やしても良かったんじゃないか?」
メルシュちゃんの言葉に反応するエトラちゃん。
「三日間も極限状態で一緒に過ごすとなると、新参者を加えては、お互いにしんどいんじゃないかしら?」
クエストに急遽参加することになったリンカちゃんからの指摘には、とても説得力があった。
「俺もそう思って、無理して進まない事にしたんだ。今回のクエストでますますLvに差が開いただろうから、そこは痛いけれど」
コセさんの発言。
「まあ、ホーン族って我が強い奴が多いからな。それで正解だったと思うぞ」
意外なエトラちゃんからのフォロー。
「どうする? 覗いてく?」
「全員では手狭でしょうし、パーティーリーダーだけで見てきてはどうでしょう?」
ドライアドのヨシノさんからの提案。
きっと、モモカちゃん達を建物に入れないための方便なんだろうな。
「そうだな。皆は、魔法の家に戻って朝食の準備でもしててくれ。パーティーリーダーの隠れNPCは、外で見張りを頼む」
相変わらずのテキパキとしたコセさんの指示。
「お気を付けて、ウララ様」
「うん」
オリジナルには居なかった種族、ホーン族か……。
●●●
「結構、居るな」
私の言葉に反応するように、牢の中の全員が一斉に睨みつけてきた。
「いらっしゃい。女が手前、男は奥だよ」
NPCの老婆が話し掛けてくる。
「ホーン族の男は、基本軟弱だ。女の方が腕力も精神力も強いぞ!」
付いてきたエトラが、デカい声で宣言。
「さて、どうやって見極めるか」
「簡単だ。私がボス流の勧誘法を見せてやる」
コセの言葉に、意味深な返しをするエトラ。
「――お前ら、死ぬ気でこのゲームから抜け出したい奴は名乗り出ろ! 私達が連れてってやる!!」
バカでかい声で……ていうか、あんまりたくさん名乗り出られても……。
「「「――うるせー!!」」」
牢の中の全員から殺気を向けられる!?
「で、こっから出たい奴は居ねぇのかよ?」
「「「……」」」
「フン、腰抜け共が」
私なら、絶対に付いていきたくないけれど……。
「それにしても……」
ホーン族って、角の数も皮膚の色もバラバラなのが当たり前みたいだね。大半が一本角か二本角。
「……」
牢の中で、静かに鎮座するホーン族が一人。
二本の角に、緑色の皮膚を持つ金髪の女性。
人間離れした皮膚の色は、彼女くらいか。
「……何か用か?」
「……子供って好き?」
「は?」
変な物を見るような視線を向けられる。
「私の名前はジュリー。私に買われて欲しい」
タマを買ったときと同様、ほんの少しだけ、運命的な物を彼女に感じた。