750.集結する戦利品
庭園にて、三つのレギオンメンバーが再び集まり、それぞれリーダーが円卓に着く。
「クエスト終了早々、集まって貰ってすまない」
アテルからの言葉。
「構わない。早々に訊いておきたかった事もあるしな」
珍しく、キクルが仮面を付けていない。
「キクル、左眼、どうかしたのか?」
派手な火傷痕は古傷だろうが、何故かずっと左目を瞑ったまま。
ていうかイケメンだな。痛々しい火傷痕すら格好良さに生かされてる。
「……訳あって自分で潰した。気にするな」
「そ、そうか」
いや、気にするわ! 自分で潰したってなんだよ!
「各々の戦利品を出してくれ」
「その前に、10000KPと引き換えに手に入るSSランクはどうするんだ?」
キクルからアテルへの問い。
「そっちは分配に含めなくて良いよ。EXランクと引き換えたい人も居るだろうし」
EXランクと? まだチェックしてないんだよな、交換用のアイテム一覧。
「それじゃあ僕から。道中で手に入れた“プロメテウス・フォティア”と“マグネット・ジオアームズ”」
アテルが実体化させたのは、紅蓮のクラブと銀の……双剣? いや、両端に刃が付いた槍か?
「俺が敵から奪ったのは、“ラブコメ・アンジュレーション”」
ラブコメ……やめよう、突っ込むのは。
「俺達からは、“ケラウノス・ミョルニル”」
ジュリーがプレーヤーから手に入れた、小さな雷鎚。
本当なら、ここに“アルティメットハフト”と“エンド・オブ・ガイアソード”も並んでいるはずだったのに。
「続いて、最深部エリアで回収したSSランク、6番エリアの“ゾディアックサイン”。11番エリアの“サンダラス・クリムゾン・ディザスター。12番エリアの“デスティニー・エンドマーク”」
黄金と銀の螺線杖に、赤と黄色の大斧、そして灰色の機械の翼か。
「9番エリアの“マナ・ソリッド・ロッド”」
キクルが出したのは銀の杖……それとも棍棒?
「1番エリアの“マッドフラット・クレヨン”、2番エリアの“オーロラ・オーラ・カーテン”、5番エリアの“アメダス・ウェザー”、7番エリアの“フラクタル・カオス”」
茶色いクレヨンにオーロラ色のマント、白い王冠に、白黒の三角型大剣を提出。
「全部で十二。ちょうど割り切れる数だね」
「選ぶのは、日高見、龍意、白面の順か……」
キクルには悪いけれど、平等に数を分配できるなら、順番を譲るつもりはない。
「では、まずは僕から。“デスティニー・エンドマーク”」
「“ケラウノス・ミョルニル”」
「……“ラブコメ・アンジュレーション”」
それぞれの使用人NPCが、名指しされたSSランクを俺達の元に引き寄せる。
各々、自分達が手に入れた物の中から選んだか。
「次、“サンダラス・クリムゾン・ディザスター”」
「“オーロラ・オーラ・カーテン”」
「“マナ・ソリッド・ロッド”」
またもや、自分達が手に入れたSSランクを選択。
まあ、事前に判明しているSSランクの中から、欲しい物を優先して選ぶのは当たり前か。
「三周目。“マグネット・ジオアームズ”」
「“フラクタル・カオス”」
「……“アメダス・ウェザー”」
ライブラリを見て判断していたな、キクルのやつ。
「四周目。“ゾディアックサイン”」
「……“プロメテウス・フォティア”」
「なら、“マッドフラット・クレヨン”か」
最後は消去法で選んだ感じになってしまった。
「それじゃあ、これでSSランクの分配は終わりだね――ここで提案なんだけれど、不要なSSランクを交換する気はないかな?」
アテルからの意外な言葉。
「実は、持て余しているSSランクがあってね」
そう言って実体化したのは、真っ白な一冊の本。
「“フリースペース・ブック”。本物のSSランクだよ」
アレが、《日高見のケンシ》が所有するSSランク、未確認だった二つのうちの一つか。
「なるほど。“白紙支配”は、確かに使い手を選ぶね。けど――」
メルシュの目が、手に入れろと訴えかけている。
「……俺達から出せるのは、“プロメテウス・フォティア”くらいだ」
他は、既に使い手に目星を付けているから。
「俺たちからは無い」
