表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
809/956

752.マスターアジャスト

 寒さの厳しい山の麓、ホーン族の男と人魚の女性が、一人の女の子と共にヒッソリと暮らしていた。


 女の子が十を超える頃には、両親は身体を壊して他界。


 山で一人、女の子は数年の歳月を過ごし――デルタと呼ばれる一団によって捕まり、ダンジョン・ザ・チョイスに奴隷として送り込まれる。


 それが、俺が“超同調”を使った際にリエリアの中で垣間見た、彼女の生い立ち……。



           ★



「うわ……凄い匂い」


 聞き慣れない声に、意識が覚醒していく。


 暗いベッドの隣では、リエリアが静かに寝息を立てていた。


 ガチャリとドアが開くと、そこから山猫獣人のサンヤが顔を覗かせる。


「……やっぱりヤってたすっか」


挿絵(By みてみん)


「ああ……ごめん」


 彼女とはそういう関係じゃないのに、見苦しい物を見せてしまった。


「別に良いっすよ。私もそのうち抱いて貰おうと思ってるし」

「へ?」

「そんな事より、もう夕方っすよ」

「そんなに?」


 昼飯も食べずに、何時間ぶっとうしでリエリアを開発していたのだろう?


 ……甘やかされるままに、夢中になりすぎた。


「モモカとバニラがこの船に近付くのを止めるのに、みんな苦労してたっすよ」


「ああ……助かったよ」


 結局、途中で遊ぶのをすっぽかした形になっちゃったか。


「リューナ達はどうなった?」


 NPCやジュリー達と一緒に、SSランクの申請権を使った新しいSSランクのアイディアを練っていたはず。


「あんまり上手くいってなかったっぽいすけど、今は四度目の審査待ちらしいっす。今回は審査時間が長いから、たぶん通るだろうって」


 上手くいけばSSランクを半永久的に数十種類、手に入れたようなものだけれど……どうなるかな。


「……シャワー浴びたいから、ボートから出ていてくれない?」

「気にしなくて良いっすよ?」

「いや、気にしろよ!」


 ここのシャワールームは丸見えの硝子張りだし!



           ★




「狂い殺せ――“雄偉なる氷獄の狂乱仁義”」



 リエリアと結ばれた次の日、早朝からリンピョンと共鳴精錬を試していた。


「これが、私とコセの……」


挿絵(By みてみん)


 黒と青に彩られた狂気の剣を見詰め、呆けている兎獣人。


「やりましたね、リンピョン!」

「あ、ありがとう、カプア」


 新たに十二文字刻めるようになったカプアとも、共鳴精錬は成功。


「ギオジィ! 私ともやろうよ!」


 雪豹獣人のクレーレが乱入してきた!


「いや、それは……」

「私だって十二文字刻めるもん!」


 それはそうだけれど、“超同調”が精神セックスするような物と言われてからは、十五にもなっていないクレーレはちょっと遠慮したいというか……。


「ノゾミ姉だって、そう思うよね!」

「へぇ!?」


 背後に隠れるように佇んでいたノゾミが、急な名指しに慌てふためく。


「ノゾミさん、十二文字刻めるようになったんですか?」

「はい、この前の大規模突発クエストの時に……」


 精神セックスの件、ノゾミさんも知っているから、あんなに赤面してるんだろうな。


「あの、無理しなくて良いですからね」


 付き合ってもいない相手と、精神セックスするのはさすがに気が引けるし。


「……まあ、そうですけど」


 なんだ、そのどっちとも取れる微妙そうな反応は。


「コセ! 例の申請が通ったぞ! 実物も届いた!」


 リューナやジュリー達が駆けてくる。


「それで、どんな性能になった?」


 なかなか上手くいかないから、当初とは随分違うコンセプトになっていったらしいけど。


「そうだな。まずは見てくれ」


挿絵(By みてみん)


 手の平の上に乗るサイズの……銀パーツ?


「コレの名前は、“マスターアジャスト”」


 説明しながら、リューナが青いサブ職業メダルをセットした?


「今セットしたメダルは、“逢魔魔法使い”。そしてコレを――」


 リューナが自分の剣、“終わらぬ苦悩を噛み締めて”に押し込み――呑み込まれていく!?


「行くぞ――“逢魔支配”!」


 夕暮れを思わせる不気味な闇が剣から噴出し、球体、槍、斧のような形状になったのち、消失する。


「……SSランクの支配能力を付与したのか!」

「最初は精錬剣、“ディグレイド・リップオフ”が半永久的に手に入るSSランクを作ろうとしたんだが、なかなか上手くいかなくてな」

「途中で、普段から剣を使わない人間には、精錬剣より使い慣れた武器の方が良いよねとなってね」


 リューナの補足をするジュリー。


「なら、使い慣れた武器を、実質SSランク化してしまえば良いって事か」

「当然、制約もありますの」


 ネレイスの隠れNPC、サカナが語り出す。


「セットできるサブ職業は属性系統がある物のみで、セットする武具に属性系統がある場合、同じ属性系統のメダルしかセットできないんですの」

「なるほど。汎用性がある分、他のSSランクと比べると支配能力に特殊性は無いと」


 それぐらいの制約が無いと、さすがに万能過ぎるか。


「もう一つ、EXランクは同化の対象外だからね」


 この間までなら、大して気にならなかった制約だな。


「ただし、“レギオン・カウンターフィット”同様、“ディグレイド・リップオフ”でコピーしても能力は損なわれないぞ!」


 ジュリーの言うとおりなら、NPC以外は、使いやすい専用のSSランクを手に入れられるような物なんじゃ……。


 ますます、“ディグレイド・リップオフ”を集める必要が出て来たな。


「凄い物を作ったじゃないか」


 リューナの頭を撫でる。


「……恥ずかしいぞ♡」

「コセ。私やメルシュ、コトリだって意見を出し合ったんだぞ!」


 珍しいジュリーのやきもちアピール。


「はいはい」


 ジュリーの頭も撫でる。


「ところで、メルシュとコトリは?」

「ああ、コトリがメルシュを呼び止めてたな」


 コトリが?



●●●



「ハアハア、ハアハア」


 日課のランニングを終える。


「精が出るね、ケルフェ」


 コトリが近付いてきた。


「その手のカードは?」

「“超同調”のスキルカードだよ。この前のクエストで、何枚か手に入ったんだってさ」

「わざわざ貰ってきたのですか?」


「ちょっと、面白い事を思いついたから」


 そういう割に、コトリの表情は浮かない。


「悩みがあるなら、この前のように聞きますよ」


「……恐いんだよね、コセさんと“超同調”で繋がるの」

「両親を殺したことを知られるのがですか?」

「うん、まあ……」


 説明が難しい類ですか。


「私に“超同調”を使ってみますか、コトリ?」

「……良いの?」


 それが目的で、カードを貰って私のところまで来たのでしょうに。


「使ったが最後、貴女は私の嫉妬深さを目にする事になるでしょうが」

「ケルフェの嫉妬なんて、可愛い方だと思うけれどね~」


 少しは気が晴れましたかね、コトリ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