748.第三回大規模突発クエストの終幕
第三回大規模突発クエストをクリアし、“神秘の館”の食堂へと戻ってきた俺達。
「……夕陽……か」
約三日、日を浴びない生活をしていたのだと実感させられる。
○クエスト報酬は、クエスト開始から丸三日後にお渡しします。
どうやら、暫くは戦利品の確認はできないらしい。
「お帰りなさいませ、大旦那様」
挨拶をしてくれたのは、サトミの使用人NPC。
「出迎え、ありがとうな」
「フー、疲れたねぇ~」
身体を伸ばすシューラ。
「水、持ってきますよ。ご主人様も要ります?」
「トゥスカ様、そういった事は私どもがしますので!」
サトミの使用人NPCがキッチンへ。
「お帰りなさいませ」
続いて現れたのは、イチカの使用人NPC獣人、ニャモ。
「モモカちゃんとバニラちゃんは、ヨシノ様やスゥーシャ様とお夕寝中です」
「まだ帰ってきていないのは?」
「大旦那様方が最後です」
「……全員、無事に戻ってきたのか?」
流れた沈黙が、酷く重く感じた。
「――バルンバルンさん以外は、全員無事に帰還なさいました。怪我をした方は既に治療済みですので、そちらはご安心を」
「……解った。ありがとう」
「大旦那様達の帰還、皆様に伝えてきますので、これにて失礼いたします」
ニャモが出て行く。
戻らなかったのが、肉体関係が無かった隠れNPCだと分かって、少し安堵している自分が居る。
「ご主人様……」
「皆に、顔を見せに行ってくるよ」
「私は、同盟レギオンと連絡を取ってみる」
メルシュは淡々としているな。
「ああ、頼む」
リビングを始め、各々の部屋を訪ねに行く。
★
「スゥーシャ、今日は激しかったですね」
隣で寝るタマが話し掛けてくる。
話題の主であるスゥーシャは、俺の胸の上で寝息を立てていた。
「だな」
スゥーシャは思っていたほど気落ちしてはいなかったけれど、まさか、バルンバルンが居なくなってしまった事をさほど悲しくないと感じた自分に、憤りのような感情を抱いていたとは。
「……すみません、途中でリタイアしてしまって」
失格という名の棄権をしたのはタマ達のパーティーだけだから、余計に気にしているのか。
「その状況なら、俺だって同じ決断をしたさ」
「コセ様なら、きっとあれくらい切り抜けてます!」
なぜそこは強気?
「言っただろう、生きて戻ってくるのが第一目的だって。それに、装備だって没収されてないんだろ?」
誰もSSランクを回収できなかったエリアのプレーヤーは、Aランク以下のアイテムを全て没収されるらしい。
「朝の四時になるまでは、なんとも……」
「たとえどっちだったとしても、タマ達はちゃんと帰ってきた。だから、それで良いんだよ。俺にとっては」
「……はい」
★
○第三回大規模突発クエストの終了をお知らせします。
04:11、チョイスプレートに通知が届いた。
「……おお」
一気に戦利品獲得の表記が。
「……やっぱり、“エンド・オブ・ガイアソード”は無しか」
イズミとかいう女に、実質SSランクが二つ渡ったと見た方が良い。
個人がSSランクを三つ以上所持しているような物とか……今回の大規模突発クエスト、あの女のために開いたわけじゃないだろうな。
「コセ、アイテムの没収は無かったわ」
ユリカからの報告。
「良かったな」
「ええ……でもこれって、私達以外の誰かが、4番エリアのSSランクを手に入れたって事なのよね……」
「皆の話を総合するに、どのエリアにもアルファ・ドラコニアンは一体しか配置されてなかったみたいだし、最大の障害を排除したユリカ達がMVPだよ」
「なによそれ、慰めてるつもり?」
とか言いながら、少し気楽になってそうなユリカ。
「……ユリカ?」
なんか、急に抱きついてきた!
「……今から……ダメ?」
今日のユリカ、マジで可愛いんだが!
「昨日はスゥーシャ達に譲ったし……その♡」
「朝っぱらからお盛んね~」
現れたサトミに茶化される。
「ちょ……もう、サトミ!」
「リビングで押っ始めるのはさすがにダメよ~、ユリカちゃん♪ モモカちゃん達に見られちゃうかもしれないんだから」
「そ、そうね……コセ、お風呂行かない?」
「……そうだな」
朝から、ユリカの期待に応えようか。
「あ、マスター。アテルから、この前と同じ時間に、さっそくSSランクの分配がしたいってさ」
本当にさっそくだな。
「解った。返事は頼めるか?」
「うん、マスターはノルマの達成、頑張ってね~」
良い笑顔で出て行くメルシュ。
「……ノルマってなんだよ」
いや、解ってるけれどさ。久しぶりに再会したとき特有のノルマだって事は。
◇◇◇
『結局、全てのエリアのSSランクを回収されてしまいました。申し訳ありません、オッペンハイマー様』
アルバート君からの謝罪。
『何を言うんだい、アルバート君。私に言わせれば、上々の結果だよ。視聴率も凄いことになっていたしね』
視聴率など本来はどうでも良いのだが、私にとって上々の結果になったのは事実。
用意した模造神代文字の武具、三百のうち、二百以上がプレーヤーの元へと渡った。
だが、それ以上に喜ばしかったのは――ククククク!!
『今回の件で、ベータ・ドラコニアン製造の許可も下りてね。アルバート君にはこれから、プレーヤーに模造神代文字の武具をできるだけ多く与えて欲しい。君は第一ステージの担当だから、とても重要だよ』
『了解いたしました。これからも、なんなりとお申し付けください』
心にも無いおべっかをほざくのは、低周波人間の特徴そのものだな。
『あの……オルフェは、どうなったのでしょう?』
『……そんなことを聞いてどうするのかな?』
『いえ、少々気になっただけで……』
中途半端な情けか、くだらないなぁ。
『まだ生きているよ。彼女には、いずれ役に立って貰うつもりだからね』
だから――まだまだ、ジックリと折らねば。
まさかこの運営の中枢に、あれだけ気高い人間が潜り込めるとは……フフフ、驚かずには居られなかったな。
『ではアルバート君。今回のような大規模な企画を新たに企画してくれること、期待させて貰うよ』
『ぜ、善処させて頂きます……』
中途半端に堕ちきって居ない方がまだ優秀なのだから、低周波人間共は面倒だ。
家畜化した日本人を、完全に殺処分できない理由でもある。
だからこそ、搾取体制で念入りに飼い殺しにしてやっているわけだが。
『それでは、私はこれで失礼させて貰うよ』
さあ、次はどんな手でケンシ共を追い詰めるか。