ライブラリを確認した上で、キクルは“フリースペース・ブック”に興味を示さなかった。
「ふむ……まあ、悪くないかな」
「交換成立だな」
こうして俺達の報酬分配は無事に終わり、各々が情報交換を行ったのち、解散となった。
★
「ファーぁ……どうしたの、こんな朝早く?」
ユリカが派手な欠伸をしている。
「ちょっと、大変な事実が発覚してな」
俺もメルシュ達NPCにたたき起こされて、食堂にモモカとバニラ以外で全員集合したわけだけれど。
「実は、10000KPと交換できるSSランクが、三十三種類しか用意されていないことが発覚してね。しかも、早い者勝ちみたいなんだよね」
メルシュから簡潔に、直面している問題が説明される。
「つまり……急いで選ばないとKPの貯め損ということ!?」
慌て出すジュリー。
「全員、まずは交換用のチョイスプレートを開いてくれ」
○以下から自由に10000KPと交換できます。
◎パーマネント・パーパス・コーン 玉蜀黍支配
●ルドラ・シヴァー 暴風支配
◎フリーダム・トゥルーセイヴァー
●ジャスティス・アルスランザー 正義支配
◎アトリエ・コンポジション 調合支配
●アナイアレーション・パペット 人形支配
●インプロビゼーション・フォートレス 要塞支配
●ディメンションダウン 低次元支配
●エアポート・バックウェポン 航空機支配
●アライブ・ザ・スラッシャ 生命支配
●パンツァー・ゲーエン 戦車支配
●サモン・ゴッド・ライガ 召喚支配
●ヴェアヴォルフ・ザイン 人狼支配
●ポリティカルコレクトネス 表現支配
●ゴーレム・アルケミスタ 傀儡支配
●クラック・スプリット・キューブ 鋼鉄支配
●リバイブハート 蘇生支配
◎マス・ホログラフィック 有象支配
●タシロ・イオマンテ 宿神支配
●フリズスキャルヴ 視界支配
●エンペラークラウン 王権支配
●スペシャル・ハーツ 特別支配
● SSランク申請権
◎ SSランク申請権
● SSランク申請権
● SSランク申請権
● SSランク申請権
● SSランク申請権
● SSランク申請権
● SSランク申請権
● SSランク申請権
◎ SSランク申請権
◎ SSランク申請権
「◎が、まだ誰にも取られてないSSランクだよ」
「もうほとんど取られちゃってるじゃん!?」
メルシュの言葉に、ハユタタが慌て出す。
「俺達の中で、10000KPを貯められているのは四パーティー」
俺、リューナ、ルイーサ、ツグミがリーダーのパーティーのみで、コトリとユリカのパーティー以外は八千から九千台となっていた。
「急いで選びたいところだけれど……メルシュ、この“SSランク申請権”て?」
「自分達で、SSランクを一つ作れる権利みたいだね」
「じゃあ、理想のSSランクが作れちゃうのか!?」
ジュリーが食い付いた!
「見た目とか能力を決めて、それを提出。審査を通ればSSランクの現物が貰えるって流れみたい」
「それって、審査を観測者側が通さなければ、永遠に手に入らなくなるのでは?」
スゥーシャの鋭い意見。
「その点は大丈夫。審査はトライアングルシステムが担当するから、第三者の意向で邪魔される心配は無いよ」
「そう……ですか」
スゥーシャ……バルンバルンの件、まだ暫くは引き摺りそうだな。
「質問なんだけど、この“フリーダム・トゥルーセイヴァー”だけ支配能力が載ってないのはなんなんすか?」
山猫獣人のサンヤの指摘。
「理由は判らないけれど、考えられるのは“レギオン・カウンターフィット”みたいな特殊なタイプだからなのかも」
“レギオン・カウンターフィット”は、レギオンメンバーが持つ他のSSランクの見た目と性能をコピーする能力のため、特定の支配能力を持たない。
「う、売れ残っているのを見ると、へ、変なのばかりですね」
カナの言うとおりで、強そうだったり、イメージが掴みやすい名前や支配能力のSSランクは全然残っていない。
「どうする、マスター?」
メルシュに選択を迫られる。
「……各々のパーティーが決めて良い」
と言うだけでは無責任だよな。
「ただ俺は――“マス・ホログラフィック”を選ぼうと思う」